俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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第三章 現世ダンジョン編 ~もう一人の勇者~

第三話 もう一人の勇者(下)

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「柚彦君は、またあの男に会いに行っているの?」

「そうだよ」

 自衛隊情報本部ダンジョン情報科の皆本瑠璃は、不満そうな顔で唇を尖らせていた。

「あの怪しい男に、柚彦君が一人で会いに行くことをよくお許しになっていること」

 そう言うと、同僚の田中久志が肩をすくめた。

「そういう取り決めがあることは、君も知っているだろう」

 それには瑠璃は唇を尖らせていた。

「私だったら、あんな怪しい男には絶対に会わせないわ。柚彦君は貴重な“勇者”称号持ちなのに」

「会うといっても、護衛もついているし、問題はない。今までだって問題なく会っていたんだ。佐久間さんのお考えもあるのだろう」

 佐久間柚彦は、ダンジョン入場許可証による記載で判明したのだが、彼は極めて貴重な“勇者”称号を持つ少年だった。
 当初、ダンジョン開発推進機構に持ち込まれた“案件”であったが、それを強引に奪ったのが、自衛隊情報本部に所属する佐久間であった。
 少年がその特別な称号を持つとわかるやいなや、国がそれを囲い込むべきだと強く主張した。
 そして、実際佐久間は柚彦を自身の養子にした。
 それを聞いた時、佐久間さんはそこまでやるのかと驚いた記憶があった。

 ダンジョン開発推進機構側も、柚彦少年を取り込みたい意志はあったのだが、結果的に後塵を拝した。
 その一方で、柚彦少年が虐待親から逃げ出すために尽力した男に、定期的に合わせるよう強く主張され、それを呑んだ形になっている。

 自衛隊情報本部ダンジョン情報科の隊員達は、佐久間の養子となった柚彦少年にたびたび会わせられていた。
 佐久間は双方のためにも、柚彦少年が情報科隊員達によく知られ、そして親しみを持って扱われるよう取り計らっていた。
 少年は非常に真面目で大人しく、素直な性格であったことから、隊員達にかわいがられていた。
 その筆頭が、皆本瑠璃隊員であった。
 年上のお姉さんとして、皆本は柚彦を守ってあげなければという使命感が強いようであった。

 だからこそ、定期的に会っているその中年男のことが気になって仕方ないらしい。

 その中年男が、ただの中年男であるのならばいい。だが、どこを調べてもばんばん埃が舞い上がるような怪しい男であった。
 そしてそのことについては不問にする申し合わせがあるかのようで、自衛隊上層部もダンジョン開発推進機構もぴたりと口を噤んでいた。
 いったい何者なのだと思う。その正体がわからないことが不満であった。


  *


 ダンジョンに連れて行かれ、ダンジョン内での入場許可証を発行した時、周囲の大人たちが驚きの声を上げていた。
 その許可証に記載されていた称号が、ただならぬものだったのだ。

「“勇者”称号持ちだぞ」
「十四歳の子供が?」
「おい、この称号は他国では出ているのか。調べて見ろ」

 ざわめく中、そばにいた彼の眉間にくっきりと皺が寄っているのを見た。
 そんな不機嫌そうな顔をした彼を見たのは初めてだった。

 驚きも見せないその様子に、彼は僕が“勇者”の称号を持つことをはなから知っていたのだとわかった。
 それで、納得もした。

(ああ、彼は僕が“勇者”の称号を持っていたから、助けてくれたのだ)

 義父に酒瓶で殴られ、怪我をしていた僕をおぶって病院に連れていってくれたことも、マンションで匿ってくれたことも、僕が勇者の称号持ちだったからだ。
 間違いない。
 そのことをすんなりと納得してしまった。
 僕みたいな何も持たない子供を保護する理由なんて、そうそうあるものではないのだ。
 ズキンと胸が痛んだ。

 その後、僕が自衛隊情報本部の佐久間さんという人の養子になった時、彼は強い不満を見せたけれど、最後には仕方がないと受け入れていた。
 ただ、その代わり、僕と定期的に会う権利をもぎ取っていた。

「ひどい目に遭っていないか、見張るようにするけど。こんなことくらいしかできなくて、ごめんよ」

 そう謝っていたけど、彼との関係が途切れずにいることが嬉しかった。


 以前、“刷り込み”されていると彼は呟いていたけど、まさしく僕はそうだと思う。
 雛鳥が初めて見たものを親鳥だと思うように、僕は彼を強く慕っていた。



 そして僕を養子として迎え入れてくれた佐久間夫妻は厳しくも優しい人達だった。
 僕は名前を佐久間柚彦と変え、そして彼らの家から中学校へ通った。
 美味しい食事と温かな寝床が提供され、その一方で、僕は密かに秘密の訓練を受けるようになった。
 “勇者”称号を持つ者が、他の人間とどう違うのか。
 それを知るために。
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