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第二章 恋に落ちては一途な騎士の物語
第四話 奈落の底で望んだ願い
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悪魔の甘言に乗った騎士アルセーヌは、神へ戦いを挑み、そして当然のように負けた。
彼は奈落に落とされる。
どこまでも暗い闇の中、アルセーヌは這うようにして進んでいた。
闇の中、それでも完全に堕ちた魂ではないアルセーヌの、その身の内に潜む輝きに惹かれて、闇の中に棲む悪魔達が一人、また一人と近づいていく。
アルセーヌは近づいてくる悪魔を一人ずつ倒し、自身の配下とした。
時間の流れはまったく分からなかったが、いつの間にか、恐ろしいほど多くの悪魔達が彼に従っていた。
そのことを知った魔王が、彼を魔界貴族に叙した。
美しくどこか優美な魔王は、アルセーヌに教えてくれた。
彼が長い間、この世を彷徨いつつ、求め続けていた情報だった。
ユーフェリア姫は、転生する。
だから、転生した彼女に会えば良いと。
彼女に会えると知ったアルセーヌは、闇の中、歓喜しながらも自身の鋭く伸びた爪や、頭に生えた角をその時初めて、恥じたのだ。
このような化け物に堕ちた身では、姫様に会うことはできないと。
だが、魔王はひどく優しく言った。
「だませばいい。お前は人の身に化けて、彼女の前に現れるが良い。何が違うというのだ。人の方がよほど悪魔のように恐ろしいことをするというのに。お前は化け物かも知れない。だが、彼女をずっとだまし続ければ、それは化け物ではないことになる。ずっと、ずっと彼女が死ぬその時まで、だまし続けるのだ」
アルセーヌは、どうしても、あのシロツメクサの冠をくれた姫君に会いたかった。
それだけを望んで、長い旅を続けてきた。
どうしても、どうしても、会いたかった。
だから、生涯、彼女をだまし続けることを、心に決めた。
アルセーヌは、魔王に望んだ。
ユーフェリアが今度生まれ変わる時には、その身は非常に健やかになることを。以前のように旅で命を落とすことのないように。
かつて天使の地位にあり、堕天して奈落に落とされ、魔王に昇りつめた者は、魔族にまでなった騎士の男のその執念と悲しいくらい切ないその想いを興じていた。
「わかった。あの娘の身は誰よりも健やかにしよう。して、お前はどうするのだ」
「彼女に会いに行きます」
あれほど望んだ魂だった。
生まれいづる時には、彼にはきっとすぐにわかる。
今度会う時には、彼女がヒドイ目に遭わないように、お小さい頃から守って差し上げよう。
富も権力も持つ人間の男に化けて、彼女の婚約者になる。
そう、婚約者になるのだ。
やがて結ばれるべき、相手として。
ああ、それは本当に夢のようだ。
彼女が健やかに生きて、やがて私の傍らに立つことが定められし身になることが。
夢のようだった。
姫様に、革張りの本を贈り続けたのは、自分でもリスクのある行為だと分かっていた。
ソレを単なる物語だと思って眺めてもらえるといい。
だけど、一方で、ソレは、自分達の物語であることを感じて欲しかった。
彼女の中には前世の記憶はない。
悲しいほどに、欠片すら残っていない。
だから、彼女がソレのことを真実だと思うことは決してないはずだった。
彼は奈落に落とされる。
どこまでも暗い闇の中、アルセーヌは這うようにして進んでいた。
闇の中、それでも完全に堕ちた魂ではないアルセーヌの、その身の内に潜む輝きに惹かれて、闇の中に棲む悪魔達が一人、また一人と近づいていく。
アルセーヌは近づいてくる悪魔を一人ずつ倒し、自身の配下とした。
時間の流れはまったく分からなかったが、いつの間にか、恐ろしいほど多くの悪魔達が彼に従っていた。
そのことを知った魔王が、彼を魔界貴族に叙した。
美しくどこか優美な魔王は、アルセーヌに教えてくれた。
彼が長い間、この世を彷徨いつつ、求め続けていた情報だった。
ユーフェリア姫は、転生する。
だから、転生した彼女に会えば良いと。
彼女に会えると知ったアルセーヌは、闇の中、歓喜しながらも自身の鋭く伸びた爪や、頭に生えた角をその時初めて、恥じたのだ。
このような化け物に堕ちた身では、姫様に会うことはできないと。
だが、魔王はひどく優しく言った。
「だませばいい。お前は人の身に化けて、彼女の前に現れるが良い。何が違うというのだ。人の方がよほど悪魔のように恐ろしいことをするというのに。お前は化け物かも知れない。だが、彼女をずっとだまし続ければ、それは化け物ではないことになる。ずっと、ずっと彼女が死ぬその時まで、だまし続けるのだ」
アルセーヌは、どうしても、あのシロツメクサの冠をくれた姫君に会いたかった。
それだけを望んで、長い旅を続けてきた。
どうしても、どうしても、会いたかった。
だから、生涯、彼女をだまし続けることを、心に決めた。
アルセーヌは、魔王に望んだ。
ユーフェリアが今度生まれ変わる時には、その身は非常に健やかになることを。以前のように旅で命を落とすことのないように。
かつて天使の地位にあり、堕天して奈落に落とされ、魔王に昇りつめた者は、魔族にまでなった騎士の男のその執念と悲しいくらい切ないその想いを興じていた。
「わかった。あの娘の身は誰よりも健やかにしよう。して、お前はどうするのだ」
「彼女に会いに行きます」
あれほど望んだ魂だった。
生まれいづる時には、彼にはきっとすぐにわかる。
今度会う時には、彼女がヒドイ目に遭わないように、お小さい頃から守って差し上げよう。
富も権力も持つ人間の男に化けて、彼女の婚約者になる。
そう、婚約者になるのだ。
やがて結ばれるべき、相手として。
ああ、それは本当に夢のようだ。
彼女が健やかに生きて、やがて私の傍らに立つことが定められし身になることが。
夢のようだった。
姫様に、革張りの本を贈り続けたのは、自分でもリスクのある行為だと分かっていた。
ソレを単なる物語だと思って眺めてもらえるといい。
だけど、一方で、ソレは、自分達の物語であることを感じて欲しかった。
彼女の中には前世の記憶はない。
悲しいほどに、欠片すら残っていない。
だから、彼女がソレのことを真実だと思うことは決してないはずだった。
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