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【短編】異世界への帰還編
勇者君とのクリスマス(上)
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光の故郷の世界では、もうすぐクリスマス。
その少し前に、僕は魔法使いの秋元さんに呼び出された。
彼はなぜか、何重もの結界を張り、安全マージンを相当取った後、言った。
「ゼノン君、怒らないで聞いてくれ」
「……なんですか、この結界は」
この世界でも有数の凄腕魔法使いと知られる秋元さんの結界だ。見るからに頑丈そうだった。
僕は結界の硬さの方に、意識がいっていた。
だから、最初、秋元さんが何を言っているのか、理解できなかった。
「元の世界へ戻る呪文を開発した。それを光君に教えた」
「……」
瞬間、僕は秋元さんを睨みつけた。
彼と僕との間にある、結界に白いヒビが斜めに大きく入った。
嫌な音がして、軋み出す。
秋元さんの額に小さく汗が浮かんだ。
「だから、怒らないで聞いてくれと言っただろう!! 君、目付きがもう違うよ」
「……どうしてそんなことをしたんです」
折角、光をあちらから連れ戻したのに。
まだ半年も経っていないではないか。
彼を元の世界に戻すつもりは、まったくなかった。
「……あちらにちょくちょく光君に行ってもらわないと困ることがあるんだ。それは、神の願いだから!!」
魔法使いの秋元さんは、頻繁に神の命令を受けて動いている。
それが僕にとって良いこともあれば、今回のように悪いこともある。
どうしてくれようか。
「……ちょっと、マジで抑えてくれないかい。君が竜族最強の竜騎士だということは、僕も重々承知している」
「……余計なことをするからです。神の願いと言えば、僕がなんでも従うと思っているんですか」
「光君だって、たまにはあちらへ戻りたいはずだ。あの子はまだ十六歳なんだぞ」
「……こちらの基準では、もう、とうに結婚のできる成人扱いです」
「…………あー、いやだいやだ、異世界基準は。光君や僕のいた世界では、ほとんどの場合、学生だ。成人ではない。酒も飲めないし、結婚もできない。まだ親が手をかけてあげる年齢だよ。親元から離したことについては、僕だって彼のことを可哀想に思っている。ゼノン君、君が光君を大切にしていることを僕は知っている。なにも、君から彼を取り上げようというわけではない。ただ、時々、彼が元の世界へ戻ることを認めてあげて欲しいんだ」
結界のヒビが、次第に大きく広がって、瞬間粉々に砕け散った。
結界が解けると同時に、僕は秋元さんの首を掴んだ。そうしながら彼の顔をのぞきこむ。
すでに、僕の瞳は怒りのあまり、猫のように縦型になっているだろう。
「…………余計なことをしてくれましたね」
「いや、マジで暴力反対」
秋元さんは両手を挙げて、引きつった顔をしている。
僕は、大きく息をついて、彼の首を掴んだ手を離した。
少し力を入れれば、簡単に縊れた。だが、それをしないだけの理性は残っていた。
「ヒカルは、もう、戻る呪文を唱えられるんですか」
「……ああ」
「いつ、彼があちらの世界に戻るんですか?」
その問いに、秋元さんは微笑んで答えた。
「それは光君に聞かないと。僕にはわかりません」
「……やっぱり絞め殺しておけばよかったかな」
手を伸ばした僕の前に、再度強度を増した結界が現れた。
「あー、怖い怖い。だから、君には話したくなかったんです。もう、光君の口から伝えてもらえばよかった」
「…………」
光の口から、直接、元の世界へ戻ると告げられた時、自分はどうしただろうか。
前回のように、ただ「行かないでくれ」と叫ぶだけで、終わっただろうか。
そう思うと、秋元さんの口からそれを先に伝えたのは、秋元さんなりの配慮なのだとわかった。
ワンクッション置いたという。
「……礼は言いませんからね」
「…………えー、言ってよ。こんな怖い目に遭うことがわかった上でも、気を遣って僕から言ってあげたのに。もし、君が直接光君から、元の世界に戻るって聞いたら、きっと今度は君は……」
秋元さんは言った。
絶対に光君が戻ることを許さなかっただろうから、襲いかかっていたんじゃないかと。
その少し前に、僕は魔法使いの秋元さんに呼び出された。
彼はなぜか、何重もの結界を張り、安全マージンを相当取った後、言った。
「ゼノン君、怒らないで聞いてくれ」
「……なんですか、この結界は」
この世界でも有数の凄腕魔法使いと知られる秋元さんの結界だ。見るからに頑丈そうだった。
僕は結界の硬さの方に、意識がいっていた。
だから、最初、秋元さんが何を言っているのか、理解できなかった。
「元の世界へ戻る呪文を開発した。それを光君に教えた」
「……」
瞬間、僕は秋元さんを睨みつけた。
彼と僕との間にある、結界に白いヒビが斜めに大きく入った。
嫌な音がして、軋み出す。
秋元さんの額に小さく汗が浮かんだ。
「だから、怒らないで聞いてくれと言っただろう!! 君、目付きがもう違うよ」
「……どうしてそんなことをしたんです」
折角、光をあちらから連れ戻したのに。
まだ半年も経っていないではないか。
彼を元の世界に戻すつもりは、まったくなかった。
「……あちらにちょくちょく光君に行ってもらわないと困ることがあるんだ。それは、神の願いだから!!」
魔法使いの秋元さんは、頻繁に神の命令を受けて動いている。
それが僕にとって良いこともあれば、今回のように悪いこともある。
どうしてくれようか。
「……ちょっと、マジで抑えてくれないかい。君が竜族最強の竜騎士だということは、僕も重々承知している」
「……余計なことをするからです。神の願いと言えば、僕がなんでも従うと思っているんですか」
「光君だって、たまにはあちらへ戻りたいはずだ。あの子はまだ十六歳なんだぞ」
「……こちらの基準では、もう、とうに結婚のできる成人扱いです」
「…………あー、いやだいやだ、異世界基準は。光君や僕のいた世界では、ほとんどの場合、学生だ。成人ではない。酒も飲めないし、結婚もできない。まだ親が手をかけてあげる年齢だよ。親元から離したことについては、僕だって彼のことを可哀想に思っている。ゼノン君、君が光君を大切にしていることを僕は知っている。なにも、君から彼を取り上げようというわけではない。ただ、時々、彼が元の世界へ戻ることを認めてあげて欲しいんだ」
結界のヒビが、次第に大きく広がって、瞬間粉々に砕け散った。
結界が解けると同時に、僕は秋元さんの首を掴んだ。そうしながら彼の顔をのぞきこむ。
すでに、僕の瞳は怒りのあまり、猫のように縦型になっているだろう。
「…………余計なことをしてくれましたね」
「いや、マジで暴力反対」
秋元さんは両手を挙げて、引きつった顔をしている。
僕は、大きく息をついて、彼の首を掴んだ手を離した。
少し力を入れれば、簡単に縊れた。だが、それをしないだけの理性は残っていた。
「ヒカルは、もう、戻る呪文を唱えられるんですか」
「……ああ」
「いつ、彼があちらの世界に戻るんですか?」
その問いに、秋元さんは微笑んで答えた。
「それは光君に聞かないと。僕にはわかりません」
「……やっぱり絞め殺しておけばよかったかな」
手を伸ばした僕の前に、再度強度を増した結界が現れた。
「あー、怖い怖い。だから、君には話したくなかったんです。もう、光君の口から伝えてもらえばよかった」
「…………」
光の口から、直接、元の世界へ戻ると告げられた時、自分はどうしただろうか。
前回のように、ただ「行かないでくれ」と叫ぶだけで、終わっただろうか。
そう思うと、秋元さんの口からそれを先に伝えたのは、秋元さんなりの配慮なのだとわかった。
ワンクッション置いたという。
「……礼は言いませんからね」
「…………えー、言ってよ。こんな怖い目に遭うことがわかった上でも、気を遣って僕から言ってあげたのに。もし、君が直接光君から、元の世界に戻るって聞いたら、きっと今度は君は……」
秋元さんは言った。
絶対に光君が戻ることを許さなかっただろうから、襲いかかっていたんじゃないかと。
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