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[挿話] 前途多難な恋

第二十一話 知り合いから融通してもらう

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 新橋ダンジョンの拡張は、六十一階と六十二階という二つのワールドフロアのボスモンスターの討伐の後、止まった。
 メドゥーサの登場したワールドフロア以下の階層は認められず、モンスターの異常発生も収まっている。
 とりあえずは一息ついたところであった。

 来月に入れば、残り五つのダンジョンのうちのどれかが、拡張に入るだろう。
 その時にはまた、自衛隊とダン開の共同チームが動き出すことになる。

 ダンジョンから地上へと戻った合同チームは、今回のボスモンスター討伐の勝利に湧くどころではなく、静まり返った雰囲気があった。
 スタッフから二名もの犠牲者が出ているのだ。
 それも、石化という生死の定かではない状態異常が続いている。

 秋元はダン開の瓜生や、東京事務局長の中林らに何度も質問された。

「石化の状態異常を治す方法はないのかと」

 それに秋元は答えた。

「状態異常回復のポーションは、ドロップしたことがないので、現状それを使うことはできません」

 魔法使いの秋元も治癒魔法を使えるのだが、石化の状態異常は特殊で、“呪い”の部類に近い。それを秋元の治癒魔法で治すことはできなかった。聖女ならば状態異常状態を解除も出来るだろう。だが、林原麗子が聖女引退の後、新たな聖女はまだこの世界には出現していなかった。

 秋元のその言い方は、まるでこれから先、状態異常回復のポーションがドロップすることが分かっているような口ぶりであった。
 そのことに、どこか苛々して瓜生は言う。

「とにかく治す方法はないのかと言っているんだ」

「…………」

 秋元は少し考え込む様子を見せてから、こう言った。

「状態異常回復ポーションを

「は?」

 あんまりな回答に、瓜生は首を傾げる。

「知り合いが持っていると思うので、持って来てもらうしかないですね」

「おいおいおい、どこの誰がそれを持っているって言うんだよ。お前は、まだドロップしたことがないと言っただろうが」

「細かいことは突っ込まないで下さい」

 パタパタと手を振る秋元に、突っ込もうとした瓜生の肩を掴んで中林事務局長は静かに頭を振った。
 こんなことで争っては仕方がない。今は枝葉については目を瞑るべきだ。

「では、宜しくお願いします」

 中林事務局長は頭を下げた。
 それに秋元は頷いていた。

「大丈夫ですよ。ちゃんと問題なく、状態異常は治せますから」




 
 秋元は自宅へ戻るとすぐさま異世界にいる西野光と連絡をとる。“竜族の秘宝”というアイテムを使えば、異世界間でも連絡が取り合えるのだ。
 そう、中林東京事務局長に話した知り合いは、彼らのことであった。
 水晶珠の中の光少年は相変わらず元気そうで、そしてその背中にのしかかってくるゼノンを邪険にしながら言った。

「状態異常回復ポーション? 分かったよ。持っていく。数はどれくらい必要?」

「今後もこんなことがあると困るので、二十個くらいスタックしておきたいです」

「秋元さんはポーション類は、上限まで所有していなかったの?」

 俺なんて9999個所持しているよと得意げに言う光に、秋元は苦笑いした。

「選ばれた勇者である貴方とは、アイテムボックスの仕様は違います」

 そう、あくまで秋元は勇者のお供であって、アイテムボックスの所有上限は光少年のような桁外れのものではなかったし、状態異常を治せる聖女があの頃はそばにいることが当たり前だったから、わざわざそれを持ち歩く必要もなかった。地上のダンジョンで、状態異常を与えるモンスターが今まで存在しなかったため、その必要性に迫られることがなかったせいもある。
 しかし、今後は違うだろう。

「そうなのか。分かった。明日にでも持っていくよ」

 その明るい口調の光少年の後ろで、竜族のゼノンは不満そうな顔をしていた。

「明日は二人で出かけようという話だっただろう」

「お前とはいつだって一緒にいるだろう。予定の一つくらい変更したって構わないだろう」

「……………」

 ゼノンはハンサムな顔をしかめている。
 その手が光のどこかをまさぐりはじめているのか、光はたちまち真っ赤な顔をして叫んだ。

「まだ通信中だろ!! この馬鹿」

 プツンと映像は途切れる。
 二人の仲の良さを見せつけられて、秋元は苦笑した。
 そして一方の地上の勇者、佐久間柚彦のことを思い出す。
 彼は、地上へ戻ってから、官舎の中に閉じ込められるようにして過ごしているという。
 外へ出たなら、マスコミに追いかけられる状態だからだ。
 テレビを見たら、あの東京の官舎までヘリによって撮影されているのには驚いた。
 まったく、勇者である柚彦の人権はないのだろうか。

 それに、あの石化した隊員達について、隊のリーダーであった柚彦の責任ばかりがクローズアップされている。
 会見を開いて釈明しろという言葉も飛び出していて、そのヒステリックな様相に秋元は苛立ちさえ覚えていた。
 隊員が負傷する度に、イチイチ、リーダーが釈明会見を開いてどうするというのだ。
 異世界ではまったく考えられないことだった。

(ダンジョンでは、もうどうしようもない、助けられない仲間は置いていかざるを得ないこともよくあった。それに、怪我だって、ダンジョンの中ではよくあることだった。その一つ一つを、リーダーが責められては、誰もリーダーを引き受けるものはいなくなる)

 そう、ダンジョンで発生したことは、基本自己責任なのだ。
 それが、この地上ではあまりにもきっちりとダンジョンを管理しているが故に、探索者は怪我なども滅多にしないような状態になっている。
 モンスターの湧き場所までマップに記載し、二十四時間監視カメラでモンスターの発生状況を監視しているのは、どう考えてもやり過ぎだった。
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