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第二章 現世ダンジョン編 ~異世界から連れ戻された勇者は、竜騎士からの愛に戸惑う~
第十三話 旅行準備(下)
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「さいたまダンジョンに潜って、三日間でランクCまで上がったって?」
ホテルの椅子に座り、レイコは額に手を当て「ふー」とため息をついた。
そしてスマホを操り、アプリをいじっている。
ぶつぶつと呟いている。
「ランキング……ダン開のアプリがあったはず」
「ダン開って?」
「ダンジョン開発推進機構の略称よ。略してダン開。あっ、アプリがあったわね。ちょっと待っていて」
レイコはスマホにアプリをダウンロードさせながら、僕らに聞いてきた。
「三日間、さいたまダンジョンに潜ったって、あなた達、三日間分の抽選も勝ち抜いたということ?」
「うん。だってほら、俺、勇者で幸運値めちゃ高いから。落ちることないだろう」
レイコは額にまた手を当てぶつぶつと呟いている。
「……そうだった。光君は勇者で幸運値がMAXだったわね。年末ジャンボを買ってもらえばよかったわ……」
「麗子ちゃん、頭いいな!! ロトとかもいけるかな。後で試してみよう」
「いやいやいやいや、光君、これ以上目立つ行動は避けなさい。もう、本当に目立っちゃダメ。絶対ダメよ。あなた達、誘拐されるわよ、マジで」
「大丈夫だよ。俺、勇者だからさ。誘拐しようとした奴は倒すから」
キリリと言うヒカルに、レイコは「はー」ともう一度ため息をついて、ヒカルの肩に手をのせた。
「いい、ヒカル君。この世界でうまくやりたいなら、あまり目立つのは、目立ちすぎるのはダメよ。あなた、前回こちらに来た時に、麻酔銃でブスリとやられたことはもう忘れたの?」
「……そうだけどさぁ。今回は俺、自分の魔法で異世界へ戻れるし、大丈夫だよ。まずくなったら、異世界へさっさと戻ればいいし」
「……まぁ、そうだけど。でも、あなた達、どうしてこちらの世界のダンジョンへやって来たの? 前に会った時は、秋元さんの指示があってやって来たと言っていたけれど、秋元さんはどうしてあなた達をこちらの世界のダンジョンに潜らせているの?」
「こちらのダンジョンのアップデートをする時に、混乱が起きるかも知れないから、俺らがこちらの世界にいた方がいいと秋元さんが言ったんだ」
「え?」
ヒカルのその言葉に、レイコは顔を強張らせた。
「アップデート? それはどういうこと?」
僕はヒカルの言葉を遮った。
「だめだよ、ヒカル。秋元さんからも注意されていただろう。あまり、こちらの世界の人間にそれを話してはならないと」
「……ちぇっ、麗子ちゃんは聖女で、仲間なのにいいじゃん。詳しくは話せないけれど、俺達がこっちにいた方がいい事態が起きる可能性があるということだよ」
そう笑いながら言うヒカルとは対照的に、レイコは顔を強張らせたままだった。
彼女は賢いから、ヒカルの言葉で理解したのだろう。
今後、ダンジョンがアップデートするということ
その際に、混乱が発生して、勇者の存在が必要になるということ
「レイコ、今ヒカルから聞いた話は、他言無用だよ。僕らがこちらにいる間は、大丈夫だから」
「…………わかったわ」
ダウンロードされたアプリを動かし、スマホ上で、ダンジョン開発推進機構のランキングを見たレイコは絶句していた。
「あ………あ……あなた達、一日討伐数ランキング一位と二位独占って、目立ち過ぎでしょう!! ゴブリンいったい何匹倒したのよ」
「えーと、何匹だったっけ。とりあえず、ゴブリンはめちゃ金になったよ。三日間で三百万円以上稼いだからね」
レイコはわなわなと手を震わせていた。
「さ……三百万」
「だからさ、ゼノンの服、いいやつ見繕ってくれよ。頼むよ、麗子ちゃん」
ヒカルは両手を合わせて祈るようにレイコにそう言った。
その後、ふらふらとレイコはホテルから買い物に出かけ、そしてふらふらとして戻ってきた。
戻ってきた彼女の手にはたくさんの紙袋があった。
「とりあえず、上着も含めて買って来たわよ。今のゼノン君は体格がいいから、とりあえず着てみて頂戴。測ったサイズを見てもらって店員さんと相談したから大丈夫だと思うけれど」
「おー、いいね。このシャツとか渋い、渋いよゼノン君」
紙袋をガサガサ漁って、ヒカルが服を取り上げる。
「まぁ、ゼノン君は素材がいいから、何を着ても似合うと思うけどね」
「………………」
ヒカルがジロリと僕の方を見遣る。
「確かに、ゼノンって俳優みたいにハンサムだな。それは認める」
「そうよね!! これで光君に夢中じゃなければ、絶対にすごいモテモテだったと思うわ」
「……お、俺に夢中ってなんだよ!!」
「やだ光君ったら、ツンデレみたいなコメントして。かわいいんだから~」
またレイコがくねくねと身を揺らしている。
カッと顔を赤らめているヒカルと囃し立てているレイコの二人に、とりあえず食事へ行こうと誘った。
早速レイコが買ってきてくれた服を身に付ける。
革靴にジーンズのズボン、そして上はシンプルなシャツにジャケット。それだけなのに、離れて見ていたレイコとヒカルは感動した面持ちでいた。
「すげっ、芸能人みたいだ!!」
「いやぁ、男らしいわ、ゼノン君てば。腐女子心がくすぐられるわぁ。腐ッ腐ッ腐ッ腐ッ」
不気味な笑い声をあげるレイコに、ヒカルが引いていた。
「れ……麗子ちゃんてば、二十歳の女子大生になっても腐女子なの?」
「もう私は“永遠の腐女子”よ!!」
怯えたような眼差しをヒカルは彼女に向けていた。
街に出ると、周囲の人々が好奇心に満ちた眼差しを向けてくる。その視線をわずらわしく思いながら、ヒカルとレイコと三人で店へと入った。
食事を済ませた後、レイコは僕達に気を付けて温泉旅行へ行ってくるようにと言った。
そしてまた、僕にこそっと囁いていた。
「光くん、ゼノン君のこと大丈夫になったのね。まさか一緒のベットに寝ているとは思わなかったわ。頑張ってね!!」
そう笑いながら言うと、彼女は颯爽と立ち去っていった。
ホテルの椅子に座り、レイコは額に手を当て「ふー」とため息をついた。
そしてスマホを操り、アプリをいじっている。
ぶつぶつと呟いている。
「ランキング……ダン開のアプリがあったはず」
「ダン開って?」
「ダンジョン開発推進機構の略称よ。略してダン開。あっ、アプリがあったわね。ちょっと待っていて」
レイコはスマホにアプリをダウンロードさせながら、僕らに聞いてきた。
「三日間、さいたまダンジョンに潜ったって、あなた達、三日間分の抽選も勝ち抜いたということ?」
「うん。だってほら、俺、勇者で幸運値めちゃ高いから。落ちることないだろう」
レイコは額にまた手を当てぶつぶつと呟いている。
「……そうだった。光君は勇者で幸運値がMAXだったわね。年末ジャンボを買ってもらえばよかったわ……」
「麗子ちゃん、頭いいな!! ロトとかもいけるかな。後で試してみよう」
「いやいやいやいや、光君、これ以上目立つ行動は避けなさい。もう、本当に目立っちゃダメ。絶対ダメよ。あなた達、誘拐されるわよ、マジで」
「大丈夫だよ。俺、勇者だからさ。誘拐しようとした奴は倒すから」
キリリと言うヒカルに、レイコは「はー」ともう一度ため息をついて、ヒカルの肩に手をのせた。
「いい、ヒカル君。この世界でうまくやりたいなら、あまり目立つのは、目立ちすぎるのはダメよ。あなた、前回こちらに来た時に、麻酔銃でブスリとやられたことはもう忘れたの?」
「……そうだけどさぁ。今回は俺、自分の魔法で異世界へ戻れるし、大丈夫だよ。まずくなったら、異世界へさっさと戻ればいいし」
「……まぁ、そうだけど。でも、あなた達、どうしてこちらの世界のダンジョンへやって来たの? 前に会った時は、秋元さんの指示があってやって来たと言っていたけれど、秋元さんはどうしてあなた達をこちらの世界のダンジョンに潜らせているの?」
「こちらのダンジョンのアップデートをする時に、混乱が起きるかも知れないから、俺らがこちらの世界にいた方がいいと秋元さんが言ったんだ」
「え?」
ヒカルのその言葉に、レイコは顔を強張らせた。
「アップデート? それはどういうこと?」
僕はヒカルの言葉を遮った。
「だめだよ、ヒカル。秋元さんからも注意されていただろう。あまり、こちらの世界の人間にそれを話してはならないと」
「……ちぇっ、麗子ちゃんは聖女で、仲間なのにいいじゃん。詳しくは話せないけれど、俺達がこっちにいた方がいい事態が起きる可能性があるということだよ」
そう笑いながら言うヒカルとは対照的に、レイコは顔を強張らせたままだった。
彼女は賢いから、ヒカルの言葉で理解したのだろう。
今後、ダンジョンがアップデートするということ
その際に、混乱が発生して、勇者の存在が必要になるということ
「レイコ、今ヒカルから聞いた話は、他言無用だよ。僕らがこちらにいる間は、大丈夫だから」
「…………わかったわ」
ダウンロードされたアプリを動かし、スマホ上で、ダンジョン開発推進機構のランキングを見たレイコは絶句していた。
「あ………あ……あなた達、一日討伐数ランキング一位と二位独占って、目立ち過ぎでしょう!! ゴブリンいったい何匹倒したのよ」
「えーと、何匹だったっけ。とりあえず、ゴブリンはめちゃ金になったよ。三日間で三百万円以上稼いだからね」
レイコはわなわなと手を震わせていた。
「さ……三百万」
「だからさ、ゼノンの服、いいやつ見繕ってくれよ。頼むよ、麗子ちゃん」
ヒカルは両手を合わせて祈るようにレイコにそう言った。
その後、ふらふらとレイコはホテルから買い物に出かけ、そしてふらふらとして戻ってきた。
戻ってきた彼女の手にはたくさんの紙袋があった。
「とりあえず、上着も含めて買って来たわよ。今のゼノン君は体格がいいから、とりあえず着てみて頂戴。測ったサイズを見てもらって店員さんと相談したから大丈夫だと思うけれど」
「おー、いいね。このシャツとか渋い、渋いよゼノン君」
紙袋をガサガサ漁って、ヒカルが服を取り上げる。
「まぁ、ゼノン君は素材がいいから、何を着ても似合うと思うけどね」
「………………」
ヒカルがジロリと僕の方を見遣る。
「確かに、ゼノンって俳優みたいにハンサムだな。それは認める」
「そうよね!! これで光君に夢中じゃなければ、絶対にすごいモテモテだったと思うわ」
「……お、俺に夢中ってなんだよ!!」
「やだ光君ったら、ツンデレみたいなコメントして。かわいいんだから~」
またレイコがくねくねと身を揺らしている。
カッと顔を赤らめているヒカルと囃し立てているレイコの二人に、とりあえず食事へ行こうと誘った。
早速レイコが買ってきてくれた服を身に付ける。
革靴にジーンズのズボン、そして上はシンプルなシャツにジャケット。それだけなのに、離れて見ていたレイコとヒカルは感動した面持ちでいた。
「すげっ、芸能人みたいだ!!」
「いやぁ、男らしいわ、ゼノン君てば。腐女子心がくすぐられるわぁ。腐ッ腐ッ腐ッ腐ッ」
不気味な笑い声をあげるレイコに、ヒカルが引いていた。
「れ……麗子ちゃんてば、二十歳の女子大生になっても腐女子なの?」
「もう私は“永遠の腐女子”よ!!」
怯えたような眼差しをヒカルは彼女に向けていた。
街に出ると、周囲の人々が好奇心に満ちた眼差しを向けてくる。その視線をわずらわしく思いながら、ヒカルとレイコと三人で店へと入った。
食事を済ませた後、レイコは僕達に気を付けて温泉旅行へ行ってくるようにと言った。
そしてまた、僕にこそっと囁いていた。
「光くん、ゼノン君のこと大丈夫になったのね。まさか一緒のベットに寝ているとは思わなかったわ。頑張ってね!!」
そう笑いながら言うと、彼女は颯爽と立ち去っていった。
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