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[挿話] 勇者の願い
第十五話 迎えに来た富豪
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七日間の日本での“汚染地拡大阻止の為の実務者協議”を終えた秋元が、一旦アメリカにチャーター機で帰国しようと空港に、他のアメリカダンジョン開発機構(ADDO)スタッフ達とぞろぞろと歩いている時、聞き慣れた声がかかった。
「アキモトー!!」
まさかと思って振り向くと、案の定、そこにはリチャード=ブルマンがニコニコとしながら立っていた。満面に笑みを浮かべて手を振っていた。
涼し気な白の麻のスーツに身を包み、周りにはボディガードらしき男達を連れている。
何故、アメリカにいるはずの富豪がここにいるのかと、秋元は唖然として彼を見つめていた。
「迎えに来てやった。驚いたか」
「驚きました。でも、僕は仕事で出張に来ているんですが」
そう。秋元はアメリカダンジョン開発機構(ADDO)の出張で来ているのだ。今から同僚達と一緒にチャーター機に乗って帰るところなのに、「迎えに来た」と言われてどうすればいいのだ。
「大丈夫だ。君の会社には話をつけてあるから、うちのチャーター機で一緒に帰ろう」
「……え、本当にそれ、ちゃんと許可取っているんですか」
「勿論だとも」
そのまま、秋元は別の搭乗口に引きずられるように連れて行かれる。
その姿を、見送りに来ていた佐久間柚彦と自衛隊同僚の伊勢谷進も少しばかり呆れたように眺めていた。
「……リチャード=ブルマンか。彼は秋元の男の恋人だという話だ」
伊勢谷のその言葉に、柚彦は目を見開いた。
「え?」
「ニューヨークのペントハウスで二人で暮らしているという話だぞ。調査部から聞いた。彼の現住所が、ペントハウスになっていて、あんな億万長者が住むようなところになぜ、ADDOスタッフが住んでいるのかという話になって、調査したらしい」
「……………秋元さんに……男の恋人?」
信じられないように柚彦は口に手を当て、しばらく立ち尽くしていた。
そもそも、秋元は、昔から左手の薬指に結婚指輪をはめていた。彼が既婚者であることは明らかだった。
その結婚をしながらも、別の男とも関係を持っているというのか。
乱れた生活を秋元がしていることに、ショックを受けた柚彦であった。
そんな会話のことなど全く知らぬ秋元は、チャーター機の、そのゆったりとしたシートに座り、優雅にワインを供されていた。彼は、どこか呆れたようにその、豪華なチャーター機の内装を眺めていた。
「お金持ちっていうのは便利でいいですね」
「時間こそが金だからね。移動はもっぱらチャーター機だよ。君も今後、移動したい時からあれば、使っていいよ。しっかし、日本の梅雨というのは湿度が高くて嫌になるね」
「そうですね。外国から来た人はみんなそう言います」
秋元はワインを口にした。
「美味しいワインですね」
「そうだろう」
嬉々としてリチャードはワインを口にしていた。
「忙しいでしょうに。わざわざ迎えに来なくても良かったのに」
「そこは喜んで、アリガトウと日本語で言うところだ」
「アリガトウ」
そう言うと、リチャードは満足そうに頷いていた。
それからぼそっと言った。
「暇だったから、別にいいんだ」
「……そうですか」
肺がんの治療のため、一旦全ての仕事をストップしていたリチャードは、ようやく少しずつ仕事を再開しているらしい。それでも、健康だった時のように、仕事に追われる生活はしないように調整しているようだ。
仲の良い友人達と会ったり、時折旅行へ出かけたりしていることは聞いている。
「しかし、アキモト。君は凄いな。もう海外出張をするくらい仕事が任せられるようになっているのだから。さすが“魔法使い”だ」
「アリガトウ」
「で、アキモトは“勇者”と一緒に魔王退治に参加するのか?」
その問いかけに、ワインを口にしながら、秋元は答えた。
「勇者一行の魔法使いだから、当然ですよ」
「アキモトー!!」
まさかと思って振り向くと、案の定、そこにはリチャード=ブルマンがニコニコとしながら立っていた。満面に笑みを浮かべて手を振っていた。
涼し気な白の麻のスーツに身を包み、周りにはボディガードらしき男達を連れている。
何故、アメリカにいるはずの富豪がここにいるのかと、秋元は唖然として彼を見つめていた。
「迎えに来てやった。驚いたか」
「驚きました。でも、僕は仕事で出張に来ているんですが」
そう。秋元はアメリカダンジョン開発機構(ADDO)の出張で来ているのだ。今から同僚達と一緒にチャーター機に乗って帰るところなのに、「迎えに来た」と言われてどうすればいいのだ。
「大丈夫だ。君の会社には話をつけてあるから、うちのチャーター機で一緒に帰ろう」
「……え、本当にそれ、ちゃんと許可取っているんですか」
「勿論だとも」
そのまま、秋元は別の搭乗口に引きずられるように連れて行かれる。
その姿を、見送りに来ていた佐久間柚彦と自衛隊同僚の伊勢谷進も少しばかり呆れたように眺めていた。
「……リチャード=ブルマンか。彼は秋元の男の恋人だという話だ」
伊勢谷のその言葉に、柚彦は目を見開いた。
「え?」
「ニューヨークのペントハウスで二人で暮らしているという話だぞ。調査部から聞いた。彼の現住所が、ペントハウスになっていて、あんな億万長者が住むようなところになぜ、ADDOスタッフが住んでいるのかという話になって、調査したらしい」
「……………秋元さんに……男の恋人?」
信じられないように柚彦は口に手を当て、しばらく立ち尽くしていた。
そもそも、秋元は、昔から左手の薬指に結婚指輪をはめていた。彼が既婚者であることは明らかだった。
その結婚をしながらも、別の男とも関係を持っているというのか。
乱れた生活を秋元がしていることに、ショックを受けた柚彦であった。
そんな会話のことなど全く知らぬ秋元は、チャーター機の、そのゆったりとしたシートに座り、優雅にワインを供されていた。彼は、どこか呆れたようにその、豪華なチャーター機の内装を眺めていた。
「お金持ちっていうのは便利でいいですね」
「時間こそが金だからね。移動はもっぱらチャーター機だよ。君も今後、移動したい時からあれば、使っていいよ。しっかし、日本の梅雨というのは湿度が高くて嫌になるね」
「そうですね。外国から来た人はみんなそう言います」
秋元はワインを口にした。
「美味しいワインですね」
「そうだろう」
嬉々としてリチャードはワインを口にしていた。
「忙しいでしょうに。わざわざ迎えに来なくても良かったのに」
「そこは喜んで、アリガトウと日本語で言うところだ」
「アリガトウ」
そう言うと、リチャードは満足そうに頷いていた。
それからぼそっと言った。
「暇だったから、別にいいんだ」
「……そうですか」
肺がんの治療のため、一旦全ての仕事をストップしていたリチャードは、ようやく少しずつ仕事を再開しているらしい。それでも、健康だった時のように、仕事に追われる生活はしないように調整しているようだ。
仲の良い友人達と会ったり、時折旅行へ出かけたりしていることは聞いている。
「しかし、アキモト。君は凄いな。もう海外出張をするくらい仕事が任せられるようになっているのだから。さすが“魔法使い”だ」
「アリガトウ」
「で、アキモトは“勇者”と一緒に魔王退治に参加するのか?」
その問いかけに、ワインを口にしながら、秋元は答えた。
「勇者一行の魔法使いだから、当然ですよ」
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