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[挿話] 前途多難な恋
第九話 ダンジョンの再びの拡張(下)
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虎ノ門の本部ビルへの集合メールを受け取り、秋元は本部ビルに“転移”した。
大会議室には、ダンジョン開発推進機構ダンジョン開発部のメンバーがほぼ全員勢ぞろいしていた。
マイクを手に開発部長は、壁面に掲げられているモニターを見ながら説明を始めた。
「昨日深夜より、開発機構が管理する新橋ダンジョンで微震が続き、モンスターの出没頻度も通常の五倍に急激に上昇しました。ダンジョン管理規定に基づき、新橋ダンジョンの一般探索者の入場を停止してしました。この異変は十年前の“ダンジョンの拡張”に見られた異変と同様のものとみなされ、現在、内閣府、国土交通省、自衛隊並びに弊社を交えて緊急会議が開かれています。アドバイザーの東都大学ダンジョン研究科吉本教授の言葉によると、これらの兆候は間違いなく“ダンジョンの拡張”の要件を満たすと思われ……」
用意された椅子に腕を組んで秋元は座った。その隣に瓜生が当然のように座る。
「秋元が時間通りに集合するなんて珍しいな」
「ダンジョンの拡張なら、来るでしょう」
「ふぅん。まぁいい。ここに来るってことはチームに参加するのか?」
瓜生が言うのは、拡張したダンジョンの新階層主の討伐のための合同チームのことだ。前回の拡張の際と同様に、自衛隊とダンジョン開発推進機構との間で、探索のための合同チームが結成されることは間違いないだろう。拡張ダンジョンの探索とモンスターの討伐。これは優れた専門スタッフ達で成し遂げなければならない。
「“勇者称号”を持つ柚彦君がいれば、大丈夫でしょう」
「参加しないのか?」
瓜生がその言葉に少し眉を下げている。なにやかんや、瓜生も秋元のことを頼れる仲間とみなしていた。
「一応、参加するつもりです」
「よし、頑張ろうぜ!! 秋元」
ガシリと肩を強く掴んでくる瓜生の様子に、秋元は苦笑する。
そして佐久間柚彦のことを考えた。自衛隊のボスモンスター討伐専門チームの副隊長を務める彼は、当然のように、この合同チームにも参加するだろう。
拡張ダンジョンでは、何が起こるかわからない。
だから、自分の参加は“保険”のつもりだった。何事もなければ、いつものように隅っこで傍観者のように黙っていればいいのだ。
そして、集合メールの配信があった同日中に、自衛隊とダンジョン開発推進機構との合同チームのメンバーリストが公開された。
その中には佐久間柚彦の名前もあれば、秋元恭史郎の名前もあったのだった。
*
東京は新橋にあるダンジョンの拡張が始まったのは深夜である。その翌日には、自衛隊ならびにダンジョン開発推進機構のスタッフ達に集合が呼びかけられ、同日にメンバーリストが公開された。そして早速、合同チームメンバーらは新橋ダンジョン前で合流することになる。
前回の拡張の時から、再度また拡張があるかも知れないと予想されていた。そのため、これまで自衛隊とダンジョン開発推進機構は、合同での探索・討伐の訓練活動を繰り返し実施してきた。
ちなみに秋元はその合同の訓練活動には一切参加していない。
ただ、秋元は“魔王討伐者”であり、“魔法使い称号持ち”という価値があるために、参加が認められたようなものだった。
一方の佐久間柚彦は、品行方正で真面目な自衛隊員であり、ボスモンスター討伐専門チームの副隊長としても、今までの合同の訓練活動に漏れなく参加を続けてきた。
そうした意味で、合同チームメンバーらの尊敬の念と期待値は、佐久間柚彦対してはすこぶる高かった。
新橋ダンジョン周辺は、万が一に備えて周囲百メートル四方の立ち入りが制限され、規制線が張られた。警察官が数メートル間隔で付近に立ってものものしく警戒をしている。
頭上には、おそらく報道関係者のものであろうヘリが音を立てながら飛んでいた。
合同チームは、自衛隊員三十名、ダンジョン開発推進機構スタッフ三十名の、計六十名で構成される。
とはいえ、その六十名全員で新橋ダンジョンに突入するわけではなく、うち二十名を第一陣として突入させ、残り四十名は“不測の事態”が発生した際の“予備”として控えさせるのである。
ダンジョンの拡張とは、従来六十階層までの深度に至ったダンジョンが、更に下の階を作ることを意味する。仮に二十階層プラスされたとなると、深度は八十階層まで至る。
そして既存の階層主を倒した上で、新たに出現する階層の階層主まで倒さなければならない。かなりハードな討伐作業になることは予想されていた。
第一陣の二十名が討伐のために階層を下り、その一陣で問題なく倒せればよいが、もし倒せない場合は、モンスターラッシュが発生し、入口からモンスターが溢れる事態になる。
特に東京の新橋のような多くの人間が集まる場所でそれが発生した時には、悲惨な状況になる。そのため、第一陣の二十名に万が一があった場合に備えて、時間差で第二陣の二十名もダンジョン内に入って行く。まさしく“保険”である。第三陣の二十名もまた更なる備えとなるわけだった。
佐久間柚彦は、第一陣の合同チームのチームリーダーに推されていた。
ちなみに秋元と瓜生の二人は、第三陣に選抜されていた。
大会議室には、ダンジョン開発推進機構ダンジョン開発部のメンバーがほぼ全員勢ぞろいしていた。
マイクを手に開発部長は、壁面に掲げられているモニターを見ながら説明を始めた。
「昨日深夜より、開発機構が管理する新橋ダンジョンで微震が続き、モンスターの出没頻度も通常の五倍に急激に上昇しました。ダンジョン管理規定に基づき、新橋ダンジョンの一般探索者の入場を停止してしました。この異変は十年前の“ダンジョンの拡張”に見られた異変と同様のものとみなされ、現在、内閣府、国土交通省、自衛隊並びに弊社を交えて緊急会議が開かれています。アドバイザーの東都大学ダンジョン研究科吉本教授の言葉によると、これらの兆候は間違いなく“ダンジョンの拡張”の要件を満たすと思われ……」
用意された椅子に腕を組んで秋元は座った。その隣に瓜生が当然のように座る。
「秋元が時間通りに集合するなんて珍しいな」
「ダンジョンの拡張なら、来るでしょう」
「ふぅん。まぁいい。ここに来るってことはチームに参加するのか?」
瓜生が言うのは、拡張したダンジョンの新階層主の討伐のための合同チームのことだ。前回の拡張の際と同様に、自衛隊とダンジョン開発推進機構との間で、探索のための合同チームが結成されることは間違いないだろう。拡張ダンジョンの探索とモンスターの討伐。これは優れた専門スタッフ達で成し遂げなければならない。
「“勇者称号”を持つ柚彦君がいれば、大丈夫でしょう」
「参加しないのか?」
瓜生がその言葉に少し眉を下げている。なにやかんや、瓜生も秋元のことを頼れる仲間とみなしていた。
「一応、参加するつもりです」
「よし、頑張ろうぜ!! 秋元」
ガシリと肩を強く掴んでくる瓜生の様子に、秋元は苦笑する。
そして佐久間柚彦のことを考えた。自衛隊のボスモンスター討伐専門チームの副隊長を務める彼は、当然のように、この合同チームにも参加するだろう。
拡張ダンジョンでは、何が起こるかわからない。
だから、自分の参加は“保険”のつもりだった。何事もなければ、いつものように隅っこで傍観者のように黙っていればいいのだ。
そして、集合メールの配信があった同日中に、自衛隊とダンジョン開発推進機構との合同チームのメンバーリストが公開された。
その中には佐久間柚彦の名前もあれば、秋元恭史郎の名前もあったのだった。
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東京は新橋にあるダンジョンの拡張が始まったのは深夜である。その翌日には、自衛隊ならびにダンジョン開発推進機構のスタッフ達に集合が呼びかけられ、同日にメンバーリストが公開された。そして早速、合同チームメンバーらは新橋ダンジョン前で合流することになる。
前回の拡張の時から、再度また拡張があるかも知れないと予想されていた。そのため、これまで自衛隊とダンジョン開発推進機構は、合同での探索・討伐の訓練活動を繰り返し実施してきた。
ちなみに秋元はその合同の訓練活動には一切参加していない。
ただ、秋元は“魔王討伐者”であり、“魔法使い称号持ち”という価値があるために、参加が認められたようなものだった。
一方の佐久間柚彦は、品行方正で真面目な自衛隊員であり、ボスモンスター討伐専門チームの副隊長としても、今までの合同の訓練活動に漏れなく参加を続けてきた。
そうした意味で、合同チームメンバーらの尊敬の念と期待値は、佐久間柚彦対してはすこぶる高かった。
新橋ダンジョン周辺は、万が一に備えて周囲百メートル四方の立ち入りが制限され、規制線が張られた。警察官が数メートル間隔で付近に立ってものものしく警戒をしている。
頭上には、おそらく報道関係者のものであろうヘリが音を立てながら飛んでいた。
合同チームは、自衛隊員三十名、ダンジョン開発推進機構スタッフ三十名の、計六十名で構成される。
とはいえ、その六十名全員で新橋ダンジョンに突入するわけではなく、うち二十名を第一陣として突入させ、残り四十名は“不測の事態”が発生した際の“予備”として控えさせるのである。
ダンジョンの拡張とは、従来六十階層までの深度に至ったダンジョンが、更に下の階を作ることを意味する。仮に二十階層プラスされたとなると、深度は八十階層まで至る。
そして既存の階層主を倒した上で、新たに出現する階層の階層主まで倒さなければならない。かなりハードな討伐作業になることは予想されていた。
第一陣の二十名が討伐のために階層を下り、その一陣で問題なく倒せればよいが、もし倒せない場合は、モンスターラッシュが発生し、入口からモンスターが溢れる事態になる。
特に東京の新橋のような多くの人間が集まる場所でそれが発生した時には、悲惨な状況になる。そのため、第一陣の二十名に万が一があった場合に備えて、時間差で第二陣の二十名もダンジョン内に入って行く。まさしく“保険”である。第三陣の二十名もまた更なる備えとなるわけだった。
佐久間柚彦は、第一陣の合同チームのチームリーダーに推されていた。
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