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[挿話] そして彼は自覚する

第十四話 扉を探す

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 新橋にあるワールドフロアは、およそ一辺が五キロ四方の正方形のような形をしているといわれている。
 おそらくこの定山渓ダンジョンもそれと同等の大きさがあるのではないかと思われた。
 新橋ダンジョンの探索の際には、総勢二百名もの人員とドローンを使い、人海戦術により、二時間で六十二階層へ続く扉を発見した。
 しかし今回はその十分の一以下の人数で、探し当てないといけない。

(ボスモンスターを倒すよりも扉を見つける方が大変なのではないか)

 思わず柚彦はそんなことを思ってしまう。
 なお、糧食の問題についてはドラゴンを倒したことにより一気に解決となった。
 ドラゴンは“食べられる肉”であることは、自衛隊調査部の報告で知られていた。
 味わいは濃厚で、非常に美味らしい。
 北海道という土地柄にあるダンジョンのためか、肉の燻製に詳しい隊員もおり、ドラゴンの肉は解体され、燻製される。
 この六十一階層がジャングルステージということもあり、油分を多く含んだ樹木が生えていたことも幸いした。ただ一方で、気温が高いため肉の腐敗が進みやすい。肉の解体や燻製が出来る隊員は残され、その他の隊員達が六十二階層へ続く扉を探しに向かった。探索に出た隊員達は、食用に回せる果実や水を見つけることは出来たが、扉を見つけることが出来ずにその日は終わった。

 なお、六十一階層のドラゴンを倒した後に出現した宝箱の中身は、マジックバックであった。

(これは助かるな)

 燻製にした肉や果物をそのマジックバックの中へ入れていく。

(まるで、今欲しいもの、必要なものが分かっているかのような宝箱の中身だ)

 柚彦ら隊員達の活躍を、誰かが見守り、手助けをしている。
 ダンジョンの中へ隊員達を閉じ込めた一方で、その何者かは、閉じ込められた隊員達を見つめている。

(“神”か)

 かつて、魔王討伐を成し遂げた勇者である佐久間柚彦は、神への願いを願ったことがあり、それは叶えられた。だから、“神”というものが存在していることを知っている。
 その“神”の存在を感じる。
 “神”が、自分達をダンジョン内へ閉じ込め、そしてこのダンジョンのモンスターを閉じ込められた自分達の手で倒すことを望んでいる。
 だから、自分達がこうやって、知恵を絞り、苦労してダンジョンのモンスターを倒していくことは、“正しいルート”に乗っているのだ。なんとなしにそのことを感じていた。もしその感覚通りなら、六十二階層をクリアできれば、このダンジョンを踏破、すなわち脱出できるだろう。

(そうすればまた、秋元さんのところへ帰っていける)

 思うのはそのことばかり。
 子供の頃からそうだった。
 いつも思っていた。
 いつになったら彼にまた会えるだろうかと、指を折って数えていた。
 半年に一度くらいだろうか。
 滅多に会えない人だったから、会えば嬉しくてたまらなかった。

 会えなかった時は、本当に辛かった。
 八年間も会えなかったあの時期、一度として彼が会いに来てくれなかったことに、恨みがましい気持ちすら持っていた。彼が、勇者である自分を、勇者であるから助けに来てくれたことも分かっていた。分かっていてなおも。

(なおも、会いたいと思う)

 秋元はその感情を“刷り込み”だと言った。
 虐待する両親の手から救い出してくれた秋元のことを、雛鳥が最初に見たものを親と慕うように、柚彦の脳に感情が刷り込まれたのだと言う。

(だからあの人はずっと自分のことを子供扱いして)

 もう二十代も後半の自分のことを、大きな子供みたいだと言って頭を撫でるようにする。
 「好きです」「愛しています」と眼前で告げても、はぐらかすようなことを言って、柚彦の気持ちを理解してくれない。「わからない」と言う。
 
(ずるい人だ)

 彼は理解している。
 柚彦の気持ちを知って、「わからない」と言ってその感情に直面することから逃げようとしている。
 困るからだ。

 彼をひどく困らせていることも分かっている。

 だけど好きなんだから仕方がない。

(秋元さんには諦めてもらうしかない)

 彼が「わからない」と言って逃げても、自分は逃がさないつもりだった。
 大体、異世界へ戻ることすら自分は禁じたくらいだ。
 そばに居て欲しいと脅すように、彼に望みを押し付けた。
 優しい彼は、それを結局許してくれたけど。

(それが運の尽きだ)

 もしダンジョンを出ることが出来たら、また自分は彼に言うつもりだ。
 何回でも、何十回でも、どんなに迷惑がられようとも。

 そしていつか優しい彼が、結局諦めるように、自分に振り向いてくれるまで。

 それはある意味、ストーカーよりも質が悪いかも知れない。
 自分は勇者で、そして彼に呪いを掛けている。
 ずっと彼と共に居たいという。
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