俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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[挿話] そして彼は自覚する

第六話 行方不明

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 ダンジョン開発推進機構へ足を運んだ秋元恭史郎が耳にした情報は、北海道定山渓に位置する自衛隊管理下ダンジョンでの、自衛隊員不明の報告であった。行方不明者数名の報告が、時間を追う度に人数が膨れ上がり、最終的には、二十名を越えた。当然、ダン開スタッフ達の間にも緊張が走った。
 ※なお、麗子は秋元をダン開まで送り届けた後、彼女は近くの喫茶店で待機していた。当然のことながら、ダンジョン開発推進機構本部建物内は、関係者以外立ち入り禁止である。事態の推移が気になった麗子は、午後から会社へ出社せず、半休を取る連絡を済ませていた。

 しばらくして、秋元がダン開の建物から出てきた。
 彼はまた、喫茶店へ入る際に何故か壁に一度ぶつかってから麗子のそばまでやって来た。
 
「柚彦君の名が、行方不明者リストに入っていた」

 そう秋元は言う。どこか苦しそうな表情である。
 現在、佐久間柚彦が、行方不明者リストに含まれている情報はマスコミに対して伏せられている。
 “勇者”称号持ちであり、かつ本来なら行方不明者の捜索へ向かうべき部隊のリーダーたる柚彦が行方不明であると知られることは、影響が大きい。
 しかし、いつまでも隠し通せることではない。早晩、彼の名も行方不明者リストに含まれると公表されるだろう。



「それで、僕、北海道のダンジョンへ、柚彦君を探しに行こうと思う」

 ぽつりとそう言う秋元の腕を、麗子は掴んだ。

「待って。ちょっとでいいから、秋元さん、待って」

「今だって柚彦君は救援を待っているだろう。早く行かないと、命が危ないかも知れない」

 麗子は、の秋元を、ダンジョンへ行かせることに不安があった。
 さっきから、彼は壁にゴンゴンぶつかっている。歩いているのに、どうしてぶつかるのか。
 本人はあまり気にしていない様子だが(壁にぶつかっても平然としている)、明らかに彼は動揺している。

 こんな抜けた秋元さんが、単身ダンジョンへ入ったのなら、即座に罠にはまって死にそうな予感がした。
 
 だから、麗子は少し考えた後、こう言った。

「光君に助けてもらいましょう!! そうよ、光君を呼ぶのよ」

 異世界へ渡り、異世界で竜騎士ゼノンと暮らしている先代勇者西野光。
 誰よりも強い勇者であった彼が来てくれれば、百人力である。
 その麗子の提案に、秋元も顔色を良くした(それまでずっと彼は顔色が悪かった)。

「そうだね、それはいい考えだ。早速彼を呼ぼう!!」

 以前の秋元は、光はもはや異世界で生活する、異世界の勇者であるからとして、彼に頼る道を選ぼうとしなかったのだが、この時の秋元の頭の中からそれはスッカリと抜け落ちているようだった。

 そう言ってその場で自身の収納から、“竜族の宝”と呼ばれる異世界へ通信できる水晶珠を取り出そうとした秋元の手を、麗子は掴んだ。

「ここじゃダメです、秋元さん!!」

 動転しすぎて、他人に見られてはいけないことまで失念しているようだ。
 麗子は秋元に、秋元の住むマンションまで案内させ、その部屋の中で、西野光、異世界の勇者を呼ぶように頼んだのであった。



 そして、水晶珠の向こう側にいる西野光は、気軽に「いいよ」と現世行きを承諾した。
 その後ろで、竜騎士のゼノンが「光、明日から私達の旅行の予……」と言った後の言葉が途切れている。その口を光が押さえていた。どうやら旅行の予定があったらしいが、光はキャンセルするつもりらしい。

「柚彦君が心配だ。そっちに今からすぐに行くよ」

 光は心配そうな様子でそう言った。秋元は頭を下げて礼を言う。

「済まないね、光君」

「気にしないでよ」

 そうした二人のやりとりの後ろで、ゼノン一人が怒っている。

「秋元さん、どうして貴方は、私と光が旅行へ行こうとするといつもいつも邪魔をするんですか!!」

 怒気を孕むゼノンを、光と秋元は全く無視していた。
 前回は、ゼノンと光の思い出の地、しっぽり箱根温泉旅行を秋元に邪魔をされ(何故か秋元と柚彦も同じ温泉宿へ連れていくことになった)、今回も異世界での旅行を邪魔された。あまりにもタイミング良く自分達の旅行スケジュールとぶつけることに、何か恨みでもあるのではないかと思っているゼノンである。だが、それはまったくの偶然であった。
 それから三十分も経たない内に、光は仏頂面のゼノンを連れて、現世に転移してきた。

「秋元さん、来たよ。大丈夫?」

 光は大量の武器・防具・アイテムの類をしっかりとマジックバックに収納し、いつでもダンジョンの中へ突っ込める、準備万端の様子であった。
 もはや聖女ではなく“ただの人”となった麗子にとって(そして魔法使いの秋元が動揺のあまり使い物にならない中では)、なんとも頼りになる異世界勇者の登場だった。
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