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[挿話] そして彼は自覚する

第十三話 ドラゴン退治再び

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 灰色の空を飛ぶ巨大なドラゴン。
 遠くにいると思えば、グンと大きく翼を広げて迫るように飛んでくる。
 飢えているのか、何か見かけるとすぐさま突進しているような様子があった。

 佐久間柚彦は、その手に“風の剣”を持っている。
 これは持つ者に風の属性を付与する剣で、かつ刀身に風を巻き付かせることが出来る。
 振るった剣に触れると、相手を吹き飛ばすことのできるものであった。

 その剣を手に、彼はジャングルの空高くそびえ立つ大きな木の下を走り始める。
 道らしき道のない場所であり、走るのに邪魔な草や木、蔓などはその“風の剣”を使って吹き飛ばしていく。
 そんな様子であるからして、ほどなく空を行く巨大なドラゴンが柚彦の存在に気が付いて降下してくる。

 

「佐久間リーダーが囮になるのですか!?」

 計画を説明された時、須藤と立花は驚いて声を上げた。

「そうだ。立花は散弾銃を、須藤は弓を使用して欲しい」

 柚彦が単身飛び込んで、向かってくるドラゴンを魔法剣で叩き斬ることが一番シンプルで単純な方法であろう。しかし、それではダメなのだ。
 もしこのダンジョンが、新橋ダンジョンを倣って作られているのなら、このドラゴンのボスモンスターの後の、次の階層主は、蛇女メドゥーサになるだろう。
 それは柚彦の剣の腕だけでは倒すことが困難な敵である。メドゥーサこそ、須藤と立花の遠距離の武器の攻撃が必要になる。
 だからこそ、二人には更に経験を積んで、自分と組んで連携が出来るようにして欲しかった。そして須藤は魔法の弓を扱うことは初めてである。できるだけ使いこなせるようになって欲しい。

「この魔法の弓は、非常に、私から魔力を吸い取る様子があります」

 現在、この世界には魔法使いは秋元恭史郎ただ一人しか存在しなかったが、魔力を要する魔法武器の存在は確認されていた。そしてその魔法武器は、使い手から魔力を吸い取る。
 “普通の人間”が魔法武器を使いこなすことはなかなか困難である。
 柚彦でさえも、“焔の剣”を使っていた当初は、しばしば魔力を欠乏し、倒れかけることがあった。

「矢数は一本出すのが精いっぱいです」

「分かった。立花、散弾銃の銃弾はあと幾つだ?」

「須藤隊員からのストックも受け取り、あと十発です」

「五発は下の階層のための予備として使わないでくれ」

「分かりました」

 須藤も立花も、下の階層がやはりワールドステージとなっており、階層主はおそらく蛇女メドゥーサであろうことは予想していた。
 そのため、使用弾数をある程度抑える必要があった。

 柚彦が竜を引き付けた後、入口付近へ竜に追われながら戻って来る。
 そして入口近くで待機する立花と須藤が、銃や弓で撃ち落とすというものだった。
 佐久間リーダーがドラゴンに食べられたらどうするのだと内心、須藤も立花も不安であったが、佐久間柚彦は「ドラゴン退治は前にもしているから」と余裕を見せるように笑っていた。


 そうして、佐久間柚彦はドラゴンに追われるようにして、入口に向かって走って来る。
 木々の下をうまく利用にして、羽ばたくドラゴンが突き出すクチバシを避け、柚彦は走る。

 そしてもう一度、ドラゴンが大きく翼を広げて降下して、ちょこまかと逃げようとする柚彦をそのクチバシで、くわえてくれようと大きく開いたその時、キリキリと弓を大きく引き、ぼんやりとした矢の形が魔力で次第に形を作ったそれを、外すことの無いように祈るような気持ちで須藤は大きく放ち、そして立花も銃を構え、その射程距離に竜の巨体が入り、最も弱い部分をさらけ出すことを今か今かと待ちわびていた彼もまた、銃弾をそのびっしりと生えた鋭い歯の奥の、真っ赤な口内のその奥を目掛けて放ったのだった。

 轟音と共に、ビシィと真っ赤な血潮が空いっぱいに上がった。
 ぐしゃぐしゃと音を立て、雨のようにドラゴンの頭であったものが砕け散り、そして撒き散らされていく。次いでドォンと音を立ててその巨体が地上に落下した。
 それの方にこそ、佐久間柚彦は潰されそうになって慌てて避けていた。
 その後、彼は須藤と立花の両隊員に手を振って笑顔で成功を伝え、須藤と立花も彼の元へと走り寄ったのだった。
 六十一階層主ドラゴンの撃破が伝えられると、入口から少し離れた場所で待機していた十二名の隊員達は歓声を上げて入口から入って来た。
 こうして再びのドラゴン退治は成功したのだった。
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