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第一章 本を贈られる姫君の物語
序 古えの姫君の物語 ~ユーフェリア姫とその騎士~
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ユーフェリアは、生来病弱な姫君でありました。
母は産後の肥立ちが悪く早々に亡くなり、依るべき身のない彼女は、宮殿の隅で小さくなって暮らしておりました。父たる王は、母によく似た面差しのユーフェリア姫を溺愛していましたが、それが気に食わないのが、後妻として入った義母とその娘達でした。
機会さえあれば、義母とその娘達はユーフェリア姫をネチネチネチネチネチネチと苛める日々でした。
そんなユーフェリア姫でありましたが、義母らから苛められる環境の中でも、心優しい美しい姫として成長しておりました。そして彼女の側には常に、彼女のことを愛する護衛騎士のアルセーヌがいました。銀の髪に鋭い蒼い目を持つ年上のこの騎士は、ユーフェリアが幼い頃からそのそばで仕えていたのです。
義母とその娘達から受ける苛めで、王宮の庭の茂みの中で、シクシクと泣いていると慰めるのはこのアルセーヌの役目でした。小さい頃は彼女を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてくれていましたが、大きくなれば節度を守り、彼女の為にハンカチを差し出しました。そしてどこか切なげな瞳で、ユーフェリア姫のことを見つめて言っていたのです。
「私に力があれば、姫様を泣くような目に遭わせずいられるのに」
姫は騎士アルセーヌのことが大好きでした。
アルセーヌは、伯爵家の出で、ゆくゆくは実家に戻り、婚約者の娘と婚儀を挙げることが決められています。そのことをユーフェリア姫も知っていました。
そしてユーフェリア姫自身も、つい先日、遠方の国へ嫁ぐことが決まりました。
病弱な身でのその長い旅路は、彼女の負担になるのではないかと進言する者達も多かったのですが、国にとって非常に利に繋がる婚姻だと、推し進めたのが義母でした。
後ろ盾のない姫は逆らうこともできず、それに従うしかありませんでした。
ユーフェリア姫は旅路への出立の朝、アルセーヌに一枚のハンカチを差し出しました。
それは見事な刺繍の施されたハンカチです。
ユーフェリア姫は時間をかけて丁寧に、ハンカチに刺繍を刺したのです。それはアルセーヌの家の紋章でした。
アルセーヌは、姫の旅路についていくことを許されませんでした。
旅立つ彼女の乗る馬車を見送ったのが、その最後の別れになったのです。
彼女は旅の途中で、命を落としたのです。
『花のような姫君と永遠の騎士』より
母は産後の肥立ちが悪く早々に亡くなり、依るべき身のない彼女は、宮殿の隅で小さくなって暮らしておりました。父たる王は、母によく似た面差しのユーフェリア姫を溺愛していましたが、それが気に食わないのが、後妻として入った義母とその娘達でした。
機会さえあれば、義母とその娘達はユーフェリア姫をネチネチネチネチネチネチと苛める日々でした。
そんなユーフェリア姫でありましたが、義母らから苛められる環境の中でも、心優しい美しい姫として成長しておりました。そして彼女の側には常に、彼女のことを愛する護衛騎士のアルセーヌがいました。銀の髪に鋭い蒼い目を持つ年上のこの騎士は、ユーフェリアが幼い頃からそのそばで仕えていたのです。
義母とその娘達から受ける苛めで、王宮の庭の茂みの中で、シクシクと泣いていると慰めるのはこのアルセーヌの役目でした。小さい頃は彼女を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてくれていましたが、大きくなれば節度を守り、彼女の為にハンカチを差し出しました。そしてどこか切なげな瞳で、ユーフェリア姫のことを見つめて言っていたのです。
「私に力があれば、姫様を泣くような目に遭わせずいられるのに」
姫は騎士アルセーヌのことが大好きでした。
アルセーヌは、伯爵家の出で、ゆくゆくは実家に戻り、婚約者の娘と婚儀を挙げることが決められています。そのことをユーフェリア姫も知っていました。
そしてユーフェリア姫自身も、つい先日、遠方の国へ嫁ぐことが決まりました。
病弱な身でのその長い旅路は、彼女の負担になるのではないかと進言する者達も多かったのですが、国にとって非常に利に繋がる婚姻だと、推し進めたのが義母でした。
後ろ盾のない姫は逆らうこともできず、それに従うしかありませんでした。
ユーフェリア姫は旅路への出立の朝、アルセーヌに一枚のハンカチを差し出しました。
それは見事な刺繍の施されたハンカチです。
ユーフェリア姫は時間をかけて丁寧に、ハンカチに刺繍を刺したのです。それはアルセーヌの家の紋章でした。
アルセーヌは、姫の旅路についていくことを許されませんでした。
旅立つ彼女の乗る馬車を見送ったのが、その最後の別れになったのです。
彼女は旅の途中で、命を落としたのです。
『花のような姫君と永遠の騎士』より
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