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[挿話] 前途多難な恋

第六話 威力調査の立会い(上)

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 それから二か月ほどの時間が経過した。
 秋元は、ダンジョン開発推進機構のSランクスタッフとして働き始めた。
 元から、意気軒高にバリバリと働くタイプの男ではない。彼は「どうしても来て欲しい」と中林東京事務局長から言われない限り、ダン開開発部に出社して、その椅子に座ることはなかった。
 そんなことははなから承知していた中林も瓜生も、彼の適当ぶりについて苦情を言うことはなかった。
 そういう点が、秋元にとってダン開は居心地が良かった。

 しかし、ある日、その「どうしても来て欲しい」という言葉で、中林東京事務局長から請われたのだ。電話越しの彼の困った声を聞きながら、秋元は聞き返した。

「魔法を使っての、威力調査ですか? 自衛隊、米軍も交えてですか」

「そうだ。悪いが一度でいいから、本部の訓練室に足を運んでくれないか」

 秋元は眉を寄せる。
 ダン開スタッフだけでなく、自衛隊、米軍の者達まで立ち会わせて行うというのが嫌だった。
 ダン開は、上層部まで秋元は自分の意志を通すことができる(我儘が言える)。だが、自衛隊と米軍は違う。むしろあちらから我儘を言われた時に、それを拒絶できるだろうか。

 そしておそらく、ダン開と自衛隊の共同調査となると、佐久間柚彦もやって来る気がしていた。
 彼にはあれ以来、会っていない。そう、この二か月間、一度も会っていないのだ。
 秋元は、彼に再び会ってまた接触されて強引に“転移”の手段を封じられることを恐れていた。
 押さえ込まれてまた何かしら、誓いを強要されたらたまらない。
 
 前回は神との話し合いで“そば”の距離を拡大解釈することにより、彼のそばから離れることができた。
 自分でも強引なやり方だと思ったし、神には相当泣きつかなければならなかったのだ。
 そんなこと、二度と御免だった。

 秋元は、佐久間柚彦からの電話は着信拒否、メールも拒否、手紙も受け取り拒否を徹底していた。
 秋元は自分が柚彦には弱いことを知っていた。そうすることに心は痛んだが、仕方がない。声を聞いたら、心が揺らいでしまうから、電話は絶対に着信拒否だった。
 そのうちきっと、柚彦も諦めるだろうと思った。

 そう。彼も一人の立派な成人の男として、“父親”離れしていい時期だ。
 柚彦は自分の不幸な生い立ちのせいで、そこから救った秋元のことを、自分を守る親鳥のように思い、慕っている。そう刷り込まれている。
 

『秋元さんに、この世界にずっといて欲しい』

『貴方がいなくなることが寂しかったから。ずっと側にいて欲しいと思っていたから』

『秋元さんが、秋元さんの名にかけて、僕のそばにずっといることを誓ってくれるならいいですよ』

 
 重ねられる言葉も、間違えている。
 それは“執着”だった。
 そもそも、神への願いとするのが間違えている。そこで願うは、自分がその時、最も必要なものなのだ。

 最初から、全部彼は間違えているのだ。





 結局、秋元は中林東京事務局長の求めを承諾するしかなかった。
 ただし条件をつけた。特に、自分のそばには瓜生を付けて欲しいと頼んだ。
 そして絶対に、自衛隊や米軍のスタッフ達を、一メートル以上近寄らせないように求めた。

 それには瓜生は疑問の表情を見せた。

「なんで、近寄らせちゃダメなんだ」

 飛びつかれて押さえ込まれ、“転移”を封じられたら逃げ出せない。特に佐久間柚彦はいけない。あれは現世勇者だから、体力は魔法使いの自分を遥かに凌駕しているはずだ。強化魔法をかけても敵わないだろう。

「ダメだと言ったら、ダメなんです。貴方は、僕の護衛のように、僕を守ってくださいよ」

「わかったけどさ。でも、Sランクスタッフで、魔法使いのお前を襲おうとする奴はいないだろう? それも自衛隊や米軍の奴らだぜ」

 すでに佐久間柚彦に手を掴まれ、それを振り払えなかった前科がある。秋元はハーとため息をついた。

「とにかく、ダメなんです。中林事務局長には“精神集中のため、半径一メートル以内には誰も近寄らないようにして下さい”と、参加者全員に周知させました」

「おまっ、徹底するな」

「当たり前です」

 そう、自分の自由がかかっているのだ。
 当然のことだった。
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