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第三章 現世ダンジョン編 ~もう一人の勇者~
第十六話 竜族の番の徴(上)
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しばらく異世界には戻りたくないという光の言葉を受けて、麗子は彼のためにビジネスホテルの一室を予約した。
明日の朝、また麗子が会いに行くと告げると、彼はうなずいて、小さな声で「ありがとう」と言っていた。
自分は間違えていないと言いながらも、やはり気落ちしている様子だった。
彼は十六歳の少年なのだ。
出会った頃は、ゼノンのことをホモだ変態だと毛嫌いしていた光であったが、とうとうそのゼノンに絆されて結ばれたと聞くと、共に異世界で冒険の日々を過ごしていた麗子としては感慨深い。
番だと言っていたゼノンは、光のことを一途にずっと、しつこくしつこくしつこく想っていた。常にそばにいて、最後には親友ポジションまで得て、その結果の粘り勝ちだったと思う。
だけど……
好きすぎて……
その愛が重すぎたということか。
三週間毎日していたという言葉に……麗子はドン引きしていた。
麗子は光のこともゼノンのことも好きだった。腐女子としても好きだったし、友人としても二人のことは大好きだ。
なんとか二人を仲直りさせたい気持ちもあった。
けれど、光が我慢して、理不尽な目に遭うことは違うと思う。
ゼノンは、異世界から現世へ渡る魔法は使えないため、彼が追いかけてきて、強引に光を捕まえるという事態は、今のところ考えられないだろう。
だから、光がしばらくこの現世にいられるのは、彼が自分の中の感情を整理する時間ができるという意味で、丁度良いのかも知れない。
自宅へ帰宅した麗子は、魔法使いの秋元へ電話した。
彼が異世界へ戻っている時には、当然電話は繋がらないのだけど、もしかしたら、現世へ来ているかも知れないと思ってのことだった。
そして電話口に、秋元が出たので麗子はホッとした。
彼もまた現世にやって来ているのだ。
「ご無沙汰しています。林原麗子です」
「久しぶりだね、麗子ちゃん」
相変わらず飄々とした声で返事をする。
元気そうだ。
「光君が、こちらの世界に渡ってきていて」
そう告げると、電話口の秋元はしばらく沈黙していた。
長い沈黙の後、「え? 本当」と言っていた。
「本当です。その……ゼノン君といろいろとあって、こっちに一人で渡ってきたと言っていました」
それには、秋元は受話器口の向こうで頭を抱えている気配があった。
「あー、そうきたか」とか言っている。
そしてまたしばらくの沈黙の後、彼は言った。
「それで、光君はどうしているの?」
「私の方でホテルの部屋をとって、彼を今晩はそこに泊めています。ただそれから先のことについて、秋元さんにも相談に乗ってもらいたくて」
「そうだね。わかった。明日、光君に会えるかな。ホテルの場所を教えてもらえれば、僕、そこに行くから」
そう言われて、麗子は秋元にホテルの場所と、明日の朝、自分もホテルに向かうことを伝えた。
秋元も一緒に行くと言われて、更に安堵したのだ。
なんとなく、彼に任せていればなんとかなるだろうという気持ちがあった。
異世界にいる時でもそうだった。
魔法使いの秋元は何でも知っていて、頼りになる大人だった。
そして翌日、秋元はホテルで光に会うなり、こう聞いた。
「光君、ゼノン君との“蜜月”はちゃんと終わらせられたの? 何日くらいやっていたの」と。
その露骨な質問に、光の額に青筋が立っているのを麗子は認めた。
ハラハラと見ている麗子に、光は顔を強張らせている。
「なんでそんなこと言わないといけないんだよ!!」
「大事なことだよ。君、身体のどこかにちゃんと鱗とか出てる?」
その言葉に、ようやく怒るのを止めて光はキョトンとした顔をした。
「鱗?」
「そうだよ。まぁ、ポピュラーなのは腕だね。ちょっと失礼」
秋元は光の手を取り、袖をまくり上げた。
そしてジロジロと見た後、声を上げた。
「ああ、右肩の下に出ているね。自分では気づかなかった?」
麗子も光の右肩の少し下に、銀色に輝く鱗を見つけて声を失っていた。
「……光君、鱗が右肩下に出ているわよ」
「マジ?」
彼は立ち上がり、ホテルの部屋の浴室に駆け込むと、その鏡でなんとか自分の肩を見ようとしていた。
そして触れて、滑らかな鱗がそこに生えていることに絶句していた。
「な、な、な、なんじゃこりゃああああああ」
と少年にあるまじき悲鳴を上げていた。
明日の朝、また麗子が会いに行くと告げると、彼はうなずいて、小さな声で「ありがとう」と言っていた。
自分は間違えていないと言いながらも、やはり気落ちしている様子だった。
彼は十六歳の少年なのだ。
出会った頃は、ゼノンのことをホモだ変態だと毛嫌いしていた光であったが、とうとうそのゼノンに絆されて結ばれたと聞くと、共に異世界で冒険の日々を過ごしていた麗子としては感慨深い。
番だと言っていたゼノンは、光のことを一途にずっと、しつこくしつこくしつこく想っていた。常にそばにいて、最後には親友ポジションまで得て、その結果の粘り勝ちだったと思う。
だけど……
好きすぎて……
その愛が重すぎたということか。
三週間毎日していたという言葉に……麗子はドン引きしていた。
麗子は光のこともゼノンのことも好きだった。腐女子としても好きだったし、友人としても二人のことは大好きだ。
なんとか二人を仲直りさせたい気持ちもあった。
けれど、光が我慢して、理不尽な目に遭うことは違うと思う。
ゼノンは、異世界から現世へ渡る魔法は使えないため、彼が追いかけてきて、強引に光を捕まえるという事態は、今のところ考えられないだろう。
だから、光がしばらくこの現世にいられるのは、彼が自分の中の感情を整理する時間ができるという意味で、丁度良いのかも知れない。
自宅へ帰宅した麗子は、魔法使いの秋元へ電話した。
彼が異世界へ戻っている時には、当然電話は繋がらないのだけど、もしかしたら、現世へ来ているかも知れないと思ってのことだった。
そして電話口に、秋元が出たので麗子はホッとした。
彼もまた現世にやって来ているのだ。
「ご無沙汰しています。林原麗子です」
「久しぶりだね、麗子ちゃん」
相変わらず飄々とした声で返事をする。
元気そうだ。
「光君が、こちらの世界に渡ってきていて」
そう告げると、電話口の秋元はしばらく沈黙していた。
長い沈黙の後、「え? 本当」と言っていた。
「本当です。その……ゼノン君といろいろとあって、こっちに一人で渡ってきたと言っていました」
それには、秋元は受話器口の向こうで頭を抱えている気配があった。
「あー、そうきたか」とか言っている。
そしてまたしばらくの沈黙の後、彼は言った。
「それで、光君はどうしているの?」
「私の方でホテルの部屋をとって、彼を今晩はそこに泊めています。ただそれから先のことについて、秋元さんにも相談に乗ってもらいたくて」
「そうだね。わかった。明日、光君に会えるかな。ホテルの場所を教えてもらえれば、僕、そこに行くから」
そう言われて、麗子は秋元にホテルの場所と、明日の朝、自分もホテルに向かうことを伝えた。
秋元も一緒に行くと言われて、更に安堵したのだ。
なんとなく、彼に任せていればなんとかなるだろうという気持ちがあった。
異世界にいる時でもそうだった。
魔法使いの秋元は何でも知っていて、頼りになる大人だった。
そして翌日、秋元はホテルで光に会うなり、こう聞いた。
「光君、ゼノン君との“蜜月”はちゃんと終わらせられたの? 何日くらいやっていたの」と。
その露骨な質問に、光の額に青筋が立っているのを麗子は認めた。
ハラハラと見ている麗子に、光は顔を強張らせている。
「なんでそんなこと言わないといけないんだよ!!」
「大事なことだよ。君、身体のどこかにちゃんと鱗とか出てる?」
その言葉に、ようやく怒るのを止めて光はキョトンとした顔をした。
「鱗?」
「そうだよ。まぁ、ポピュラーなのは腕だね。ちょっと失礼」
秋元は光の手を取り、袖をまくり上げた。
そしてジロジロと見た後、声を上げた。
「ああ、右肩の下に出ているね。自分では気づかなかった?」
麗子も光の右肩の少し下に、銀色に輝く鱗を見つけて声を失っていた。
「……光君、鱗が右肩下に出ているわよ」
「マジ?」
彼は立ち上がり、ホテルの部屋の浴室に駆け込むと、その鏡でなんとか自分の肩を見ようとしていた。
そして触れて、滑らかな鱗がそこに生えていることに絶句していた。
「な、な、な、なんじゃこりゃああああああ」
と少年にあるまじき悲鳴を上げていた。
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