俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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第二章 現世ダンジョン編 ~異世界から連れ戻された勇者は、竜騎士からの愛に戸惑う~

第十六話 蜜月(上)

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 異世界へ戻るなり、僕はすぐに“竜族の宝”と呼ばれる交信の魔道具で秋元さんと連絡を取った。

 秋元さんはお煎餅を食べていたようで、口にそれをくわえながら「何かあったの?」と暢気に話しかけてくる。
 その彼に、僕は慌てるように言う。

「秋元さん、すみません、僕とヒカルはこれから“蜜月”に入ります」

 秋元さんは銜えていたお煎餅をぽたりと落とした。

「えええええええええええええええええええええええええええっ」

「だから、そうですね。しばらく連絡が途切れると思います。そしてすみません、秋元さんが取ってくれた東京のビジネスホテルですが、チェックアウトをお願いしていいですか? 荷物も回収して頂けたら」

「な、な、な、なんで急にそうなことに。ええ、もちろん、ヒカル君と一緒なんだよね」

「当然です」

「いや、めでたいよ。めでたいけれど、このタイミングでそうするかなぁ」

 困ったように眉を寄せている秋元さんに、「もう連絡を切りますね」と言うと、秋元さんは仕方なしにため息をついてこう言った。

「おめでとう、ゼノン君。君は、さすが竜族の男だ。勇者をも手に入れたのだから」

 そうして、水晶玉から映像が途切れる。
 後ろからヒカルがそれを覗き込んでいた。

「……秋元さんにまで教える必要ないだろう!!」

 恥ずかしがって怒っている様子だった。

「いや、彼にはいろいろと後始末してもらわないと困るから。ビジネスホテルだってチェックアウトしないといけないし」

「……そんなの明日、戻ってやればいいことじゃん」

 ヒカルの頭の中では、僕とこれから寝たとしても、翌朝は普通に現世へ戻れると思っているのだ。
 
 かわいいヒカル。何も知らないヒカル。

 僕はまた彼の肩を抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。

「……ん」
 
 薄く開いた唇に、舌を差し込むとびっくりしたような顔をする。
 舌を絡めるようにすると、彼もおずおずとそれに応え始めた。
 そしてもつれあうように、そのまま寝台の部屋へと歩くと、大きな寝台の上に倒れ込む。
 彼の手と手を重ね、口づけを続ける。

 長い口づけに少し苦しそうな様子も見え始めている。
 ヒカルは呻きながら目を開き、そして気が付いたように僕を見つめて言った。

「目が……瞳孔が細くなっている」

「興奮しているから」

「俺なんかに興奮しているの? 男なのに?」

「君だから興奮しているんだ」

 そう言うと、ヒカルはひどく照れたように笑った。

「ゼノン、お前はかわいいな」

 そして、ヒカルから口づけてきた。
 僕らは抱き合う。そうしながら、僕は寝台横のサイドテーブルから、小さな小瓶を取り出した。
 
 僕は彼に言った。

「初めての君に痛い思いをさせたくないから、この薬を飲んでくれないか?」

「……なにこれ」

「媚薬だよ」

 ヒカルの目が見開かれる。マジですかというような目で、僕を見つめている。

「……飲まないとだめ?」

「飲んだ方が絶対にいい」

「あー、えーっと、媚薬ってよく、エッチしたくてたまらなくなるとかそういうのだよね」

「そう。でも、痛みをかなり軽減するんだ。君は痛いのは嫌だろう? 僕は君に痛い思いをしてほしくない。気持ちがいいことだけ覚えて欲しい」

「……す……ステータスいじらないといけないな」

 ヒカルは、酒以外の薬物はすべて効力無効にしている状態だった(そうだった……僕も少し忘れていた)。

 彼の頬に、首筋に口づけを繰り返す。ヒカルは手渡された小瓶をしばらく見つめ、そしてある意味男らしく、瓶の蓋を開けると一気にぐびぐびと飲み干した。

「これでいいんだろう!!」

「ありがとう」

 僕は彼を抱きしめる。
 そして耳元でそっと囁いた。

 これで“蜜月”を始められると。
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