俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

曙なつき

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第一章 俺の大好きな聖女ちゃんが腐女子で、現世まで追いかけてきた竜騎士とくっつけようと画策しているらしい

第1話 元の世界に帰りたいです!!!!(絶叫)

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 異世界に召喚されて魔王を倒した俺は、神に願いを叶えると言われた。
 もし、アイツがいなければ、その時の俺の願いは間違いなく「一緒に召喚された聖女ちゃんと異世界で幸せになります」だっただろう。
 だが、そうできない理由があった。

 魔王を倒したことを祝う式典で、聖剣を手に朗らかに笑う俺の斜め後ろから、食い入るように俺を見る奴がいた。
 竜騎士ゼノン。竜の血を引くというすげー強い男だ。
 モリモリの筋肉に赤毛のハンサムな男で、アメリカのアクション映画の主人公を張れそうな奴だった。
 そいつが何故か俺に惚れたと言って、ずっとずっと後ろをついて回るのがすごく怖い。
 奴に告白されたその日から、俺は何重にも結界を張り、トラップを仕掛け、絶対に奴が俺の側へ来れないようにした。
 少しでも油断したら、押し倒され、絶対に掘られる。
 勇者なのに仲間に掘られるってそんなことあっていいわけがない。
 魔王を倒す時の緊張感以上に、俺は緊張していた。
 
 そんな緊張が毎日続くわけにはいかないし、このままだといつか、結界は破られ、トラップも全部解除されるだろう。
 ストーカー被害者の気持ちが本当にわかった。
 なんで異世界に来て、こんな気持ちがわかるようになってしまったのか、世界の不条理を感じた。
 だから、神に願いを叶えると言われた時、俺は迷いなくこう言ったのだ。

「元の世界に帰りたいです!!!!(絶叫)」

 そして、その瞬間、絶望の表情になった竜騎士ゼノンに笑いかけた。

「じゃあな、ゼノン。元気でな」

 そう言うと、ゼノンは「ヒカル、行かないでくれ」とか叫んでいたが、そんなこと知ったこっちゃねぇ。
 
 すぐさま俺の足元に、あの異世界に呼びだされた時と同じ召喚陣が大きく広がり、光り始めた。
 
(ああ、やっと帰れるんだ)

 俺はホッとしていた。
 これで毎日毎日、結界を張る必要もなくなるし、トラップも作る必要がなくなる。あいつの視線を気にしなくてよくなるんだ。もう帰ったら、絶対に家でごろごろして、ポテチ食ってゲームしよう。そして普段の元の生活に戻るんだ。

 そうして現世に戻りつつある俺の背後で、聖女ちゃんの方が神の願いを叶えるという言葉に答えていた。

 俺と一緒に異世界へ呼びだされた聖女ちゃんは、林原麗子ちゃんと言う。真っ黒い長い髪に白い肌の、白雪姫のような可憐な女の子だった。聞けば、現世では名門女子校の聖マリアージュ学園に通っているらしい。本当にお嬢様で優しくて俺は大好きだった。何度か告白のチャンスがあったんだけど、そのことごとくが、あのホモ竜騎士に邪魔されたんだ。思わず、ギリギリギリと歯ぎしりしてしまう。
 よく聞く異世界転移小説だと、多くの場合、聖女と勇者は魔王を倒した後、手を取り合い恋に落ちるはずなのに、そのフラグが一向に立たなかったのは、絶対にあのホモ竜騎士のせいだ。
 でも、これでようやくあのホモの魔の手から逃れられる。現世に戻った聖女ちゃんこと麗子ちゃんと恋に落ちることだってできるはず。

 俺は乙女のように胸をときめかせながら、現世に戻ろうとしていたその時、聖女ちゃんの聞き捨てならない声がした。

「ヒカル君のことが大好きなゼノン君を、置いていくことは私、できません。どうか、私とゼノン君の二人を現世に連れていってください」




 え?



 竜騎士ゼノンの顔がパァァァァァァッと明るく輝いて、聖女ちゃんと手を取り合っている。

「ありがとう、レイコ様」

「いいんですよ、ゼノン君。私、いつまでもゼノン君を応援しています(こんな美味しいシチュエーション、ここで終わらせてたまるか)」

 なぜかニヤリと笑う聖女ちゃんの顔が、見えた。



 どうして聖女ちゃん
 どうしてあのホモ竜騎士まで。



 いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁと絶叫する俺は、現世に戻され、その後、竜騎士ゼノンと麗子も無事に現世に転移できたことを知った。

 その時の俺はまだ、聖女ちゃんが腐女子という恐ろしい生き物だということを知らなかった。
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