61 / 174
第二章 現世ダンジョン編 ~異世界から連れ戻された勇者は、竜騎士からの愛に戸惑う~
第九話 さいたまダンジョンへの連戦
しおりを挟む
ホテルに戻るなり、ヒカルは封筒から札束を取り出して興奮していた。
「すっげー、たった一時間ばかりで三十九万だぜ!! 信じらんねー」
「……そうだね。でも、稼ぎ過ぎたね。目を付けられたよ、僕ら」
僕らをじっと凝視していた、あのさいたまダンジョンの買い取りブースのスタッフのことを思い出していた。そう言うと、ヒカルは肩をすくめた。
「仕方ねーよ。大丈夫、大丈夫、ダンジョン開発推進機構の中の人が味方になっているのだから、問題にならねーよ」
「君は楽天的だね」
僕はため息混じりでそう言った。
前回こちらの世界にやって来た時、彼は捕らえられそうになり、麻酔銃で撃たれたことをもう忘れているのだろうか。
「今回はほら、俺、魔法の力ですぐにあっちの世界にも戻れるし、大丈夫。あっ、ゼノンは俺のそばにいろよ。お前をひっつかんであっちの世界に戻らないといけないんだから」
その言葉に、僕は口元に微笑みを浮かべた。
「ヒカル、置いていかないでくれよ」
「当たり前だよ」
彼の仲間としてちゃんと認識されていることが嬉しい。
出会った頃の対応とは雲泥の差があった(出会った頃は猛烈に毛嫌いされていた)。
僕らは知らなかったのだけど、さいたまダンジョン内でわずか一時間で叩き出したゴブリン討伐数は過去最高数を記録し、結果、その日の“さいたまダンジョンの一日討伐数ランキング”の一位と二位を独占することになっていた。そしてネット上では注目の二人組として噂されていたのだった。
*
「朝、百匹倒して、午後二百匹倒すと、二日で終わるな。楽勝じゃん!!」
DランクからCランクへの昇級条件はゴブリン五百匹の討伐だった。
僕らはその日、夕食を食べた後、いつものビジネスホテルに戻っていた。もう眠る時間になっていて、寝間着に着替えて、二人して大きなダブルベットに潜る。
秋元さんがホテルの部屋を予約していてくれたのだけど、部屋のベットを選択する時、寝台はシングルベット二つではなく、ダブルベット一つで頼んでいた。
異世界のツリーハウスでも、僕らは一つの大きな寝台の上で一緒に眠っていた。
異世界では、彼をだますようにして大きな寝台一つしか用意していなかったのだ。当時、彼はすごく怒って、寝台の上に境界線を張ると言い張っていた。
けれど、一緒に暮らす中、境界線もうやむやになって、今ではよく身を寄せ合って眠っている。
その状況を知った魔法使いの秋元さんは「ゼノン君の我慢強さを尊敬します……」と言っていた。
自分でも驚くほど、我慢強いと思う。
番の少年と同衾して、未だ手を出していないのだ。
彼も、こうまで一緒にいても、今ではもう襲いかかることもなくなった僕のことを友として信頼していた。
その信頼がとても嬉しくもあり、一方で、そう、一度として彼には伝えたことはないけれど、辛くもあった。
ヒカルは僕と一緒に暮らし始めた時、僕のことを心配してこう言ったことがあった。
『お前にとって辛いことなんじゃないかと思うんだ。好きになるかわからない奴と一緒に暮らし続けるのは、お前、辛いだろう?』
あの時、僕は彼にこう伝えた。
『光と一緒に暮らして、僕がそれを辛く思うことなんてことはない。むしろ、君とずっと一緒にいられて、僕は嬉しいし、すごく幸せだと思う。君を愛しているから』
辛いことはないと、あの時は告げた。
そう、僕は彼のことを愛しているから、今の状況はとても幸せだった。
幸せだったけれど、辛かった。
彼を愛しているから、彼がとても欲しいんだ。
それを我慢しなければならないことが、辛い。そう、辛かった。
こんなに、触れられるほど近くにいるのに、口づけることもできない。
でも、触れられるほど近くにいられることが、嬉しかった。
「すっげー、たった一時間ばかりで三十九万だぜ!! 信じらんねー」
「……そうだね。でも、稼ぎ過ぎたね。目を付けられたよ、僕ら」
僕らをじっと凝視していた、あのさいたまダンジョンの買い取りブースのスタッフのことを思い出していた。そう言うと、ヒカルは肩をすくめた。
「仕方ねーよ。大丈夫、大丈夫、ダンジョン開発推進機構の中の人が味方になっているのだから、問題にならねーよ」
「君は楽天的だね」
僕はため息混じりでそう言った。
前回こちらの世界にやって来た時、彼は捕らえられそうになり、麻酔銃で撃たれたことをもう忘れているのだろうか。
「今回はほら、俺、魔法の力ですぐにあっちの世界にも戻れるし、大丈夫。あっ、ゼノンは俺のそばにいろよ。お前をひっつかんであっちの世界に戻らないといけないんだから」
その言葉に、僕は口元に微笑みを浮かべた。
「ヒカル、置いていかないでくれよ」
「当たり前だよ」
彼の仲間としてちゃんと認識されていることが嬉しい。
出会った頃の対応とは雲泥の差があった(出会った頃は猛烈に毛嫌いされていた)。
僕らは知らなかったのだけど、さいたまダンジョン内でわずか一時間で叩き出したゴブリン討伐数は過去最高数を記録し、結果、その日の“さいたまダンジョンの一日討伐数ランキング”の一位と二位を独占することになっていた。そしてネット上では注目の二人組として噂されていたのだった。
*
「朝、百匹倒して、午後二百匹倒すと、二日で終わるな。楽勝じゃん!!」
DランクからCランクへの昇級条件はゴブリン五百匹の討伐だった。
僕らはその日、夕食を食べた後、いつものビジネスホテルに戻っていた。もう眠る時間になっていて、寝間着に着替えて、二人して大きなダブルベットに潜る。
秋元さんがホテルの部屋を予約していてくれたのだけど、部屋のベットを選択する時、寝台はシングルベット二つではなく、ダブルベット一つで頼んでいた。
異世界のツリーハウスでも、僕らは一つの大きな寝台の上で一緒に眠っていた。
異世界では、彼をだますようにして大きな寝台一つしか用意していなかったのだ。当時、彼はすごく怒って、寝台の上に境界線を張ると言い張っていた。
けれど、一緒に暮らす中、境界線もうやむやになって、今ではよく身を寄せ合って眠っている。
その状況を知った魔法使いの秋元さんは「ゼノン君の我慢強さを尊敬します……」と言っていた。
自分でも驚くほど、我慢強いと思う。
番の少年と同衾して、未だ手を出していないのだ。
彼も、こうまで一緒にいても、今ではもう襲いかかることもなくなった僕のことを友として信頼していた。
その信頼がとても嬉しくもあり、一方で、そう、一度として彼には伝えたことはないけれど、辛くもあった。
ヒカルは僕と一緒に暮らし始めた時、僕のことを心配してこう言ったことがあった。
『お前にとって辛いことなんじゃないかと思うんだ。好きになるかわからない奴と一緒に暮らし続けるのは、お前、辛いだろう?』
あの時、僕は彼にこう伝えた。
『光と一緒に暮らして、僕がそれを辛く思うことなんてことはない。むしろ、君とずっと一緒にいられて、僕は嬉しいし、すごく幸せだと思う。君を愛しているから』
辛いことはないと、あの時は告げた。
そう、僕は彼のことを愛しているから、今の状況はとても幸せだった。
幸せだったけれど、辛かった。
彼を愛しているから、彼がとても欲しいんだ。
それを我慢しなければならないことが、辛い。そう、辛かった。
こんなに、触れられるほど近くにいるのに、口づけることもできない。
でも、触れられるほど近くにいられることが、嬉しかった。
1
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤバい薬、飲んじゃいました。
はちのす
BL
変な薬を飲んだら、皆が俺に惚れてしまった?!迫る無数の手を回避しながら元に戻るまで奮闘する話********イケメン(複数)×平凡※性描写は予告なく入ります。
作者の頭がおかしい短編です。IQを2にしてお読み下さい。
※色々すっ飛ばしてイチャイチャさせたかったが為の産物です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる