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[挿話] 前途多難な恋

第一話 元聖女の結婚

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「麗子ちゃん」

 真っ白いウェディングドレスを纏った、林原麗子が式場のテーブルのそばまでやって来ると、西野光は少しばかり感動した面持ちで、彼女を見つめていた。

「結婚、おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「おめでとう」

 テーブルに座る面々も口々に祝いの言葉を口にする。
 光と同じテーブルに座る秋元恭史郎は、式場の席次表をはじめて見た時、少しばかり気が遠くなる思いがあった。
 テーブルについているのは、異世界に渡った勇者である西野光、その伴侶である竜騎士のゼノン、そして魔法使いの称号持ちの秋元、自衛隊に所属する現世勇者の佐久間柚彦というそうそうたるメンバーである。このメンバーだけで、一国を滅ぼせるくらいの戦力がある。そもそも、異世界に住んでいる西野光とゼノンを、この世界の結婚式にわざわざ呼ぶとはと、秋元は最初驚いたくらいであった。
 
 だが麗子が「お世話になった人を呼びたい。なかなか会えないのだから、この機会だけでも」と願われた。そう願われたのならば、秋元も動かざるを得ない。
 異世界に住むゼノンと、“竜族の宝”と言われる水晶玉を通して連絡し、光とゼノンの二人から出席の快諾を得た。光にいたっては大喜びであった。

「麗子ちゃんが結婚しちゃうのはすごく残念だけど、俺も麗子ちゃんにちゃんとお祝いを言ってあげたいんだ」

 かつて、光は聖女であった林原麗子と共に異世界で魔王討伐の旅に出て、魔王を倒すという偉業を一緒に為し遂げた。同時に彼は、当時、大層な美少女であった麗子にほのかな恋心を抱いていた。
 今はもうゼノンと結ばれ、その恋心にも終止符は打たれたようであるが。
 そしてゼノンはゼノンで、光の恋が終わったことの象徴でもある麗子の結婚式への出席を、断るはずもなかった。

 竜族は嫉妬深いのである。そこで光が少しでも麗子に靡くような行動を取れば、また光はゼノンに異世界で閉じ込められ、強引に“蜜月”に入らされるかも知れないなと、秋元は二人の様子を眺めていたが、光は完全に吹っ切れているようであった。純粋に、麗子に対して祝いの言葉を述べている。

 そんな様子に、ゼノンも晴れやかな顔をしていた。

(光君達は順調で何よりだな。そして麗子ちゃんも、これで一区切りということか)

 先日まで、現世の魔王討伐のパーティメンバーであった麗子は、討伐を無事に終えた後、聖女をやめて、一人の人間の女性として幸せになることを望んだ。優秀な聖女であった彼女が、聖女をやめてしまうのは、正直、大きな損失である。だが、彼女個人の幸せを考えるのならば、これが一番良い。

 ひな壇の上で、夫となった青年と仲睦まじい様子を見て、秋元も微笑んでいた。
 そんな秋元の傍らの席には、佐久間柚彦も座っている。

 彼は、ブラックスーツを身に付け、白のタイを締めている。当初、腐女子である麗子は「柚彦君は自衛隊の正装で来て!! 儀礼服もいいけど、新郎よりカッコよくなりそうだから、正装でお願い!!」と無茶な願いをしていた。

 自衛隊の儀礼服にいうと、相当目立つ。片方の肩から金色のモールをつけ、白手袋、そして儀礼刀を持つのだ。それを参列者にさせると、新郎よりも目立つことになる。だから、それはマズイとさすがに麗子も理解していた。そこで妥協して、自衛隊の制服で出席して欲しいと言うのだ。
 
 それについては、柚彦が返事をするよりも先に、秋元が「だめだ」と告げた。

 
 つい先日、現世の魔王討伐を行った柚彦は、世界的有名人である。
 自衛隊の制服姿の彼が、もし結婚式場に現れたのなら、会場はパニックになるのではないかと思った。だから、通常のブラックスーツで、目立たないように参列者の中に埋没してもらう方がいい。でないと、出席は難しいと言うと、悔し気に麗子は唇を噛んで「わかりました。秋元さんの仰る通りにします」と恨みがましい視線で見てきた。

 だから今、秋元の隣に座る柚彦はブラックスーツ姿だった。とはいえ、自衛隊で鍛え上げた逞しい体躯の持ち主である。そのスーツ姿もよく似合っている。
 参列者達は、席次にある柚彦の名前を何度も見ては、口をぽかんと開けていた。

 なぜ、話題の勇者、佐久間柚彦がこの結婚式に出席しているのか理解できないのだ。そしてその隣には、同じく魔法を使って活躍した秋元まで座っている。皆がチラチラとこちらを見ていることに、柚彦は苦笑していた。

「式が終わったら、早々に席を後にした方がいいね」

 秋元が小声でそう言うと、柚彦も頷いた。

「そうですね」

「えー、秋元さん達は二次会には出ないの?」

 光はそう言うが、隣のゼノンは首を振っていた。

「私達も帰りますよ」

「せっかく久しぶりに会えたのに」

 ブーと不満そうに唇を尖らせる光に、秋元は言った。

「また、会う機会がありますよ、光君」

「絶対だからな」

 光は秋元らにそう釘を刺していた。
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