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[挿話] 前途多難な恋
第十七話 メドゥーサ
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「目は獣のような黄色、口は大きく裂けたようになっていて、尖った歯が無数にある。そして髪は細い蛇」
佐久間柚彦は、第一陣のチームメンバーを前に、ダンジョンの主だと思われるモンスターの特徴を話す。
「ドローンを攻撃することはなく、ただ睨むだけであったため、敵の能力は分からない」
「髪が蛇だというのは、ギリシア神話のメドゥーサのようですね。もし、それであるなら、彼女の目には石化の能力があるかも知れない」
「ドローンの映像を見るだけで、石化しなかったのは幸いだな」
そう陽気にメンバー達は笑い声を上げる。
まだ一陣のメンバー達の中には六十一階層の勝利の余韻が漂っており、余裕の雰囲気があった。
「メドゥーサを倒した勇者ペルセウスは、メドゥーサの石化する力のある目を見ること避け、盾に映し出した姿を見ながら戦ったといいます。やはり、それにある程度倣う必要があるでしょう」
「しかし、石化の能力を本当に持つかどうかわからないだろう」
「生きとし生けるものを石化するというのなら、すでに他の生き物が石化しているかも知れません。ドローンでその痕跡を探してみます」
そして実際、ドローンを飛ばした調査スタッフ達は、木々の間に石化した鳥や鹿の、彫像めいた姿を見つけたのだった。
「間違いないようですね。いかがいたしますか」
地上の本部からも、映像をもとに、作戦案が届けられる。
それはこういうものであった。
ヘルメットの頭上に映像カメラを取り付け、ヘルメット内の視界にそれを映し出して戦うというものだ。
ドローンからの映像を見るだけでは石化しないことはすでに分かっている。それならばおそらくカメラ映像も同じだろうと推測されての作戦だった。
問題は、その映し出された映像を見ながら戦うことに短時間で慣れることができるかということだった。
「盾をかざしながら、盾に映った姿を見つつ戦うよりはマシだろう」
「ちょっとゲーム感覚になりますがね」
第一陣の二十名全員分のカメラとヘルメットを即座に用意することはできないと言われた。急ぎ用意できるのはその四分の一、五名分だけである。
よって第一陣の二十名の中からさらに五名を選出して、モンスターとの戦いに臨むことになった。
六十階層で休息を取った秋元は、寝袋からゴソゴソと這い出した。
そして、柚彦の胸元のボタンから流れ出す音声と映像から、彼も第一陣チームの作戦を聞いた。
「石化という状態異常にかかると、厄介だな」
独り言めく。
作戦としては悪くはない。メドゥーサの目を見ないようにして戦うことが勝利の必要条件であることは確かなのだ。
いっそのこと、ドローン自体で攻撃させてはどうかという話も当然あったが、それはおそらく、神はその戦闘方法を問題にするだろうと秋元も思っていたし、本部でも、ドローン型のモンスターが多発すると厄介だという話が出て、取りやめられた。ダンジョンではできるだけシンプルに、探索者自身の手によってモンスターと戦う必要があるのだ。
そして六十二階層のメドゥーサと戦闘することになる五人のメンバー達が選抜された。当然リーダーである佐久間柚彦も含まれている。五人の隊員は、小型カメラのついたヘルメットをかぶる。
まずは五人のうち一人が、本当に石化しないのか、蛇女の視線を受けて試した後に、残りの四人が合流してモンスターを討伐することになる。
恐る恐る試しの隊員が、メドゥーサのそばに近づくと、彼女の髪の蛇は一斉に牙を剥き出しにして隊員を睨みつけ、そしてメドゥーサ自身も黄色の瞳を光らせて大きく口を開けて威嚇する。
その身の毛もよだつ映像に、試しで近づいた自衛隊員は後ずさった後に逃げ出した。
幸いな事に、メドゥーサは追いかけては来なかった。
カメラから撮った映像を見る分には、メドゥーサに睨みつけられても石化することはないと分かった。後は討伐だけである。
五人は武器を手にして、予定通りメドゥーサに近づいていく。
そして彼女を取り囲んだ隊員の一人が、剣を一閃させ、手早く蛇女の頭を刎ね飛ばしたのだった。
隊員の頭上に付けられたカメラの撮影映像は、待機しているスタッフのパソコンにも送信されており、皆、蛇女の身体が音を立てて前に倒れた時には、歓声を上げて「簡単だったな」と喜びの声を上げる。
その映像は六十階層で待機していた秋元らの元にも届いており、拍子抜けするほど簡単に倒せたことに、はしゃいだ様子を見せるスタッフもいた。
秋元は、柚彦のボタンを通じて話しかけた。
「油断しない方がいい。ギリシア神話では、メドゥーサは三姉妹の一人だった。もしそれにのっとっているなら、あと二人の姉妹がいるかも知れない」
「わかりました」
その推測は自衛隊の調査部の方でも言われていた。蛇女が一人ではないかも知れないと。
頭を刎ねられたメドゥーサの首から、真っ赤な血がジワリと地面に広がって黒く染みを作っていく。
それは奇妙なほど大量の血だった。
「警戒態勢を維持しろ」
佐久間柚彦はそう言う。
その赤い血が広がった地面がボコボコと音を立てはじめ、そこから漆黒の翼ある馬が産み出されていく。
馬の目はギョロリと蠢いた。その目は紅く、黒い馬体は濃い瘴気をまとう、禍々しいものだった。
現れた馬の背に、鞍もない状態で二人の女がしがみつくようにして乗っていた。
「まだ戦いは続いているぞ」
柚彦は声を張り上げたのだった。
佐久間柚彦は、第一陣のチームメンバーを前に、ダンジョンの主だと思われるモンスターの特徴を話す。
「ドローンを攻撃することはなく、ただ睨むだけであったため、敵の能力は分からない」
「髪が蛇だというのは、ギリシア神話のメドゥーサのようですね。もし、それであるなら、彼女の目には石化の能力があるかも知れない」
「ドローンの映像を見るだけで、石化しなかったのは幸いだな」
そう陽気にメンバー達は笑い声を上げる。
まだ一陣のメンバー達の中には六十一階層の勝利の余韻が漂っており、余裕の雰囲気があった。
「メドゥーサを倒した勇者ペルセウスは、メドゥーサの石化する力のある目を見ること避け、盾に映し出した姿を見ながら戦ったといいます。やはり、それにある程度倣う必要があるでしょう」
「しかし、石化の能力を本当に持つかどうかわからないだろう」
「生きとし生けるものを石化するというのなら、すでに他の生き物が石化しているかも知れません。ドローンでその痕跡を探してみます」
そして実際、ドローンを飛ばした調査スタッフ達は、木々の間に石化した鳥や鹿の、彫像めいた姿を見つけたのだった。
「間違いないようですね。いかがいたしますか」
地上の本部からも、映像をもとに、作戦案が届けられる。
それはこういうものであった。
ヘルメットの頭上に映像カメラを取り付け、ヘルメット内の視界にそれを映し出して戦うというものだ。
ドローンからの映像を見るだけでは石化しないことはすでに分かっている。それならばおそらくカメラ映像も同じだろうと推測されての作戦だった。
問題は、その映し出された映像を見ながら戦うことに短時間で慣れることができるかということだった。
「盾をかざしながら、盾に映った姿を見つつ戦うよりはマシだろう」
「ちょっとゲーム感覚になりますがね」
第一陣の二十名全員分のカメラとヘルメットを即座に用意することはできないと言われた。急ぎ用意できるのはその四分の一、五名分だけである。
よって第一陣の二十名の中からさらに五名を選出して、モンスターとの戦いに臨むことになった。
六十階層で休息を取った秋元は、寝袋からゴソゴソと這い出した。
そして、柚彦の胸元のボタンから流れ出す音声と映像から、彼も第一陣チームの作戦を聞いた。
「石化という状態異常にかかると、厄介だな」
独り言めく。
作戦としては悪くはない。メドゥーサの目を見ないようにして戦うことが勝利の必要条件であることは確かなのだ。
いっそのこと、ドローン自体で攻撃させてはどうかという話も当然あったが、それはおそらく、神はその戦闘方法を問題にするだろうと秋元も思っていたし、本部でも、ドローン型のモンスターが多発すると厄介だという話が出て、取りやめられた。ダンジョンではできるだけシンプルに、探索者自身の手によってモンスターと戦う必要があるのだ。
そして六十二階層のメドゥーサと戦闘することになる五人のメンバー達が選抜された。当然リーダーである佐久間柚彦も含まれている。五人の隊員は、小型カメラのついたヘルメットをかぶる。
まずは五人のうち一人が、本当に石化しないのか、蛇女の視線を受けて試した後に、残りの四人が合流してモンスターを討伐することになる。
恐る恐る試しの隊員が、メドゥーサのそばに近づくと、彼女の髪の蛇は一斉に牙を剥き出しにして隊員を睨みつけ、そしてメドゥーサ自身も黄色の瞳を光らせて大きく口を開けて威嚇する。
その身の毛もよだつ映像に、試しで近づいた自衛隊員は後ずさった後に逃げ出した。
幸いな事に、メドゥーサは追いかけては来なかった。
カメラから撮った映像を見る分には、メドゥーサに睨みつけられても石化することはないと分かった。後は討伐だけである。
五人は武器を手にして、予定通りメドゥーサに近づいていく。
そして彼女を取り囲んだ隊員の一人が、剣を一閃させ、手早く蛇女の頭を刎ね飛ばしたのだった。
隊員の頭上に付けられたカメラの撮影映像は、待機しているスタッフのパソコンにも送信されており、皆、蛇女の身体が音を立てて前に倒れた時には、歓声を上げて「簡単だったな」と喜びの声を上げる。
その映像は六十階層で待機していた秋元らの元にも届いており、拍子抜けするほど簡単に倒せたことに、はしゃいだ様子を見せるスタッフもいた。
秋元は、柚彦のボタンを通じて話しかけた。
「油断しない方がいい。ギリシア神話では、メドゥーサは三姉妹の一人だった。もしそれにのっとっているなら、あと二人の姉妹がいるかも知れない」
「わかりました」
その推測は自衛隊の調査部の方でも言われていた。蛇女が一人ではないかも知れないと。
頭を刎ねられたメドゥーサの首から、真っ赤な血がジワリと地面に広がって黒く染みを作っていく。
それは奇妙なほど大量の血だった。
「警戒態勢を維持しろ」
佐久間柚彦はそう言う。
その赤い血が広がった地面がボコボコと音を立てはじめ、そこから漆黒の翼ある馬が産み出されていく。
馬の目はギョロリと蠢いた。その目は紅く、黒い馬体は濃い瘴気をまとう、禍々しいものだった。
現れた馬の背に、鞍もない状態で二人の女がしがみつくようにして乗っていた。
「まだ戦いは続いているぞ」
柚彦は声を張り上げたのだった。
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