俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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[挿話] そして彼は自覚する

第十七話 蛇女戦(下)

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「西へ一キロ進んだところか」

 柚彦は残りの隊員全員を一度入口に集合させ、部隊を四つに分けた。
 十五名いた隊員達は十四名に減っている。
 メドゥーサのいるであろう場所を目指して、四方向から接近し、一度に全員の隊員がその目で見られることを避けるようにするのだ。
 更に、飛び道具を持つ須藤隊員と立花隊員は、初見でメドゥーサに見つかることを避けるため、可能な限り後方へ置いている。
 
 柚彦は、おそらく自分はメドゥーサの視界に入り、この身体は石化してしまうだろうと考えていた。
 メドゥーサの首を、恐らく最も俊敏に動いて、跳ね飛ばせるのは、部隊の中で自分しかいない。
 しかし、恐怖はなかった。

 こんなときなのに、やはり、石化してしまった自分を前に、秋元がため息まじりで「もう、仕方がないな」と言いつつも状態異常回復ポーションを使ってくれると信じていたからだ。
 部隊の者達には、メドゥーサの首をただちに回収して、すぐに現れる二人の姉妹の前にかざして、姉妹達を石化させるように命じている。
 その後は、石化した隊員達全員を一時その場へ置いて、このダンジョンを出るように
 自分の命令があったと言えば、マスコミ連中に、石化した隊員を置いてダンジョンを脱出することを責める者達はいないだろう。そんなことまで考えていた。
 だいぶ、マスコミの言動に毒されてしまっていると柚彦は内心苦笑しながら思っていた。


 四つの部隊に分かれ、じりじりと西方のメドゥーサがいるであろう場所に近づいていく。
 そして遠くで悲鳴のような叫びが聞こえた。

「発見しました!!」
「発見です!!」

 一つ目の部隊が不運にもメドゥーサの目の前にちょうど現れてしまったようで、四人の隊員達は足を止め、その身がみるみる石化しはじめている。発見の声を聞いて、メドゥーサの東方にいた立花隊員は銃を構えた。
 それよりも先に、メドゥーサの左太腿部に弓矢が突き刺さった。彼女の身体が大きく跳ね飛ばされ、彼女はそれでも身を起こす。怒りに満ちた視線は弓矢が放たれたであろう方角を睨みつける。
 そのメドゥーサの身体の胴体が、今度は激しく銃撃を受けて前めりに倒れる。
 それでもメドゥーサは立ち上がり、今度は銃弾が撃たれた方向に顔をやろうと上げた時、佐久間柚彦は剣を一閃させた。
 メドゥーサの黄色い瞳は、現世勇者の柚彦の目を一瞬、見つめた。
 一メートルも離れていない、至近距離である。
 そしてその首は、くるくると剣で跳ね飛ばされ、地面に落ちたのだった。

「早く回収しろ」

 柚彦は剣を地面に放りなげる。剣まで石化してはたまらないからだ。

「佐久間リーダー!!」

「私は石化する。その頭を拾って、目を見ないようにしろ。姉妹を倒した後は布でくるんで誰も触れられないように封印処理をしておけ」

「わかりました」

 隊員達は落ちた剣と、メドゥーサの頭を恐る恐る拾い上げる。
 そして石化が始まっている佐久間柚彦を、どこか痛ましげに見つめた。
 後方で銃による狙撃をした立花が、茂みから転がるように現れた。

「佐久間リーダー!!」

「あとのことは須藤と立花両隊員の命令に従うように。……そして、秋元さんに」

 ふっと彼は少しだけ困ったような顔で笑った。

「秋元さんにも、伝えておいてください」

「何を!?」

 そう須藤と立花が柚彦に声を掛けたところで、残念なことに彼の石化は口元までやってきて、そして彼は白い石に変わってしまったのだった。


 頭を失ったメドゥーサの首から真っ赤な血が、海のように地面に広がり黒い染みを作っている。その大量の血の中から、ボコボコと音が聞こえ、漆黒の翼ある馬が、頭をもたげる。赤い目をした黒い馬。その馬の背には二人の女がしがみつくようにしている。

 不死者の姉妹。

 その話は、石化することなく残った隊員達はよく聞いていた。
 だからこそ、冷静にメドゥーサの頭を二人の姉妹に向けることが出来た。
 そして呆気ないほど簡単に、漆黒の馬もろとも、不死だとされる姉妹も石と化したのだった。
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