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[挿話] そして彼は自覚する
第十一話 待つ人々
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北海道定山渓タンジョンが“みなし拡張”状態にあると認定された後、ただちに自衛隊とダンジョン開発推進機構間で、合同踏破チームの派遣が決まる。
ここで同時に、佐久間柚彦が、定山渓ダンジョンの奥で行方不明となっている自衛隊員に含まれることが公表され、当然のことながら、記者たちは詰め寄るようにこう言っていた。
「よりによって、合同チームの責任者が巻き込まれて行方不明!?」
「踏破は大丈夫なのか!?」
あれほど先の拡張ダンジョンの踏破の際、状態異常の隊員が出た時には、柚彦を非難していたのに、いなくなればなったで大騒ぎである。
秋元は冷ややかにテント内に設置されている大型テレビ画面を眺めていた。
今、彼は北海道定山渓ダンジョンそばに設置された、大型テント内に、合同踏破チームの一員として席に座っていた。横にはいつものようにダンジョン開発推進機構の瓜生が座っている。彼もまた合同踏破チームの一員として選抜されているのだ。
「佐久間リーダーがいないとキツイな」
ぽつりと言う瓜生に、秋元も頷く。そして秋元は腕を組んで黙り込み続けていた。
眉を寄せ、ひどく不機嫌そうな様子である。
日頃、どこか飄々と、へらへらとしたような様子を見せてばかりの秋元が、こんな仏頂面でい続ける姿を見るのは、瓜生は初めてであった。
だから、秋元に慰めるように瓜生は言った。
「佐久間リーダーは無事だ。ちゃんと救出される」
「…………」
それでも秋元は黙り込んでいた。
前任勇者である西野光と、竜騎士ゼノンを異世界から呼び出した後、秋元は北海道の定山渓ダンジョンへ向かうことにした。たとえすぐに柚彦を救出できないとしても、彼の近くに行きたかった。
以前にも何度か、佐久間柚彦の身が危険に陥ったことがあった。
魔王討伐の際、柚彦はギャラリーを庇い、全身を何か所も骨折した時には、秋元は彼を叱った。そして新橋ダンジョンにて蛇女メドゥーサが出現し、仲間の隊員達が石化させられた時も秋元は彼に「逃げろ」と呼びかけた。いずれも秋元のコントロールがある程度効いた現場だった。
しかし今回、柚彦のいる現場は、完全に秋元の手から離れてしまっている。秋元の知らぬ場所で、柚彦は仲間達と戦い続けなければならない。
柚彦のことが心配で、秋元には余裕があまりなかった。
元聖女こと麗子は、非常に柚彦のことを心配していたが、“ただの人”になってしまった彼女が出来ることは少なく、彼女は東京に残っていた。そもそも新婚である麗子は、夫には自身が聖女であったことも、異世界で過去、冒険をしたことも内緒にしていたのだ。
麗子は、北海道へ秋元らが旅立つという別れ際、秋元の手を握ってこう言った。
「秋元さん。柚彦君のことが心配でしょう?」
「そりゃそうだよ」
ぶっきらぼうに秋元は答える。彼は柚彦の行方不明の一報を聞いて、彼の救出が簡単には出来ないことを知って以来、秋元はずっと不機嫌な様子を見せていた。
そんな彼を麗子はため息混じりで見つめた後、秋元の手をぎゅっと握ってなおも麗子は言った。
「私にとって秋元さんも、柚彦君もとても大事な、大好きな人です。無事に柚彦君に戻って来て欲しいと思っています。秋元さんもそうですよね」
その言葉には秋元も当然のように頷いていた。
無事に、柚彦が怪我を負うことなく戻って来て欲しかった。
「もし柚彦君が無事に戻って来たら、秋元さんは」
余計な事と思いながらも、麗子はそう言っていた。
「柚彦君は、秋元さんにとって大事な人だと教えてあげてください。心配で仕方なかったと、正直に胸の内を話してください」
「…………………」
なんとなくそう言う麗子を、秋元は疑わしいような目で見つめている。
腐女子である麗子の言葉に、何かしら裏があるのではないかと疑っているようだ。
内心、そのことに麗子は苦笑しながらこう言った。
「好きとかそういうことじゃなくて。柚彦君がいないと秋元さんは困るのでしょう?」
「…………………まぁ、そうだね」
それが、「好き」だということなのだと麗子は言いたかったが、そのことは麗子の口から言う話ではないことを彼女は自分で理解していた。
そばからいなくなってしまうと、心配で心配で落ち着かない。
そんな気分にさせられる人
誰よりも大切な人
ふいに、壁に何度もぶつかって頭を押さえながら不思議そうな様子で近寄って来た秋元の姿が、麗子には思い出させた。
本当に面倒くさい、手間のかかる変な人
でも、柚彦君は、そんな彼のことが好きでしようがないのだ。
「私は東京で待っています。みんなが無事に帰ってくるのを、ずっと待っていますからね。必ず、秋元さんは無事に柚彦君を連れて、戻って来て下さい」
そう言って、麗子は秋元達を見送ったのだった。
だから秋元は、自衛隊とダン開の合同チームに加わっていたのだが、ダンジョンの奥を塞ぐ大岩の存在が解消されることのない状態に、自分がただ“待つ”ことしか出来ない状態に、苛々としていたのだった。
なお、光とゼノンの二人は、定山渓ダンジョンのそばにある北海道は定山渓温泉に足を運んでおり、「秋元さん、大変な事があったらすぐに駆け付けますから、連絡を下さいね」と言って、二人でしっぽり温泉に浸かっていることに、なおも秋元は苛々としていた。
ここで同時に、佐久間柚彦が、定山渓ダンジョンの奥で行方不明となっている自衛隊員に含まれることが公表され、当然のことながら、記者たちは詰め寄るようにこう言っていた。
「よりによって、合同チームの責任者が巻き込まれて行方不明!?」
「踏破は大丈夫なのか!?」
あれほど先の拡張ダンジョンの踏破の際、状態異常の隊員が出た時には、柚彦を非難していたのに、いなくなればなったで大騒ぎである。
秋元は冷ややかにテント内に設置されている大型テレビ画面を眺めていた。
今、彼は北海道定山渓ダンジョンそばに設置された、大型テント内に、合同踏破チームの一員として席に座っていた。横にはいつものようにダンジョン開発推進機構の瓜生が座っている。彼もまた合同踏破チームの一員として選抜されているのだ。
「佐久間リーダーがいないとキツイな」
ぽつりと言う瓜生に、秋元も頷く。そして秋元は腕を組んで黙り込み続けていた。
眉を寄せ、ひどく不機嫌そうな様子である。
日頃、どこか飄々と、へらへらとしたような様子を見せてばかりの秋元が、こんな仏頂面でい続ける姿を見るのは、瓜生は初めてであった。
だから、秋元に慰めるように瓜生は言った。
「佐久間リーダーは無事だ。ちゃんと救出される」
「…………」
それでも秋元は黙り込んでいた。
前任勇者である西野光と、竜騎士ゼノンを異世界から呼び出した後、秋元は北海道の定山渓ダンジョンへ向かうことにした。たとえすぐに柚彦を救出できないとしても、彼の近くに行きたかった。
以前にも何度か、佐久間柚彦の身が危険に陥ったことがあった。
魔王討伐の際、柚彦はギャラリーを庇い、全身を何か所も骨折した時には、秋元は彼を叱った。そして新橋ダンジョンにて蛇女メドゥーサが出現し、仲間の隊員達が石化させられた時も秋元は彼に「逃げろ」と呼びかけた。いずれも秋元のコントロールがある程度効いた現場だった。
しかし今回、柚彦のいる現場は、完全に秋元の手から離れてしまっている。秋元の知らぬ場所で、柚彦は仲間達と戦い続けなければならない。
柚彦のことが心配で、秋元には余裕があまりなかった。
元聖女こと麗子は、非常に柚彦のことを心配していたが、“ただの人”になってしまった彼女が出来ることは少なく、彼女は東京に残っていた。そもそも新婚である麗子は、夫には自身が聖女であったことも、異世界で過去、冒険をしたことも内緒にしていたのだ。
麗子は、北海道へ秋元らが旅立つという別れ際、秋元の手を握ってこう言った。
「秋元さん。柚彦君のことが心配でしょう?」
「そりゃそうだよ」
ぶっきらぼうに秋元は答える。彼は柚彦の行方不明の一報を聞いて、彼の救出が簡単には出来ないことを知って以来、秋元はずっと不機嫌な様子を見せていた。
そんな彼を麗子はため息混じりで見つめた後、秋元の手をぎゅっと握ってなおも麗子は言った。
「私にとって秋元さんも、柚彦君もとても大事な、大好きな人です。無事に柚彦君に戻って来て欲しいと思っています。秋元さんもそうですよね」
その言葉には秋元も当然のように頷いていた。
無事に、柚彦が怪我を負うことなく戻って来て欲しかった。
「もし柚彦君が無事に戻って来たら、秋元さんは」
余計な事と思いながらも、麗子はそう言っていた。
「柚彦君は、秋元さんにとって大事な人だと教えてあげてください。心配で仕方なかったと、正直に胸の内を話してください」
「…………………」
なんとなくそう言う麗子を、秋元は疑わしいような目で見つめている。
腐女子である麗子の言葉に、何かしら裏があるのではないかと疑っているようだ。
内心、そのことに麗子は苦笑しながらこう言った。
「好きとかそういうことじゃなくて。柚彦君がいないと秋元さんは困るのでしょう?」
「…………………まぁ、そうだね」
それが、「好き」だということなのだと麗子は言いたかったが、そのことは麗子の口から言う話ではないことを彼女は自分で理解していた。
そばからいなくなってしまうと、心配で心配で落ち着かない。
そんな気分にさせられる人
誰よりも大切な人
ふいに、壁に何度もぶつかって頭を押さえながら不思議そうな様子で近寄って来た秋元の姿が、麗子には思い出させた。
本当に面倒くさい、手間のかかる変な人
でも、柚彦君は、そんな彼のことが好きでしようがないのだ。
「私は東京で待っています。みんなが無事に帰ってくるのを、ずっと待っていますからね。必ず、秋元さんは無事に柚彦君を連れて、戻って来て下さい」
そう言って、麗子は秋元達を見送ったのだった。
だから秋元は、自衛隊とダン開の合同チームに加わっていたのだが、ダンジョンの奥を塞ぐ大岩の存在が解消されることのない状態に、自分がただ“待つ”ことしか出来ない状態に、苛々としていたのだった。
なお、光とゼノンの二人は、定山渓ダンジョンのそばにある北海道は定山渓温泉に足を運んでおり、「秋元さん、大変な事があったらすぐに駆け付けますから、連絡を下さいね」と言って、二人でしっぽり温泉に浸かっていることに、なおも秋元は苛々としていた。
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