前世の愛が重かったので、今世では距離を置きます

曙なつき

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【外伝】

その子らの物語のはじまり (下)

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 庭園で母が母の友人とお茶をしていると聞いて、レオンハルトは庭園へ向かった。
 もしかしたら、母の親友の魔術師ゼファーが来ているのではないかと思ったのだ。
 あの黒髪の魔術師を、レオンハルトはとても気に入っていた。
 彼を見ると、胸がドキドキしてしまう。
 もしや、母の友人が自分の“番”なのではないかと思い悩んだこともあったが、同じ竜の血を濃く引く父に言わせると、そうではないらしい。
 “番”という存在は世界を薔薇色に変えるものらしい。“番”なくして生きてはいけぬを公言している父は、力説していた。
 
 でも、ゼファーを見ると嬉しい気持ちになるのだ。
 それは何故だろう。

 なぜかゼファーのことを嫌いぬいている父に、その不思議な感情を話すこともできず、レオンハルトは自分の気持ちを誰にも話せずにいた。



 庭園に行くと、母とゼファーはテーブルを挟んで楽しそうに話していた。
 レオンハルトが現れると、二人は笑みを浮かべる。

「久しぶりですね、殿下」

「はい」

 ああ、やっぱり。
 ゼファーを見ると嬉しい気持ちになる。
 彼に対して満面の笑みを浮かべるレオンハルトに対して、母であるフランシスは言った。

「今日はウィル君も来ているんだ。レオンはウィル君に会うのは初めてだよね」

「はい」

「ゼファーの息子さんだよ」

 その言葉に、何故か衝撃を受けた。

 息子? 
 息子がいたのか?

 目の前の黒髪の青年の、幼い姿を想像すると……なぜか胸の動悸が止まらなくなった。
 何故だろう。

「レオン、ウィル君を迎えに行ってくれる?」

「……わかりました」

 レオンハルトは、庭園を歩いて行く。最初は歩いていたのが、次第に早まり、最後にはなぜか走っていた。
 護衛騎士もついていくと言ったが、ここでは不要だと述べて母の元に置いていった。
 余計なものについて来て欲しくなかった。

 胸の動悸が止まらない。
 息も荒くなる。

 ああ、ここにいる。
 ここにいるんだ。

 僕のかわいい番が。





 その頃、ウィルはついてきていた女官とはぐれ、茂みの中に一人で座っていた。
 きっと誰かがそのうち迎えに来てくれるだろうと、泣くこともせずに『魔法大全』を膝の上に開いて読んでいる。
 その時、茂みを勢いよく抜けて来た、金髪の少年が目の前に現れた。

 ウィルはびっくりして、青い瞳を大きく見開いた。
 金の髪に、金の……きらきらとした瞳。
 すごい、綺麗。

 茂みを抜けてきたせいか、金の髪には葉がつき、乱れていた。
 レオンハルトは息も荒く、そしてなぜか頬を染めて、ウィルに向かって問いかけた。

「…………君が、ウィル?」

「そう」

 こくりとうなずく番の少年を見た瞬間、レオンハルトは弾けるような笑顔を見せて、彼に手を差し出した。

「さあ、行こうか」









 そしてまた、新たな物語がここからはじまった。
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