上 下
129 / 174
[挿話] 前途多難な恋

第三話 再びのダンジョン開発推進機構

しおりを挟む
「ADDR(アメリカダンジョン開発機構)から出向して来た秋元です。宜しくお願いします」

 ダンジョン開発推進機構ダンジョン開発部の部屋に入って来た、東京事務局長中林ツグムの横にいる、ひょろりとした眼鏡の男はそう挨拶をした。

 その言葉に、開発部スタッフの何人かは口をあんぐりと開け、瓜生武にいたっては、わなわなとその体を震わせて言った。

「秋元!! お前は自衛隊に入ったんじゃなかったのか!!」

 その言葉に、秋元恭史郎はニコニコと笑いながらこう言った。

「いやだなぁ、自衛隊に入隊するには国籍条項があることを知らないんですか。僕は、アメリカ国籍なんで、自衛隊員にはなれないんですよ。アドバイザーだったんです」

「屁理屈言うな!! 自衛隊の官舎に入って、自衛隊の勇者と一緒に活動していたのに、どういう風の吹き回しだ」

「まぁ、色々とあったんですよ。僕としては古巣のこのダン開の方が居心地がいいんで、宜しくお願いします」

「というわけで、また秋元君がダン開スタッフに加わることになった」

「中林事務局長も、何すんなり受け入れているんですか。自衛隊にはちゃんと礼を尽くして別れたんだろうな。そうしないと、ダン開があんたを引き抜いたことになって揉めるぞ」

 それに一瞬、秋元は目を彷徨わせていた。そのことを、瓜生は見逃さなかった。

「おいおいおい、マジかよ。秋元」

「大丈夫、ただのアドバイザーだったから。うん、大丈夫」

「秋元おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 秋元の肩を掴んで、瓜生はグラグラと揺らしていたが、秋元は「大丈夫」「きっと大丈夫」「たぶん大丈夫」と言葉を連ねるだけで、信用ならなかった。


  *


 そしてその頃の、自衛隊基地の、ダンジョンモンスター討伐チームのメンバー達の待機する部屋の中は、まるでお通夜のような静けさであった。
 椅子に座っている副隊長の佐久間柚彦は無表情である。一切の感情を浮かべていないのが、その不機嫌さを表していると言える。隊長である柳良太隊長は我関せずという様子で、デスクについて書類を読み耽っている。
 室内のメンバー達は、内心(え、どうしたの。先日まであんなに機嫌が良かった副隊長が)と首を傾げている。ただ、その不機嫌さの原因については、皆、察していた。あれほど慕っていたアドバイザーの秋元恭史郎が突然、そのアドバイザーを辞任して、官舎の部屋から出ていってしまったからだ。辞任の手紙は、柳隊長の机に置かれていて、それには隊長も驚きを見せて、副隊長の柚彦に質問していた。
 柚彦は、能面のように表情のない顔で答えていた。

 「その手紙の文面通りです」とだけであった。
 その言葉の冷ややかさに、部屋にいた者達は内心、震えあがっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

湖畔の城―地獄の中で生まれた純愛

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:21

奴隷上がりの公爵家次男は今日も溺愛に気付かない

BL / 連載中 24h.ポイント:539pt お気に入り:6,757

浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

BL / 連載中 24h.ポイント:26,727pt お気に入り:1,997

‪白狼の虜囚―愛檻の神隠し―

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:279

狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:458

愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:147

異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

BL / 連載中 24h.ポイント:463pt お気に入り:1,868

処理中です...