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第一章 俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

第18話 横浜でちょっとマズイことが起きているようなんだ

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 その夜、俺は妹の由貴と一緒に「プリンカート」というゲームをやっていた。
 「プリンカート」はその名の通り、プリンをカートに乗せて道路を爆走するゲームだ。お互いにぶつけあい、カートのプリンが崩れ落ちたら負け。ゴールに一番で飛び込めれば勝ちという激しいゲームだ。
 これが由貴はうまい。俺は七戦中五敗していて、歯噛みしていた。

「ぐぬぬぬ……由貴やるな」

「お兄ちゃんには負けないわよ!!」

 由貴が不敵な笑みを浮かべる。とその時、俺のスマホの着信音が響いた。

「ん、誰だろう」

 もう夜も二十三時を回っている。スマホに出ると、それは聖女こと麗子ちゃんだった。

「もう、勇者君、ラインしたのに気が付かなかったでしょう」

「悪い、ゲームに夢中でぜんぜん気が付かなかった」

「まぁ、寝てなくてよかったけどね。悪いんだけど、今からうちまで出て来られる?」

「こんな夜中にいいのかよ」

「出て来られるなら、お願い。うちは大丈夫だから」

「分かった」

 それで俺は上着を羽織った。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

「友達んち。悪い、また明日続きやろうぜ」

「わかった。遅いから気を付けてねー」

 俺は母親に、夜遅いけどどうしても行かないといけない用事があって出かけると告げた。案の定、こんな時間帯に出かけることに不満そうな顔だが、ゼノンの名前と電話番号を告げて出て行った。
 で、麗子ちゃん家のインターホンを鳴らすと、ドアから出てきたのはゼノンだった。
 長袖シャツにズボン姿の彼は、相変わらずムカつくほど顔はいい。
 外国人の掘りの深い容貌のせいもあって、モデルのように見える。

「ヒカル、ごめんな、夜に来てもらって」

「いいってことよ。なんか大事な話なんだろう?」

「まぁね」

 そのまま家の中に入ると、物音一つせず、とても静かだった。



「ああ、そう」

 麗子ちゃんのご両親は、二人に何かしらの術を使われて寝ているのだろう。
 でないと、こんな遅い時間帯に若い高校生男子が家の扉をくぐることは許さないだろう。

 二階への階段を上がると、こうこうと明かりがドアの隙間から漏れていた。
 軽くノックをして入ると、ノートパソコンの前に麗子ちゃんがいて、俺の方を向いた。

「ごめんね、光君、遅い時間に来てもらって」

「うん、まぁ何の用?」

 部屋はシンプルながらかわいらしいものだった。窓辺には白いレースのカーテンがかけられ、家族らしき写真が飾られている。猫が好きなのか猫のぬいぐるみがたくさんある。
 勉強机の上は綺麗に整頓されていたが、今はノートパソコンが開いて置かれていた。
 妹以外の女の子の部屋に入るのは初めてで、少しドキドキした。

「今、郁夫おじさまとお話ししていたの」

『こんばんは』

 ノートパソコンの画面の向こうに、麗子のおじという郁夫おじさま……勇者達の金銭的パトロンを務める白報館社長の姿があった。ネットで映像を繋いでいるらしい。

「あ、こんにちは」

 ちょっとびっくりした。
 ゼノンは麗子の机周りに椅子を用意してくれて、俺とゼノンはそれに座った。

『悪いね、光君。呼びだして。実は、横浜でちょっとマズイことが起きているようなんだ』

「どういうことです?」

『横浜で道路の陥没事故があったのは、ニュースで聞いているよね』

「はい」

『その工事のために、付近にはブルーシートが張られていてね、中がよく見えない状態で、まぁ僕らもそういうこともあるだろうな、ととりたて気にしていなかったんだ』

 うんうんとうなずいている俺。

『それで、今日夜になって現場一帯が立ち入り禁止になった。ガスが漏れているという話なんだ。それで周囲五百メートル範囲は一般人及び報道陣の立ち入りが禁止された』

 うんうんとまたうなずく俺。そういうこともあると思う。

『上空もヘリやドローンを使っての撮影も禁止されている』

 うんうとうなずく。

『ただ、避難する住民の中に、現場を携帯で撮影した者がいてね。これだよ』

 そう言うと、郁夫おじさんの画面の下に小さな画面が映し出され、映像が流れた。
 夜、建物の看板や電灯の明かりに照らされた中を、身長二メートルを超える大きな何かが歩いている。ブルーシートが破れているのを見ると、そこから外に出てきてしまったんだろう。二足歩行しているが、猿のように上体を前に曲げ、両手をぶらんと下げている。その下げた右手に大きな剣を持ち、鎧を身に着けている。緑色の肌に、剥きだしにした歯。そして額には四つの角が見える。

「……ゴブリンナイト?」

『やっぱり、君はコレを知っているんだね』

 ゴブリンよりも大きい魔獣だった。
 倒すのも普通の人間なら厳しい。

 でも、自衛隊ならいけるだろう。

「ゴブリンナイトのそばに、自衛隊いるみたいだし、こいつは自衛隊が倒したんですよね?」

 そう。見ると、ゴブリンナイトから少し離れた場所に、銃を手にした自衛隊員の姿が何人も見える。
 一人じゃなくて多数なら、制圧できるはずだ。
 アレは魔法も使わないし、物理で押し切れるはず。

『そうだね、このゴブリンナイトは倒されたと思う』
 
「じゃあ、良かったじゃないですか」

 ほっとしたように笑う俺に、麗子は少し怒ったように言った。

「よくないわよ。湧き場所が変化しているってことでしょう。ゴブリンだけじゃなくて、ゴブリンナイトまで湧いているなんてちょっとマズいわよ。汚染が進行しているんだから」
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