俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

文字の大きさ
上 下
148 / 174
[挿話] 前途多難な恋

第二十二話 差し伸べられる手

しおりを挟む
 携帯から柚彦にメールを送っても返事はなく、電話をしても電話に出てくれなかった。
 自分がしていたことを、今になって逆にやられている状況に、秋元は、「ふー」とため息をつく。
 自業自得である。

 そして新橋ダンジョンへ行く時だって、勇者の柚彦のそばに自分がついていけば良かったのだ。
 あんな風に離れなければ良かった。
 そうすれば、隊員達はそもそも石化するような状況も防げたかも知れないし、マスコミに柚彦が責められるようなこんな窮地に陥ることもなかった。
 
 後悔しても遅い。
 
 メールを送っても返事がないスマホ画面を睨みつけて、秋元は「会いに行くか」と呟いた。



 
 柚彦の住まう官舎の部屋の狭い玄関に転移した時、部屋の中から荒い息遣いが聞こえて、一瞬ギョッとした。
 見ると、部屋の中で柚彦がトレーナー姿で、腕立て伏せをしているのだ。

「…………………」

 ずっと運動をしていたのだろう。
 彼は汗をびっしょりとかいていた。
 あまりにも熱心に、あたかも自分を痛めつけるようにやっている様子に、心配になった秋元は声をかけた。

「少し、休んだらどうだ」

 その声に、彼は顔を上げた。

「秋元……さん?」

 驚きの表情。それしかなかった。
 秋元はポリポリと頭を掻く。

「勝手に来て悪かったね」

 そしてどこかバツが悪そうにこう言う。

「メールをしても、電話をしても繋がらなかったから」

「…………………」

 柚彦は大きく息をついて、床に座った。流れる汗をタオルで拭いながら言う。

「どこからか僕のアドレスがマスコミに流れたようで、連絡がひっきりなしに入るようになったんです。だから、今は電源を落としているんです。すみません」

「謝ることはないよ」

 事情が分かって、少しばかりホッとする気持ちがあった。

「……心配してきて下さったんですか」

 冷蔵庫から、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出して、蓋を開ける。
 ごくごくとそれを飲み干した後、柚彦は尋ねた。

「うん」

 部屋を見渡して見れば、窓はカーテンが閉め切られている状態だった。部屋の中は薄暗い。外へ出ることも許されず、こうして運動するくらいしか発散できなかったのだろう。
 子供の頃、佐久間家に養子に入った柚彦は、自衛隊員以外に知り合いはいない。彼が逃げ出す先もそうない状態なのだ。
 このまま、来月の新しいダンジョンの深下が起こるまで、この官舎の部屋に閉じこもるつもりなのだろうか。それはあまりにも、辛すぎるだろう。

「………………僕の家に来る?」

 秋元は咄嗟に、そう口に出していた。
 よく考えもせず、それが口に出てしまったことに自分自身驚いていた。
 柚彦は顔を上げた。

「貴方の家に行って、いいんですか?」

「ここにいても、閉じこもりっきりになるんだろう? 僕の家の方が寛げる。窓も開けられないなんてヒドイじゃないか」

「……でも、貴方は僕と一緒にいると、制約が多いと言って、それで官舎からだって出ていったじゃないですか」

 柚彦の指摘に、渋い顔をする秋元。
 その通りだった。
 今でも、彼と一緒にいると自分にとっていろいろと制約が課せられる。

 でも。

 秋元は彼に手を差し出す。

(きっと、僕は彼を見捨てられない)

 自分でもどうしようもない感情だと思う。
 
 一緒にいたら、面倒くさいことになる。
 彼の僕への愛情は重い。重すぎる。
 それも分かっている。

 でも、最初に彼に手を差し伸べた時から、たぶん分かっていたのだ。
 あのすがりつくような眼差しから逃れられないと。

「おいで」

 その差し出された手を柚彦は掴んだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

ヤバい薬、飲んじゃいました。

はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。 作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。 ※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...