本めづる姫君と、永遠の騎士

曙なつき

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第二章 恋に落ちては一途な騎士の物語

第六話 繰り返し、愛しているの

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 ナディアは、今や王となったオーレリアンとの間に、一人の王子と二人の姫を産んだ。
 美しいナディア妃を、オーレリアンは深く愛しており、老衰で彼女が先に亡くなった後、後妻をと薦める者達の言葉に、決して首を縦に振ることはなかった。

 彼女に仕えるために、母国を離れてやってきた女官のシエラは、初老の女となっていた。
 シエラは、王子が姫に贈り続けた本を、彼女の墓の中に一緒に入れることを、オーレリアンに進言した。
 けれど、オーレリアンがそれを許すことはなかった。

 不思議なことに、あの見事な装丁の本を、ナディア姫は子供達には一切読ませることはおろか、触れさせることもなかった。
 ナディア姫は微笑みながら、「これは、私の物語だから」と言っていた。
 それほど思い入れのある本だから、彼女の墓に一緒入れることが良いというのに。
 なぜ、彼はそれを拒むのだろう。



 椅子に座り、その本をどこか懐かしそうに見つめるオーレリアンは、シエラにこう言った。

「これは、彼女のための物語で、彼女に見せてあげないといけないから」

 その翌日、国王オーレリアンは城から忽然とその姿を消した。
 四冊の本も、机の上から消え失せていた。

 国王の突然の失踪に、国は混乱したが、王子がすぐに即位し、やがてその混乱も終息する。
 女官シエラは、職を辞して母国に戻ることを決め、その帰路の旅の前に、立派な王城を振り返りながら、独り言めいて呟いた。














 きっと彼は、今も、、と。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

淡雪
2022.01.22 淡雪

面白くて一気に読んでしまいました。切ないけど素敵なお話でした。

曙なつき
2022.01.22 曙なつき

読んで頂き、素敵なお話と言って頂き、とても嬉しいです。励まされます!!
ご感想ありがとうございます(`・ω・´)

解除
るりまま
2022.01.16 るりまま

「転生したら〜」から
こちらの小説を読ませて頂きました。
素敵なお話で少し泣きました😢
「転生したら〜」も更新を楽しみに
仕事、家事を頑張れます❗️

曙なつき
2022.01.16 曙なつき

読んで頂きありがとうございます。
とても嬉しい感想で、これから書くことに励みになりました。
また、何かの機会に拙作を読んで頂けると嬉しいです。ありがとうございました。

解除
ゆう
2021.04.29 ゆう

素敵な話やった

曙なつき
2021.04.30 曙なつき

ご感想、ありがとうございます!!

解除

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