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[挿話] そして彼は自覚する

第七話 孤立

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 時は遡る。
 
 その日、佐久間柚彦ら自衛隊のボスモンスター討伐専門チームが、北海道は定山渓にある自衛隊管理下のダンジョンの中へ足を踏み入れた時には、特に何ら異変は観測されていなかった。
 いつものようにダンジョンの先導・案内役を、定山渓配属の自衛隊員達が務め、その後ろを柚彦らが追う。定型ボスモンスターの討伐はルーチン作業に近いため、今回ダンジョンへ入るダンジョンボス討伐の為の専門チームメンバーは、佐久間柚彦と須藤隊員と立花隊員の三名。それに定山渓ダンジョンの配属自衛隊員十二名であった。総勢十五名がダンジョンの最奥を目指して進む。
 通常北海道ダンジョンと呼ばれるこの定山渓ダンジョンは、十年前にあった一回目のダンジョンの拡張を経て、現在地下六十階層となっている。十階層毎にワープポイントが存在し、ダンジョン奥への移動が非常にしやすいダンジョンであった。ダンジョンへ入ったその翌日昼には最下層のボス部屋の前に辿り着く予定であった。
 ポップするモンスター達を自衛隊員達が手際よく刈り取り、先へ先へと進んでいたその時、突然、大きくダンジョンが震えた。

「何事だ」
「地震か!?」

 ダンジョン内で道に沿って設置されているLED電球がプツンプツンと光を途切れさせる。地面はグラグラと揺れ続け、その異変にさしもの専門チームメンバー達も顔を強張らせていると、揺れは収まった。ほっと息をついた次の瞬間、もう一度大きな、立っていられないほどの揺れが襲った後に、ダンジョン内の明りが全て落ちたのだった。
 風が後方の、やって来たダンジョンの入口方向から強く吹き付け、土ぼこりが舞い上がる。
 すぐさま各隊員が持参しているライト(ペンライトのような小さなものである)が点灯され、人員が欠けていないか点呼が行われる。
 十五人の隊員達は怪我もなく、全員無事であった。
 だが。

 いったんその場で待機した後、ダンジョンの入口方向へ偵察へ向かった自衛隊員が、戻って来るなり震える声でこう報告した。

「大きな岩が、ダンジョン入口方面の道を完全に塞いでおり、通行不可能となっております」

 そう、一行はダンジョンの入口まで戻ることのできない状態に陥ったのだった。
 



 実際、彼らは再度、道を戻ってその大岩があることを全員が目で確認した。
 入口を塞いでいる大岩は、まるで突然地面からせり上がって生えてきたかのように、完全に道を塞いでいた。隙間すらなく、ピッタリと目の前の空間を塞ぎ、戻るべき道は閉ざされた。
 ダンジョンの道である。どこからか岩が転がってきて塞いだということではない。文字通り突然その大岩は、地面を揺らして生えてきたのだろう。

「誰かこれに巻き込まれた者はいないか」

「分かりません」

 ダンジョン内には、リポップするモンスターを排除するため、モンスターが湧きだす地点に自衛隊員が配備され、ルーチン作業のようにモンスターを刈り取っていた。この大岩が出現した場所に自衛隊員が配備されていた可能性がある。

 だが、確認しようにも、こうも巨大な岩が塞いでいては確認しようがない。そしてこの大岩は、非常に固くてぶ厚い。ナイフを突き立てても傷一つ残らない。

 隊員の一人が不安そうに呟いた。

「救援は来てくれるのでしょうか」

「無線機はまだ死んでいるのか」

 柚彦の問いかけに、隊員の一人が頷いた。

「原因は不明ですが、地上への無線は通じません」

「…………」

 ダンジョンの奥に自衛隊員達がいることは、ダンジョンの外にいる者達も把握しているはず。しかし生存を伝える連絡手段がない。道を塞いでいる大岩は、とても人力で動かせるものではなかった。
 後ほど、柚彦は持参しているマジックバックの中の魔法剣を取り出して、大岩を斬ろうとしたが、大岩には傷一つつけることができなかった。
 それはまるでダンジョンの製作者が、壊すことの出来ない大岩を置いて、ダンジョン内の人間達に道を戻ることを許さないとでも言っているようであった。
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