俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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[挿話] そして彼は自覚する

第十六話 蛇女戦(上)

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 六十二階層へ続く扉を見つけることに、時間がかかった。
 見つけ出したのは、ドラゴンを倒した日から二日経った昼である。
 
 以前、佐久間柚彦は、秋元から新橋のダンジョンで、モンスターラッシュが発生するまでの時間について聞いたことがあった。
 あの時彼は、経験から来る勘から、三、四日の猶予はあるだろうと述べていた。
 通常のダンジョン踏破と違い、今回、大岩で退路と補給を断たれた状態での踏破である。秋元が話す以上の時間的猶予を与えて欲しいものだった。
 しかし、急ぎ六十二階層の踏破もしなければならない。
 佐久間柚彦は、十四名の隊員達を呼び、自分が考えた荒っぽい計画を話し始めた。


 まず隊員達に、六十二階層に居るであろう蛇女とその姉妹達について話をした。
 無数の蛇の生えた頭を持つメドゥーサと、彼女を倒すことによって現れる不死の二人の姉妹。
 メドゥーサと目が合った者は、石化の呪いがかけられる。
 よって、過去の伝説では、メドゥーサを倒した勇者ペルセウスは、メドゥーサの石化能力のある目を見ること避け、盾に映し出した姿を見ながら戦ったとされている。
 新橋ダンジョンでは、小型カメラをヘルメット上部に付け、直接目でメドゥーサの姿を見ることのないようにして戦った。今回はその作戦を使うことができない。そしてドローンで、メドゥーサのいる位置を事前に知ることも出来ない。

 そのため、柚彦は、ある程度の人数の隊員達が石化状態になることを覚悟するしかないと割り切っていた。

「機密ではありますが、前回、石化した隊員の状態異常を解除した薬がまだ十本以上残っています」

 異世界から光少年が持ち込んだ状態異常回復ポーション。その数二十本ほどが秋元の自宅のテーブル上に並べられた事を、柚彦はその目で見ていた。それを秋元はスタックすると言って仕舞いこんでいた(うち二本を自衛隊員の石化状態解除の為に提供した)。地上へ戻り、秋元に頼めば、きっと彼は、状態異常回復ポーションを提供してくれるだろう。
 だから極端な話、メドゥーサを倒す際に十四名が石化したとしても、一人だけでも生き延びて地上へ戻ることが出来れば、石化した全員を元に戻すことは可能だった。

「まず、メドゥーサを見つけ、彼女の頭を斬り落とし、それを確保した上で、不死者の二人の姉妹にメドゥーサの頭を突き付ける必要があります。斬り落としたとしてもメドゥーサの目は石化の力を秘めています」
 
「メドゥーサを見つけるってどうやるんですか」

 問いかける隊員に、柚彦は答えた。
 
「普通に捜索するしかありません。全員無線を持っていますね。見つけた者は、例えメドゥーサの目を見てしまい、石化していくとしても、しばらくの間は口を利くことができます」

 石化していく者は手や足といった体の先端から石化が始まり、しばらくの間は話すことができる。
 だから見つけた者は、たとえ最終的に全身が石化してしまったとしても、メドゥーサの位置を無線で報告できるのだ。

「石化してしまっても、状態異常回復ポーションがあります。破壊されない限り、石化から元に戻ることが出来るのです」

 ある意味特攻に近い柚彦の話に、一同は言葉を失い、静まり返った。
 しかし、この階層のボスである蛇女とその姉妹を倒さなければ、このダンジョンを脱出することは出来ない。

「皆さんはメドゥーサを見つけ出して下さい。位置の報告を受け次第、須藤と立花が飛び武器でメドゥーサを足止めした後、僕がメドゥーサの頭を斬り落とします。もし僕がメドゥーサに石化させられたら、メドゥーサの斬り落とした頭を必ず誰かが確保して下さい。そしてその頭で後から現れる二人の姉妹を石化させれば、それで完了です」

 柚彦はハッキリと告げた。

「それで、地上へ帰れるのです」




 隊員達は無線を手に、六十二階層ステージに散っていった。
 相変わらず、メドゥーサのいるであろうこの階層はとても美しい場所であった。
 白いシロツメ草が咲き乱れる針葉樹の森。木々のそばには優美な鹿がおり、群れをなして駆けていく。
 こんな時でなければ、いつまでも眺めていたい美しい景色であった。
 しかし今、隊員達はひどく緊張しながら歩いて行く。
 どこから蛇女が現れるか分からない。
 その目を見てしまえば、あっという間に石化が始まるのだ。

 ほどなくして、柚彦の無線に一人の隊員の声が入った。

「見つけました。蛇の頭をした女です」



 その隊員が見つけたのは、最初は石化している栗鼠であった。
 木の上に止まった栗鼠は、そのままの姿で石になっていた。
 見れば、木々の間には鹿の石化した姿もあった。

 すぐに無線で報告しようとしたところで、女の蛇の頭が遠く見えたのだ。

 ちょうどメドゥーサが背中を向けているから助かった。
 相手からはまだ見つかっていない。
 自分は石化することなく、メドゥーサを見つけたのだ。
 そのことにひどく安堵して、隊員は急いで無線のスイッチを入れて報告をする。
 そして報告をしている間に、気付かれたのだ。

 彼女は突然、蛇の頭髪を揺らして振り向いた。
 黄色い獣じみた瞳はまっすぐに隊員の目を射貫く。

「ば、場所はスタート地点から西へ一キロ進んだところで、周囲には石像が散らばっています」

 見てしまった。
 隊員は無線機をしっかりと持ちながらも、その手が白く、固く変わっていくのを眺めていく。
 心の中には地上に残した家族の姿が浮かんでは消えていく。

 失敗したという気持ちと、それでもなんとか場所を伝えなければならないという使命感が入り混じる。
 隊員は懸命に今居る場所と自分の現状を報告する。
 次第に石化が広がり、もう足は少しも動かせなかった。地面に張り付いたようになってしまっている。
 蛇女が近づいてくる前に、どうせならすべて石になってしまいたい。
 恐怖の余りそんなことを思った。
 近づいてくる女の口は大きく裂け、その黄色の瞳は怯える隊員の姿を映し出していた。

 そして彼は全身が固く冷たい石となり、その姿のまま時を止めてしまったのだった。
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