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第三章 現世ダンジョン編 ~もう一人の勇者~

第二十五話 そして二人は再び“蜜月”へ

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 光はゼノンの腰にタックルするようにしがみついたまま“転移”した。
 “転移”した先は、異世界のツリーハウスの寝台の上だった。

 ぼふんと跳ね上がり、柔らかな寝台の上に光はゼノンの腰にしがみついた状態であった。

 そのままゼノンは光の身体を抱き締め、ぐるりと下に組み敷いた。
 そして光の頬に手をやり、口づけを顔中に降らせる。

「光、光、会いたかった」

 そのままの勢いで、抱かれそうになっていることに気が付いた光はゼノンの胸を手で押す。
 二人揃って転移したことにより、魔力が急速に失われたせいで眩暈もする。
 それでも、光は弱々しく抵抗した。

「ゼノン、ちょっと……だめだ」
 
 唇を重ね、ゼノンの手が光の際どい場所に触れようとしていることに気が付くと、光は顔を赤らめつつ、怒ったように言った。

「ゼノン、離せ!!」

 そこでようやくゼノンは動きを止めて、悲しそうな瞳で光を見下ろした。

「…………どうしてだめなんだ?」

「……お前のことは好きだ。でも、俺の話をちゃんと聞かないのは嫌だ。俺を閉じ込めようとするのも嫌だ」

「…………」

「ゼノン、聞いているのか?」

「好きだから、君を愛しているから、どうしようもないんだ」

 その答えに、「ハァ?」と呆れたような目をする光。
 再び光の顔に口づけの雨を降らせていく。

「君が好きだ。番である君を前にすると、理性が保てない」

 すでにその緑色の瞳の瞳孔が縦になっており、ゼノンの息もハァハァと荒い。
 その獣じみた変化に、光は諦めたようなため息をついた。

「…………早く落ち着いてくれ」

「……光」

 諦めたように光はゼノンの背に手を回した。

「時々、逃げ出すのは許せ」

「いやだ」

 即答えるゼノンに、光は「ずるいぞ」と言いながら、互いに唇を合わせ、舌を絡ませた。
 やがて甘い喘ぎ声が満ちていった。








 それから、光が秋元に連絡をしたのは一か月後であった。
 彼はゼノンが眠っている隙に寝台から下りて、置手紙を残してツリーハウスを後にした。
 手紙を残さないと、また現世まで探しに来られて騒動になることを恐れたからだ。

 光は秋元が、現世から異世界へ帰って来ていることを聞いていた。
 だから、秋元の家に行くと、やはり彼がいた。
 
「やぁ、光君。久しぶりだね」

「……この間はすみません」

 それに秋元は手をひらひらと動かした。

「いいってことだよ」

 そして、光を家の中に招き入れた。

 

 あの、大分ダンジョンの後に二人で会うのは初めてだった。
 光はその後の話を聞きたかったのだ。

 秋元の話だと、相当、秋元は自衛隊とダンジョン開発推進機構の者達に問い詰められたらしい。
 だが、秋元はごまかし続け、そして自分がどこかに連れていかれそうなことを察すると、彼もまた“転移”して逃げ出したらしい。
 とりあえず、ほとぼりが冷めるまで、現世へは渡らないと秋元は述べていた。

 その後、国内の七つのダンジョンは全て“拡張”を無事に終えた。次の“拡張”が始まるまではまだ時間がある。
 しばらく放っておいていいだろうと言っていた。

 ただ、“魔王”が現れる時になると、また大変になるから、その時は仕方ないから様子を見に行くという話だった。

 異世界へ戻ってきても、秋元は元の世界のことを気にすることはやめられないようだった。

「あちらの世界の、勇者の柚彦君はその後どうなの?」

 秋元の妻の一人が出してくれたお茶とお菓子を摘まみながら、光が尋ねると、秋元はバリンと煎餅を口で割りながら言った。

「順調に育っている。魔法も使えるようになったみたいだ」

「時々様子を見に行っているの?」

「さっき言ったように、しばらくは現世には渡れないから、魔法で覗くくらいだよ」

 あれほど秋元のことを慕っていた佐久間柚彦。秋元に会えなくなった今、かなり気落ちしているだろうと思われた。
 
「ほとぼりが冷めたら、柚彦君に会ってあげてよ」

「ああ」

 そう答えたが、それは当分先になるであろうと秋元は思っていた。






「ゼノン君とはどう? こうして出て来られたということは、閉じ込められるのはなんとか大丈夫になったの?」

 そう秋元が問いかけると、光は頭を振る。
 今日だって、こっそり出てきたのだ。見つかればまたあのツリーハウスに連れ戻されるだろう。

「…………秋元さん、“蜜月”っていつ終わるものなの?」

 もう光の肩には番の徴である鱗だって現れている。終わっていてしかるべきだと光は思っていた。
 なのに、ゼノンは番である光を前にすると、未だに理性が飛んでしまって、身体を求めてくるのだ。

「…………………………」

 その問いかけに、秋元は煎餅を口にしたまま、無言だった。
 嫌な予感がした。

「ねぇ、秋元さん。まさか、ずっと続くってことないよね」

 ふいと逸らされる秋元の視線。
 それが答えのような気がした。

「ゼノン君はかなり拗らせていたから、長いとしか言えない……一度中断しているし……」

「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ、ちょっと待ってよ」

 その時、秋元の家のドアノッカーが激しく叩かれる音がした。
 ビクンと光は身を揺らし、秋元と目を合わせる。

 カンカンカンと叩かれ続けるドアノッカーの音。

「ほら、お迎えが来たよ」

 秋元の言葉に、光は深くため息をついて、玄関へ向かったのだった。
 案の定、そこにいたのはゼノンで、彼は再び攫うように光を連れていった。
 秋元は煎餅を口にしたまま、手を振って見送った。

 拗らせた竜族の“蜜月”は年単位で続くとは、とても光には言えない秋元だった。
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