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【短編】異世界への帰還編

炎上するツリーハウス(上)

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 異世界へ戻ってきた。

 光は故郷の世界を離れて、この異世界へと単身渡ってきた。
 寂しかろうと、僕はできるだけ彼を支えるつもりだった。
 
 彼の大好物のポテチもゲームも、魔法使いの秋元さんに頼んで大量に入手していた。
 (秋元さんが時間停止のマジックバックを持っているので、そこに入れて保管してもらっている)

 電気についても、秋元さんがツリーハウスに通してくれた。
 太陽光発電のためのパネルを設置したのだ。

「今は便利な世の中になったものだよね」と、秋元さんは言っていた。

 何から何までお世話になってしまって、申し訳ないと頭を下げると、秋元さんは手を振って「そんなたいしたことはしていないから大丈夫だよ」と優しく言ってくれた。

 電気が通ったツリーハウスに、光は感動していた。

「すげぇ……テレビは見られないけど、ゲームはできるのか!!」

 と言って、ツリーハウスの居間に寝っ転がって、ポテチをぽりぽりと食べつつ、ゲームをしている。
 ただ本人も、ずっとツリーハウスに引きこもってゲームばかりしているのは、あまりよろしくないと思っているのか、時々ツリーハウスから降りては、付近を散歩している。

 冬が近づいてきている。
 吐く息も白くて、光は僕に聞いてきた。

「ここは雪、積もるのか?」

「たぶん積もると思うよ。寒くなったら、家に引きこもればいい。ストーブもあるから、家の中は暖かいよ」

「ストーブか。なんかいいな」

 彼はポケットに両手を突っ込んで、屈託なく笑う。
 その様子を見て、やっとここまで来たのかと……僕は思った。

 出会った当初は焦りすぎて、彼との信頼関係を構築することなど考えられなかった。
 早く、この番の少年を自分のものにしてしまいたい。
 その、本能的な思いが、焦りとなって自分を包んでいた。

 だから、毎日のように光に襲いかかっては返り討ちに遭っていた。

 今思えば、当然のことだと思う。
 よく知らない、自分よりも体の大きな男に迫られるのである。
 光が嫌がって、その挙句に現世へ戻ったのは当然だった。

 でも、今は一緒の家に暮らしてもいいと思ってくれている。
 こうして仲良く、たわいもない話をしながら、並んで歩くこともできる。
 たいした進歩だった。

「この先に湖があるんだ。ボートを用意して今度釣りに行こうか」

「マジ!!」

 釣りと聞いて、光が目を輝かせる。
 彼は幸運度MAXの影響で、釣りの当たりが強い。あちらの世界にいる時も、バケツに溢れるほど釣り上げていた。

「あん時は楽しかったなぁ。聖女ちゃんも元気しているかな」

 光が灰色の空を見上げながらそう言う。
 
「レイコは元気にしていると思うよ」

「そうだよな。ああ、麗子ちゃんに会いたい」

 光はレイコのことが好きだった。でも、世界を越えて離れた二人は、もう会うことはできないだろう。
 僕はそのことに少しほっとしていた。
 聖女のレイコは光のことを友人としか見ていなかったが、番の光がレイコのことを好きだと言っているのを見るのは、心が波立つ。

 早く、早く僕の元に、落ちてきてくれるといいのに。

 焦ってはいけないと思いながら、愛しい番の少年の傍らで、僕はいつもそう願っていた。

「本当に寒くなって来たな」

「お風呂用意してあげるよ。帰ったら入るといい」

「うちの風呂は大きくて最高だもんな」

 そう、風呂場のスペースは大きくとって作ってもらっていた。兄達が作り上げた自慢の岩風呂で、魔法の力で湯が張れるのだ。脱衣所には小さな冷蔵庫も置いてあって、瓶入りの牛乳やジュースが入っている。それも光が好きだから用意したものだ。

 以前、竜族の友が、番は自分のすべてだと言っていた。
 その言葉が、今ようやく理解できた。

 光は僕のすべてだ。






 光はご機嫌でお風呂に入っていた。
 風呂場で歌っている声が、外までよく聞こえていたくらいだった。
 そういえば、風呂場に置いたバスタオル、切らしていなかっただろうか。

 僕は収納庫から真っ白いバスタオルを何枚か手にして、お風呂場の脱衣所に入った。
 そこにはすでに風呂から上がり、パンツを履いて、上半身裸に、腰に手を当てて、牛乳をごくごくと一気飲みする光の姿があった。

「ぷはーっ、やっぱ風呂上りの牛乳は最高だぜ!!」

 そう言って、口元の牛乳を拭う。

「あ、タオルありがとー。大きいタオルはあったんだけど、小さいタオル切らしててさ。髪も濡れていて」

 ぽたぽたと黒髪から水滴が流れ落ちる。
 彼の滑らかな素肌の上にもぽたぽたと……
 ぽたぽたと


 僕が無言で立ち尽くしていることに、彼は不思議そうに首を傾げていた。

「どうした、ゼノン」

 自分でもわかる。
 瞳孔が一気に縦型になり、身体が燃えるように熱くなった。興奮がどうにも止まらない。心臓の脈打つ音がうるさいほど聞こえる。
 ドクンドクンと

「顔が赤いぞ」

 彼が近づいてくる。手を伸ばして、僕の赤い髪に触れるかどうかという距離に至った瞬間、僕は彼を押し倒した。




「!?」

 光はぎょっとして、のしかかる僕を押す。

「おい、ゼノン、大丈夫か。お前、変だぞ」

 その首筋に噛みついた。

「いてぇっ、おま、なんで噛みつくんだよ」

 自分の固くなったソレが太ももに当たって、光はようやく気が付いたようだった。
 僕が、光に再び襲いかかっていることに。

「馬鹿ヤロー!!」

 彼は大声で叫ぶと同時に、僕に雷撃の魔法を落とし、その凄まじい威力故に、ツリーハウスも一瞬で炎上したのだった。
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