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第三章 現世ダンジョン編 ~もう一人の勇者~

第十九話 勇者二人(上)

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 翌日には、秋元は光のために身分証もダンジョンの入場許可証も用意してきた。
 仕事が早い。とはいえ、秋元は現世での協力者に指示するだけであった。
 光はAランクになった。探索者のAランクまでは、推薦で上がることができる。
 そして、秋元は光にダンジョン開発推進機構の緑色の制服まで用意していた。

「君はアルバイト待遇で、会社に入ってもらうね」

「……秋元さんて、こっちでも働いているの?」

「僕は働き者だからね。ここの社員になっている」

 車の運転をしている秋元。
 光を助手席に乗せて運転している。
 異世界では三人の奥さんがいてあちらを本拠地としながらも、秋元はこちらでも社会的な身分を手に入れてしっかりと生活しているようだ。
 その器用さに光は驚いていた。

「秋元さんてすごいな。会社員として生活もして、家はこっちにもあるし、それに車の運転もできるなんて……」

「……光君だってやろうとしたら、たぶんできるよ」

「本当?」

「まぁ、君の場合は、ゼノン君が許してくれたらという条件がつくけれどね」

 秋元は車を空港の駐車場に入れた。
 そしてトランクから荷物を取り出すと、光を促す。

「さぁ、行くよ」

「どこに行くの?」

 光は秋元の指示のまま、着替えたり、移動していた。
 彼の指示は目まぐるしい。
 今度は飛行機に乗って出かけるというのだ。

「大分だ。大分県にある自衛隊管理のダンジョンで、昨日から深層化が始まっている」

「……深層化って、ダンジョンの進化のこと?」

「そうだね。君も異世界で経験したことあるのかい?」

「一度だけだけど。でも、こっちのダンジョンでは初めてだ」

「まだ一回目の深層化だからたいしたことはないんだけどね。ダンジョンに行くのは、君に会ってもらいたい子がいるんだ」

「?」

「おいおい話すけれど、その子はこちらの世界の“勇者”だ」

 光は目を丸くして、叫んだ。

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 地下の駐車場であったから、その声が反響して響き渡る。
 秋元は顔をしかめて、光の口を手で塞いだ。

「そんな声を出さない」
 
 めっという感じで叱られて、光は声を出さずに口をぱくぱくと動かしていた。

「こっちの世界にも勇者が生まれているのか」

「そうだよ。前にも話しただろう。こちらの世界もゆくゆくは、魔法が使えるようになる。ダンジョンもできて、そして勇者も生まれてくる」

「マジ……なんか思ったよりも早い気がする」

「そんなことはないよ。異世界とこちらの時間の過ぎる早さが違う話はしただろう。君は異世界にいたから、一瞬でそういう変化が起きたように思えているけど、もう四年が経っているし、君が箱根から異世界へ渡った後に三か月が経過している。そのあたりは忘れないようにしないとね」

「わかった」

 秋元は荷物を持ち、光をうながした。

「さ、飛行機に乗るよ。大分までは100分くらいだ。暇だろうから、なんか雑誌でも買っていこう」

 彼の後を慌てて光は追いかけた。




 春の大分県は温かかった。
 
「大分はいいところだよ。そうだ、光君は温泉が好きなんだよね」

 空港を下りて、タクシー乗り場に向かいながら秋元はそう言った。
 うなずく光。

「ここには湯布院という温泉もあるし、機会があればまたゼノン君と遊びに来るといい」

「湯布院!! 名前だけ聞いたことある」

「有名だからね。自然豊かで本当にいいところだよ」

「うん、今度ゼノンと一緒にくるよ」

 そう答える光を見て、秋元は(これなら大丈夫かな)と思った。
 竜族のゼノンと蜜月に突入した光は、勇者といえど十六歳の少年だ。
 彼が一方的にゼノンに求められ、そしてゼノンの執着を露骨に見せられ(実際、光はゼノンに閉じ込められそうになったと零していた)、彼を嫌うようになってしまったら、これまた面倒なことになると思っていたが、あの重すぎる蜜月を過ぎてなお、彼はゼノンに好意を持っているようだった。




 乗車したタクシーに、自衛隊のダンジョン駐屯地へ向かってもらう。
 秋元は、すでにそこに“拡張ダンジョン対策チーム”として、自衛隊のダンジョンエリートと呼ばれる討伐専門チームとダンジョン開発推進機構のSランクスタッフ達が向かっていることを知っていた。
 その選抜チームには、当然のように佐久間柚彦も含まれていた。
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