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第二章 恋に落ちては一途な騎士の物語
第三話 復讐からはじまる長い旅路
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あの義母達はユーフェリア姫に直接、手を下したわけではない。
だが、あの女達は、確実に姫が不幸になることを望んでいた。
年の離れた王の許へ嫁がせ、長い旅路に病弱なその身体がついていけないことを、配慮する気持ちなどこれっぽっちもなかった。
末姫の訃報を聞いた後も、あの義母達は平然としていたという。
ならば、同じようにすればいい。
直接手を下すことはない。
だが、同じように“不幸”に追いやることはできる。
義母が不貞を働いている話を耳にすれば、これ幸いとアルセーヌは、情事のその瞬間を王と彼に仕える重臣たちの前で申し開きのつかないように、明らかにさせた(その場に踏み込ませた)。
離宮に追いやられ、心が弱っている彼女に、眠れるように死ねるという毒薬をそっと目の入る場所に置いたのも彼だった。
それを口にするかどうかは、彼女の心次第であったろう。
義母が亡くなった後は、その娘達の嫁ぎ先を用意した。
国にとって非常にメリットはあるが、ひどい噂ばかり聞く男達の許へ嫁がせるように動いた。
迷いを見せる王に、彼は進言した。
「あの病弱なユーフェリア姫でさえも国の為に尽くす所存で、遠い国の王の許へ嫁いでいこうとなされたのです。姉姫達も当然その御覚悟がございましょう」
みんな“不幸”になってしまえと思った。
姫様だけが“不幸”になることは許せなかった。
みんなみんな、おしなべて“不幸”になるべきだった。
同僚の騎士バーンズワースは、アルセーヌをひどく気遣っていた。
アルセーヌが淡々と“復讐”を遂げることもじっと眺めていた。
それを為し遂げた後、バーンズワースはぽっかりと空いたアルセーヌの心が折れてしまわぬように、彼は親友の騎士にこう囁いた。
「死んだ人間を生き返らせる方法があるらしい」
復讐を遂げた後、夢も希望も目的も失ったアルセーヌは、心が折れてしまう。そう、バーンズワースは危惧していた。
誰よりも親しい友であったバーンズワースは、優秀な騎士であるアルセーヌの命を惜しんでいた。
だから、彼を旅に追いやるように言ったのだ。
「もう一度、姫様に会えるかも知れないぞ」
それに、アルセーヌの碧い瞳に狂おしいほどの光が灯った。
命のない人形に、命が灯った瞬間を見るような劇的な変化であった。
「どこに、どこにその方法があるというのだ」
「遠い、東の方にいる賢者がその方法を知るという話だ。地図を用意してやろう、アルセーヌ」
そっとその背中を、彼は押したのだった。
アルセーヌは国の騎士であることを辞め、遠く旅立った。
時折、アルセーヌからは手紙が届く。
残念ながら、東方の賢者はその方法を知らないと話した。
だが、秘境に棲む高僧がそれを知るらしい話を耳にしたため、続けて秘境へと旅立つとあった。
その後も届く手紙には、秘境に辿り着いたが、高僧もその方法を知らぬと話した為、精霊界の女王に会いに行くという、嘘のような話が書いてあった。
それでも、彼が元気でこの世界のどこかで生きているならばいい。
そう、バーンズワースは考えていた。
精霊女王に会ったが、精霊女王もその方法を知らなかったという返事がバーンズワースの手元に届いた時、バーンズワースは七十歳を優に超えていた。
忘れた頃に届いたその手紙に驚いた。
彼はまだ、探しているのだと。
その手紙には、今度は竜を倒しに行くとあった。
竜を倒した旨の手紙が届いた時、バーンズワースは墓の中に入っており、彼の子供達は不思議に思いながらもその手紙を墓の前に花と共にたむけたのだった。
バーンズワースの親友だった騎士の旅は、まだ終わらないようだった。
精霊界に渡った時、アルセーヌは精霊の言われるがまま、こんこんと湧きだす泉から、水の精霊の許しを得て、清水を飲み干した。
それは甘露の如く甘い水であった。身体の隅々まで行きわたるようなそれを飲んだ後から、どうも年齢を超越している感じがあった。
年を取らないのだ。
精霊女王に会い、女王から「人間を生き返らせる方法など知らぬ」とにべもない言葉を聞いた後、元の世界に戻ってきたのだが、その時点で半世紀ほど時間が経過していた。
女王は「古き竜ならばその方法を知っているかも知れぬ。だが、竜は強き者の言葉しか従わぬから、お主で倒してまいれ」と言われたため、アルセーヌは竜退治に向かうことになった。
古き竜を倒したが、竜は「人間を生き返らせる方法など知らぬ」と答えた。
もはや八方塞がりであった。
気落ちするアルセーヌの耳元に、その時初めて、悪魔が囁いたのだった。
神ならば、姫を生き返らせる方法を知っている。
神を問いつめよ、と。
だが、あの女達は、確実に姫が不幸になることを望んでいた。
年の離れた王の許へ嫁がせ、長い旅路に病弱なその身体がついていけないことを、配慮する気持ちなどこれっぽっちもなかった。
末姫の訃報を聞いた後も、あの義母達は平然としていたという。
ならば、同じようにすればいい。
直接手を下すことはない。
だが、同じように“不幸”に追いやることはできる。
義母が不貞を働いている話を耳にすれば、これ幸いとアルセーヌは、情事のその瞬間を王と彼に仕える重臣たちの前で申し開きのつかないように、明らかにさせた(その場に踏み込ませた)。
離宮に追いやられ、心が弱っている彼女に、眠れるように死ねるという毒薬をそっと目の入る場所に置いたのも彼だった。
それを口にするかどうかは、彼女の心次第であったろう。
義母が亡くなった後は、その娘達の嫁ぎ先を用意した。
国にとって非常にメリットはあるが、ひどい噂ばかり聞く男達の許へ嫁がせるように動いた。
迷いを見せる王に、彼は進言した。
「あの病弱なユーフェリア姫でさえも国の為に尽くす所存で、遠い国の王の許へ嫁いでいこうとなされたのです。姉姫達も当然その御覚悟がございましょう」
みんな“不幸”になってしまえと思った。
姫様だけが“不幸”になることは許せなかった。
みんなみんな、おしなべて“不幸”になるべきだった。
同僚の騎士バーンズワースは、アルセーヌをひどく気遣っていた。
アルセーヌが淡々と“復讐”を遂げることもじっと眺めていた。
それを為し遂げた後、バーンズワースはぽっかりと空いたアルセーヌの心が折れてしまわぬように、彼は親友の騎士にこう囁いた。
「死んだ人間を生き返らせる方法があるらしい」
復讐を遂げた後、夢も希望も目的も失ったアルセーヌは、心が折れてしまう。そう、バーンズワースは危惧していた。
誰よりも親しい友であったバーンズワースは、優秀な騎士であるアルセーヌの命を惜しんでいた。
だから、彼を旅に追いやるように言ったのだ。
「もう一度、姫様に会えるかも知れないぞ」
それに、アルセーヌの碧い瞳に狂おしいほどの光が灯った。
命のない人形に、命が灯った瞬間を見るような劇的な変化であった。
「どこに、どこにその方法があるというのだ」
「遠い、東の方にいる賢者がその方法を知るという話だ。地図を用意してやろう、アルセーヌ」
そっとその背中を、彼は押したのだった。
アルセーヌは国の騎士であることを辞め、遠く旅立った。
時折、アルセーヌからは手紙が届く。
残念ながら、東方の賢者はその方法を知らないと話した。
だが、秘境に棲む高僧がそれを知るらしい話を耳にしたため、続けて秘境へと旅立つとあった。
その後も届く手紙には、秘境に辿り着いたが、高僧もその方法を知らぬと話した為、精霊界の女王に会いに行くという、嘘のような話が書いてあった。
それでも、彼が元気でこの世界のどこかで生きているならばいい。
そう、バーンズワースは考えていた。
精霊女王に会ったが、精霊女王もその方法を知らなかったという返事がバーンズワースの手元に届いた時、バーンズワースは七十歳を優に超えていた。
忘れた頃に届いたその手紙に驚いた。
彼はまだ、探しているのだと。
その手紙には、今度は竜を倒しに行くとあった。
竜を倒した旨の手紙が届いた時、バーンズワースは墓の中に入っており、彼の子供達は不思議に思いながらもその手紙を墓の前に花と共にたむけたのだった。
バーンズワースの親友だった騎士の旅は、まだ終わらないようだった。
精霊界に渡った時、アルセーヌは精霊の言われるがまま、こんこんと湧きだす泉から、水の精霊の許しを得て、清水を飲み干した。
それは甘露の如く甘い水であった。身体の隅々まで行きわたるようなそれを飲んだ後から、どうも年齢を超越している感じがあった。
年を取らないのだ。
精霊女王に会い、女王から「人間を生き返らせる方法など知らぬ」とにべもない言葉を聞いた後、元の世界に戻ってきたのだが、その時点で半世紀ほど時間が経過していた。
女王は「古き竜ならばその方法を知っているかも知れぬ。だが、竜は強き者の言葉しか従わぬから、お主で倒してまいれ」と言われたため、アルセーヌは竜退治に向かうことになった。
古き竜を倒したが、竜は「人間を生き返らせる方法など知らぬ」と答えた。
もはや八方塞がりであった。
気落ちするアルセーヌの耳元に、その時初めて、悪魔が囁いたのだった。
神ならば、姫を生き返らせる方法を知っている。
神を問いつめよ、と。
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