本めづる姫君と、永遠の騎士

曙なつき

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第二章 恋に落ちては一途な騎士の物語

第五話 初めての夜に

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 盛大な婚礼の式典を挙げた後、花嫁となったナディア姫は、夫婦の寝室の寝台の上に落ち着かない気持ちで座っていた。
 女官達に磨き上げられたその身体には、透けるような薄い衣一枚の頼りない身であった。
 恥ずかしさに、ナディアはシーツに身を包み、夫となったオーレリアンが部屋に入ってくるのを待っていた。

 だが、朝から慌ただしく行われた式の疲れが出てしまったのだろう。柔らかな寝具に包まれているうちに、ナディアの瞼は次第に重くなり、ついには小さく寝息を立てて眠りの中に落ちてしまった。

 目が覚めたのは、身体を這い回る柔らかくそして温かな感触を感じたからだった。
 薄く目を開けると、誰かが自分の身体の上に覆いかぶさり、身体中を口づけている。肌を舌で舐め、そして甘く噛みついていく。

(…………オーレリアン様かしら)

 眠りから覚めたナディア姫は、自分が婚礼の式典を挙げ、いよいよ初夜の寝台の上に横たわり、誰かから愛撫を受けている状況をようやく理解できたのだった。

(オーレリアン様がいらっしゃる前に、眠ってしまって、本当に申し訳ないことをしてしまったわ)

 そう思って、男の髪にそっと手を伸ばそうとした時に、自分に覆いかぶさっている男が、小さくぶつぶつと何かを呟いていることに気が付いた。

「姫様、姫様、姫様、ああ、やっと、やっとお会いすることができた。私の姫様、大好きな姫様」

 その手が止まった。

(………………)

「もう、姫様を離さない。絶対に離さない。今度こそ、私のものだ」

(……オーレリアン様?)

 彼は碧い目をギラギラと輝かせ、そしてナディア姫の胸に顔を埋めた。

「夢のようだ……姫様をこうして抱けるなんて」

 そこで、ナディア姫はわざとらしく目が覚めたふりをした。

「……オーレリアン様?」

 問いかける声に、オーレリアンはすぐさま優しく礼儀正しい貴公子の仮面をその面に被った。先刻までの、胸元に顔を埋めた、ギラギラと獣じみた瞳をした男の顔はすぐに消え失せる。

「ああ、ナディア。疲れて眠っていたようだね。大丈夫かい?」

「はい」

 彼は、ナディアの頬に手を当て、それから唇を啄むように口づけた。
 そして男の舌がナディアの口内に入ってきたので、ナディアは少しばかり驚く顔をする。

「……ん」

 男の手が、ナディアの胸をすくい上げるようにして揉み始める。
 理解していることとはいえ、恥ずかしい。
 指はナディアの胸の淡く色づいた先端を摘まみ、固くなっていくその感触を楽しんでいるようだった。
 ナディアは恥ずかしさと身の内に生じた熱に、汗をしっとりと全身にかき、小さく喘ぐと、オーレリアンは微笑んでその大きな手で太腿を開かせた。
 そっと触れるかどうかの感覚で、小さな花芽に触れると、まるで電流が走ったかのようにナディアは身体を震わせた。

「ああっ」

「感じやすいんだね、ナディア。もう興奮しているの?」

 そう言うオーレリアンの碧い目も、薄闇の中輝いて見える。彼も興奮して、先刻のようなギラつきを、合間合間に見せていた。
 彼の指が、蜜に濡れつつある花のようなその柔らかな彼女の中に、差し込まれた時、オーレリアンはナディアの頬に額に口づけを繰り返した。

「優しくする……大丈夫だよ、ナディア」

 自らの足の間から、淫靡な水音が立ち始め、羞恥にナディアは目元に涙を浮かべる。
 男の指を一本受け入れた時は、そのきつさに出来るのだろうかと、これからの行為への不安と恐怖を感じたが、オーレリアンは優しくすると話したように、ナディアがより濡れて、負担にならないように、十分な愛撫を繰り返した。そしてとうとう、オーレリアンが猛だったそれの切っ先を、ナディアの中にゆっくりと挿し入れていった時、ナディアは彼の背中に抱きつく。
 そしてオーレリアンは、囁くような小さな声でこう言った。
 それはよく耳を澄まさないと、聞こえないほどの小さな声だった。

「姫様、愛しております」
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