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[挿話] 勇者の願い

第十七話 二回目の打ち合わせ

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 一週間後、二回目の打ち合わせが再び、佐久間柚彦の自衛隊官舎の自室で開かれていた。
 再び、秋元は聖女こと麗子を連れて現れたのだった。

 打ち合わせにおいて、大型魔獣の出現ポイントは、穢れがひどい地域に数日後、出現すると秋元は話していた。
 そしてその出現の有無については、聖女が“感じる”らしい。
 麗子ちゃんがこの辺りじゃないかというところまで行けば、いいのだと秋元は言っていた。
 結構アバウトなのだなと、柚彦は思った。

「僕と麗子ちゃんは、麗子ちゃんが大型魔獣を感じた時に、“転移”して移動していくのだけど、柚彦君はどうする?」

「国が自衛隊機を出してくれるという話ですが、間に合うでしょうか」

 不安そうな柚彦の言葉に、麗子はうなずく。

「今までも数日の猶予はありましたから、大丈夫だと思います」

 それから秋元は言った。

「魔獣を感じた時に、麗子ちゃんから、僕と柚彦君宛にメールを入れてもらいますね。そのメール連絡が来たら、動きましょう」

 聖女からのメールで、魔獣出現を教えてもらう……。
 いかにも現代風だった。

「聖女ちゃんからのメールは、魔法で送り主がわからないように処理するので、そこから足がつくことはないですよ。安心してやりとりして下さい。同じように、聖女ちゃん宛と僕宛も、そういう処理をしています」

「わかりました」

 麗子と柚彦はうなずいた。
 そして柚彦は秋元に尋ねた。


「本当なら、秋元さんは米軍用機で、現場に向かう予定だったんでしょう?」

「麗子ちゃんをさすがに米軍機に乗せるわけにはいかないからねー。ははははは。だから、僕の上司には断って、単独で移動するよ」

 秋元さんは苦笑いしている。
 ただ、現地へ直接、人目を避けることなく“転移”してしまうことにも抵抗がないわけではない。

「リチャードの、飛行機を借りるか……」

「リチャード=ブルマンの飛行機ですか」

 一瞬、なぜかその場に、ピリリとした緊張が走った。
 麗子は、何事かと秋元と柚彦の二人を見つめる。

「彼のことを知っているのかい?」

 秋元の問いかけに、柚彦はうなずいて、素直に告げた。

「貴方の男の恋人だという報告を受けています」

 それに、麗子は頬に両手を当て、「まぁ」と赤面してひどく嬉しそうに笑っていた。
 秋元は咳き込んでいた。

「…………ど、どこからそんな話に」

「貴方とブルマン氏が二人で暮らしていると」

 麗子はさらに「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と秋元に熱い視線を向け、「年上攻め? 年上受け? 秋元さんはどっちなの?」と血迷ったような発言をして、なおも秋元を咳き込ませて苦しめていた。
 秋元はハッキリと二人に言った。

「僕とリチャードは、そういう仲では決してない。彼の家に間借りしているだけだ。断じて、断じてそういう関係ではないからな!! あと、麗子ちゃん、君は結婚するんだろう。もう活動から卒業しなさい」

 秋元に麗子は叱られて、彼女はぷんと頬を膨らませ、唇を尖らせている。

「えー、絶対にいやです!!」

「君はもう二十八歳だろう。三十目前まで何やっているんだ」

「ヒドイ!! 女性の年齢をオープンにして責めるなんてヒドイです。見損ないましたよ、秋元さん」

 麗子が目を吊り上げる。
 秋元は疲れたようにため息をついて、柚彦に言った。

「麗子ちゃんは聖女で、かつ腐女子だ。彼女の餌になるような話題は謹んで欲しい。特に、僕をネタにするのはやめてくれたまえ」

「ブルマン氏ってどんな人なの? ハンサムなの?」

 早速、麗子がスマホで検索をかけて、出て来た金髪の青年実業家の映像の姿に、再びうっとりとした視線を向けていた。

「いい。いいわ!! いい人を、秋元さん見つけてくれたわね!!」

 何がどういい人なのか理解できないし、理解したくなかった。

「麗子ちゃん、僕とブルマン氏はそういう仲では断じてないからね!!」

「勇者君達がいなくなって、正直彩りが無くなっているなーと思っていたのよね。彼とゼノン君は、私にとっての貴重なオアシスだったのに」

「君の……脳内腐活動の……オアシスだったんだろう」

 げんなりとしている秋元に、頭の中が妄想の花畑になっている麗子。その二人を見て、ちょっとおかしくて柚彦は口元に笑みを浮かべた。
 柚彦が少しだけ笑ったのを見て、秋元は言った。

「よかった」

「……何がですか?」

 柚彦が不思議そうに言うと、秋元はこう言った。

「柚彦君は八年ぶりに会った時から、あまり君の笑顔を見ることがなかったからさ。君は、そうして少し笑った方がいいよ。仕事が大変なんだろうと思っていたけど、笑った方がずっといい」

 その秋元の言葉に、さっと柚彦は頬を赤らめて、視線を逸らした。
 その様子を見て、麗子はぽつりと呟いた。

「……秋元さんて、ちょっとたらしよね」

 それには、柚彦は同意だった。


 彼はいつも、自分が欲しい言葉をくれる。
 そして、その言葉は、自分の胸の中にじんわりと温かくしみ込んでくる。


「だからまぁ、三人も奥さんがいるんでしょうけど」 

 その後、告げられた麗子の爆弾発言に、柚彦は目を見開いた。
 そして柚彦は、秋元を凝視する。
 秋元はどこか困ったように、笑っていた。

「まあ……ね」

 彼は否定しなかった。




 三人?
 
 今、三人の奥さんがいると言った?

 重婚??



 その驚きの柚彦の視線に、秋元は言い訳するように言っていた。

「異世界では、その、一夫多妻も一妻多夫も認められているんだよ」

 秋元は、その時初めて、今まで一度も口にしていなかった、自分が異世界に住んでいることを柚彦に告げた。
 すでに予想していたことだけど、少しばかりいろいろな意味でショックだった。

 左手の薬指に結婚指輪をはめていたところから、既婚者であることは理解していた。
 でも、三人?
 三人も妻がいる?

 女の影をまったく感じない、どこか淡白にも見える彼が、その実、異世界では三人の妻を迎えての爛れたハーレム生活を送っているとは思わなかった。

 どこかショックを受けたような柚彦の様子に、困った顔をしている秋元だった。
 そしてそうしたショックを受けている柚彦を見て、麗子は少しばかり考え込んでいる様子だった。



 二回目の打ち合わせを終えた後、麗子と秋元は“転移”でまた部屋からいなくなった。
 しばらくして、柚彦のスマホに、直接林原麗子からメールが到着する(三人はメールアドレスと電話番号を交換していた)。

 「今日はお疲れ様です。これから、どうぞよろしくお願いします」という言葉と共に「何か私に質問したいことがあったら、気軽に言ってね。私、秋元さんとの付き合いもそこそこ長いので、柚彦君の疑問にも答えられると思います」と、謎の親切な提案があり、しばらくの間、柚彦はメールの文面を凝視していた。
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