俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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【短編】異世界への帰還編

勇者君のツリーハウス

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 末の弟のゼノンが、勇者を連れて異世界から戻ってくることを聞いた時、「やっと番を説得できたのか」「さすがゼノン」「やるときはやる奴だ」と一族は大喜びだった。


 末の弟のつがいが、“人族の最強勇者”であると聞いた時、俺達竜族の間には、なんとも言えない空気感があった。

 もちろん、長い間探し求めていた、弟の番が見つかったことは喜ばしい!! そう、とても喜ばしいことだった。
 しかし、弟の番は“人族の最強勇者”なのである。
 魔王を倒せし、“人族の最強勇者”。それが、竜族最強の竜騎士の番。

 俺の妻は、俺にこう聞いてきた。

「“人族の最強の勇者”が番って、どちらが旦那様になるのかしら?」

 あまりにも直截的な質問に、俺は口にしていたスープを噴き出した。

「……そんな、プライベートなことを、俺に聞かれても困る」

「力試し的な感じなのかしら。俺のになるためには、俺の屍を越えてから行け的な」

 いや、屍を越えるって、死んでるから……それってもう死んでいるから。




 魔王を倒せし勇者を、魔王を倒したことを祝う祝賀会で遠目から見たことがある。
 黒髪に茶色の瞳の、どこか生意気そうな顔をした子供のような勇者だった。
 まだ十六歳と聞いている。

 上の弟は言った。

「ゼノンが旦那だろう」

 体格的にもそうだろう。ムキムキのゼノンが、あの勇者に組み伏せられている姿は想像できない。
 かといって、あの勇者がゼノンにやすやすと組み伏せられている状況も想像できなかった。

 噂によると、ゼノンは夜這いするたびに勇者から電撃を受けて、黒焦げにされているという話だった(翌朝には復活する最強の竜騎士であった)。おそらくだが、今現在もゼノンは想いを遂げることはできていない。
 相手が“人族の最強勇者”だからだ。
 組み伏せるのにも、一苦労というか……考えてみれば魔王を倒したのだから、魔王以上にゼノンが強くないと無理じゃなくね? もしかして、詰んでる?

 俺達兄弟は、末の弟の苦労を思いやり、深くため息をついた。
 やっと見つかった番が、そんな強い番であることが、ゼノンの悲劇だと思った。

 だが、俺達のゼノンは諦めず、故郷の世界へ渡った勇者を追いかけて、彼もまた異世界へ渡った。
 さすがゼノン、竜族の番への想いの深さしつこさを見せつけてやれと、一族は心の奥底から応援していた。

 そして、弟はついにやり遂げた。
 異世界から番を……勇者を連れて戻ってきたのだった。





 異世界から帰還するゼノンから、俺達は頼まれていたことがあった。

「人里離れた巨木の上にツリーハウスを作って欲しい」

 もしかして、番のために“愛の巣”を作って欲しいということか。
 やるなゼノン!!
 異世界でついに相思相愛になったのか。

 俺達は一番下の弟と番のために、人里離れた深い森の中にある、一際立派な巨木の上に、素晴らしいツリーハウスを作ってやった。
 龍化もできる竜族にとって、木材を運ぶことはお手の物だし、こうした建築物を作り上げるのもうまいものだ。
 いい仕事をしたと、俺と上の弟は汗を拭い、拳を合わせた。

 後は、ゼノンとその番が戻ってくるのを待つだけだ。




 異世界から戻ってきた勇者と、ゼノンを見て俺達は正直驚いた。
 ゼノンは、勇者と同じくらいの年齢の姿になっていたのだ。

「お帰り、ゼノン」

 驚きつつも、俺達兄弟がそう言うと、ゼノンは微笑みながら言った。

「ただいま戻りました、兄上。ツリーハウスありがとうございます」

 巨木の上に建てられたツリーハウスは非常に立派なもので、黒髪の勇者の少年は馬鹿みたいに口を開けてそれを見上げていた。それから、感動したように叫んだ。

「すげええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、これ、ゼノンのお兄さんが作ったんですか? すごいですね、これ。いや、俺感動しましたよ。新しい木の匂いがいいですね。うわぁ、すごいすごい」

 子供のように目をきらきらとさせ、彼は俺達兄弟の手を取って、ぶんぶんと振っていた。
 ツリーハウスに登るための階段は作らないでいい。そうゼノンには言われていた。
 竜族と違い、翼のない彼はどうやって頭上のツリーハウスに行くのだろうと思っていたら、彼は地面を軽く蹴った。
 その一息の動作で、ツリーハウスの入口まで飛び上がることができたのには驚いた。

「風魔法で浮き上がらせて、入口まで行けるんですよ」

 ゼノンが解説してくれた。

「そうなのか、さすが勇者だな」

「そうですよ」

 ゼノンは勇者を褒められて、嬉しそうに彼を見つめている。
 勇者は玄関の扉からツリーハウスの中に入って行った。

「中も広いな~、えっ、ここって2LDKなのか。すごいな!!」

 中を見ても大喜びの勇者の様子を見て、作った俺達もまんざらでもない気分になっていた。

 だが、奥の寝室を見た勇者は、血相を変えてこちらに戻ってきた。
 怒ったような口調で言う。

「なんで、でかいベットが一つしかないんだ!!」

 俺と上の弟は顔を見合わせる。
 寝室には大きなベットを一つ作ってくれるだけでいい。そうゼノンには言われていた。

 ゼノンはこう勇者に言っていた。

「二回寝台を運ぶのが、兄達にはきつかったんですよ。大きいベットだから、二人でも十分に眠れますよ」

 嘘八百言ってやがる。
 二回運ぶのは、竜族の俺達にとって苦労じゃない。
 だが、それは口にしてはいけないことを、俺達だってわかっていた。
 黙って口を噤んでいると、勇者はゼノンを睨みつけていた。

「いいか、寝台の上に境界線を張るからな。そこから一歩でも入ったら、わかっているな」

「わかっていますよ。だって、あちらの世界にいるときだって、あなたに僕が手を出したことはなかったでしょう」

 ゼノン!!!!

 彼は異世界では耐え抜いていたのだと思って、俺達兄弟は末の弟の苦労を思い、血の涙を流した。

 勇者は怒ったような目でしばらく弟を睨み続けていたが、やがて一人、またツリーハウスの中へと戻っていった。

 俺達がはらはらと二人を眺めていると、ゼノンはぽつりと呟いた。

「勇者君って、少しバカなんですよね。……僕がツリーハウスを兄上達に頼んだ理由はわかりますか?」

「お前の番が……勇者がツリーハウスが好きだからだろう? あんなに喜んでいるじゃないか」

 ゼノンはうっすらと笑った。

「勇者君が、僕に電撃や炎系の魔法を使ったら、ツリーハウスだと、家が燃えちゃうから……使えないですよね。あと、他人には煩わせられたくない。僕達だけで生活したいんです」

 入口まで高さのあるツリーハウスは、簡単には辿り着けない。
 それこそ、翼のある種族か、風魔法を相当に使えないと。
 そこまで考えていたのか!!

 ゼノンの緑色の瞳が光って見えた。
 末の弟ながらなんか怖い。俺と上の弟は手を取り合って震えた。

「僕は、長期戦で彼を落とすつもりです」

 そう宣言をしたゼノンだった。
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