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[挿話] 勇者の願い
第七話 提案
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新しくアメリカダンジョン開発機構の討伐スタッフとして加入したアキモトという東洋人のその男に、正直、現場スタッフ達は皆、驚いていた。
討伐スタッフは、いずれも筋骨逞しい若い男ばかりである。
そこに、ひょろりとしたまったくその身を鍛えたことがないような男が加わったのである。
試験に不正が行われたのではないかと、ひそひそと声を潜めて言う者達もいたが、Aランクスタッフに実技で勝利したことは確かなようだった。
アキモトは、他のスタッフ達と何度か討伐に赴いたが、特に問題もなく任務もこなしていた。
疲れも見せずに、要所要所を押さえて戦う彼に、見直したような視線を向けるスタッフ達も多かった。
だが、彼が注目を集めたのは、仲が良くなってきたスタッフに、こう話を持ち出したからだ。
「僕、エンチャントの能力があるんですよね。少し試してみませんか?」
ルーサーというアフリカンアメリカンの青年スタッフが、「エンチャント?」と首を傾げて言っていた。
「そうです。競技施設内でちょっと試してみましょうか」
ルーサーの他、仲の良いロイという男が協力することになった。
「じゃあ、ルーサーにエンチャントかけますので、エンチャント無しのロイと戦ってみてください」
アキモトはルーサーに手をかざす。その一瞬、ルーサーの全身が光ったが、その光はすぐに消えた。
だが、掛けられたルーサーは目を瞠っていた。
「え……これって、すげぇぇぇぇぇぇぇ」
彼は叫びながら、ロイに向かっていき、そして信じられないような高さまで跳躍し、飛び掛かってはロイの身体を固い床の上にガバリと押さえ付けた。
ロイは抵抗しようにも、恐ろしいほどの力で押さえ付けられて思うように抵抗ができない。
「エンチャントは、その効力がある間は体力を増強、増大させます。わかりますよね」
「ギブ、ギブ」
押さえ込まれたロイは、バンバンと床を叩く。やがてしかめっ面をして起き上がったロイは、強化されたルーサーの強力で押さえ付けられて、赤くなった手足に眉を寄せていた。
「じゃあ、今度はロイにエンチャントをかけますね」
エンチャントをかけられたロイはにやりと笑う。
今度は逆転していた。
アキモトがエンチャントという技能が使えると聞いた、アメリカダンジョン開発機構の上層部は驚いていた。
その技能は、未知のスキルであった。
すぐさまアキモトは、機構の研究部に呼び出され、ヒアリングやら検査を受けた。
当然、エンチャント技能を明らかにすれば、検査を受けることになるだろうとアキモトは予想していたため、抵抗することなく従順にヒアリングなどにも答えていった。
むしろ、このエンチャントの能力を“使える”と見なしてもらって、ハイレベルモンスターの討伐にも自分を連れていくようにして欲しかった。
このエンチャントの能力は“支援”タイプの能力であり、アキモトにとって最もなメリットなことは「強化した他人に戦ってもらって、自分は戦わなくて済む」という点であった。
相変わらず、彼は他者に働いてもらって、自分は楽したい主義だった。
そして皆、エンチャントという技能だと見ていたが、それは本来、魔法による付与に過ぎない。
魔法という能力が知られていない中だからこそ、エンチャントという技能として無理やり言い張ることができたのだった。
そしてアキモトの目論見通り、米国内でも魔王降臨を控えての、穢れの発生がダンジョン外でも現れ出していた。
米国陸軍及び、州軍の派兵がされていたが、そのうち、アメリカダンジョン開発機構の討伐スタッフにも声が掛けられるようになった。
魔王降臨に伴う穢れから出没するモンスターは、高レベルモンスターであり、それ相応に訓練を受けた者でなければ、太刀打ちができないものであった。
討伐スタッフは、いずれも筋骨逞しい若い男ばかりである。
そこに、ひょろりとしたまったくその身を鍛えたことがないような男が加わったのである。
試験に不正が行われたのではないかと、ひそひそと声を潜めて言う者達もいたが、Aランクスタッフに実技で勝利したことは確かなようだった。
アキモトは、他のスタッフ達と何度か討伐に赴いたが、特に問題もなく任務もこなしていた。
疲れも見せずに、要所要所を押さえて戦う彼に、見直したような視線を向けるスタッフ達も多かった。
だが、彼が注目を集めたのは、仲が良くなってきたスタッフに、こう話を持ち出したからだ。
「僕、エンチャントの能力があるんですよね。少し試してみませんか?」
ルーサーというアフリカンアメリカンの青年スタッフが、「エンチャント?」と首を傾げて言っていた。
「そうです。競技施設内でちょっと試してみましょうか」
ルーサーの他、仲の良いロイという男が協力することになった。
「じゃあ、ルーサーにエンチャントかけますので、エンチャント無しのロイと戦ってみてください」
アキモトはルーサーに手をかざす。その一瞬、ルーサーの全身が光ったが、その光はすぐに消えた。
だが、掛けられたルーサーは目を瞠っていた。
「え……これって、すげぇぇぇぇぇぇぇ」
彼は叫びながら、ロイに向かっていき、そして信じられないような高さまで跳躍し、飛び掛かってはロイの身体を固い床の上にガバリと押さえ付けた。
ロイは抵抗しようにも、恐ろしいほどの力で押さえ付けられて思うように抵抗ができない。
「エンチャントは、その効力がある間は体力を増強、増大させます。わかりますよね」
「ギブ、ギブ」
押さえ込まれたロイは、バンバンと床を叩く。やがてしかめっ面をして起き上がったロイは、強化されたルーサーの強力で押さえ付けられて、赤くなった手足に眉を寄せていた。
「じゃあ、今度はロイにエンチャントをかけますね」
エンチャントをかけられたロイはにやりと笑う。
今度は逆転していた。
アキモトがエンチャントという技能が使えると聞いた、アメリカダンジョン開発機構の上層部は驚いていた。
その技能は、未知のスキルであった。
すぐさまアキモトは、機構の研究部に呼び出され、ヒアリングやら検査を受けた。
当然、エンチャント技能を明らかにすれば、検査を受けることになるだろうとアキモトは予想していたため、抵抗することなく従順にヒアリングなどにも答えていった。
むしろ、このエンチャントの能力を“使える”と見なしてもらって、ハイレベルモンスターの討伐にも自分を連れていくようにして欲しかった。
このエンチャントの能力は“支援”タイプの能力であり、アキモトにとって最もなメリットなことは「強化した他人に戦ってもらって、自分は戦わなくて済む」という点であった。
相変わらず、彼は他者に働いてもらって、自分は楽したい主義だった。
そして皆、エンチャントという技能だと見ていたが、それは本来、魔法による付与に過ぎない。
魔法という能力が知られていない中だからこそ、エンチャントという技能として無理やり言い張ることができたのだった。
そしてアキモトの目論見通り、米国内でも魔王降臨を控えての、穢れの発生がダンジョン外でも現れ出していた。
米国陸軍及び、州軍の派兵がされていたが、そのうち、アメリカダンジョン開発機構の討伐スタッフにも声が掛けられるようになった。
魔王降臨に伴う穢れから出没するモンスターは、高レベルモンスターであり、それ相応に訓練を受けた者でなければ、太刀打ちができないものであった。
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