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第二章 今世の幸せ
第24話 焼き切れる
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だが、それは人間の扱う魔力量としては膨大すぎた。
中継点を担う十二人の魔術師達の中には、魔力回路を焼き切る者達が現れ、何人かの新たな魔術師達に交代していた。
しかし、繰り返されるその作業の中、次々と魔術師達は倒れていく。
二十回を超える頃には、当初いた十二人の魔術師のうち半数以上が交代をしていた。
交代ができる魔術師達も尽き始めている。
未だなんともない表情で膨大な魔力を受け取り、やすやすと“消失の槍”を振るう皇太子アレクサンドロスの異常さが際立っていた。
(本当に、あいつは人間離れした奴だ)
こんな時なのに、ゼファーは呆れると同時に、感心していた。
この時代に、この時この瞬間に、アレクサンドロスがいなければ、“消失の槍”で、“いとくらき闇の波”を消すことなど到底不可能であっただろう。
これも全て、巡り合わせということなのか。
一人の中継点を担う魔術師の回路が焼き切れた。
苦悶の表情を見せて倒れた彼の分を、すぐにゼファーとヘクト師が担う。
(ギリギリもいいところだな……)
十一人の魔術師で回すにはキツイ作業だ。
だが、あと少しだった。
先刻の伝令の話だと、あと一回ほど魔力をアレクサンドロスに渡して“消失の槍”を使えば、海上のあの“いとくらき闇の波”は全て消え去るはず。
なんとか耐えるしかない。
だが、やはり量が膨大すぎたのだろう。
高齢のヘクト師が胸を押さえて倒れる。
ゼファーはその魔力をその身に受け止める。
苦痛に満ちた顔を見せ、それでも耐えながらその魔力をまとめあげていく。
更にもう一人、魔術師が回路を焼き切って倒れた時、ゼファーはアレクサンドロスの名を叫んだ。
「アレクサンドロス!!」
黄金の髪の皇太子はすぐに察し、フランシスの手を振り払い、ゼファーの元に駆け寄った。
黒髪の少年の手を直接握る。
「……受け取れ」
そしてゼファーとアレクサンドロスは初めてお互いの手を握り締め、そして魔力を受け取った。
アレクサンドロスは漆黒の槍を振り上げた。
その穂先から生じた白く輝く光は、あたりを白く染めあげながら灰色の空を引き裂き、黒い靄を引き裂いて消したのだった。
一瞬の静寂の後、大きな歓声が上がった。
「……やった」
「やったのか」
海上には穏やかな青い波が広がっている。空には雲一つなくなり、太陽が頭上から現れる。
作業を始める前のあの、この世の終わりのような暗い光景とは大違いだった。
皆が叫ぶように歓声を上げた中、悲鳴が上がった。
「魔力の送還を止めさせろ!!」
さらに塔から膨大な魔力が送られてきていたのだ。
受け止める魔術師達の数はもはや当初の十二人ではなく、十人を切っていた。
次々に残った魔術師達が回路を焼き切り、悲鳴を上げて倒れていく。
ほとんど多くの魔術師達が倒れた中、全ての魔力を受け止めたゼファーの右手が一瞬で燃え上がり、彼の表情が凍りついたのを見た時、フランシスは悲鳴を上げた。
アレクサンドロスが再度ゼファーのその手を取ろうとしたその前に、いつの間にかそばまでやってきていたアーノルドがゼファーの身を抱きしめた。
「馬鹿な方だ!!」
叱るような声を上げ、アーノルドは初めてあの“光の盾”を使った。
すべての敵を薙ぎ払うとされているその盾は、ゼファーの身に宿っていた膨大な魔力すらも払い、それはあっという間に彼方に押し切る。
まさに力業であり、丘の上の空の向こうの空間がしばらく歪んでいたほどであった。
ゼファーは意識を失って倒れた。
その胸に手を当て、まだそれが動いていることにアーノルドは明らかにホッとしていた。
黒髪の魔術師を抱き上げる。彼は人形のように抱きかかえられるままになっていた。
泣きじゃくりながらフランシスがそばに近寄ってきた。
「ゼファーは、ゼファーは大丈夫なの?」
「生きています。大丈夫ですよ」
「ゼファーが全部引き受けてくれたから……だから」
「ええ、馬鹿な方です。フランシス様、お気を病まないでください。フランシス様のせいでは決してありません」
「でも」
「そうだ、ゼファーは大丈夫だ。帝国の魔術師達が総力をあげて治療をしよう」
皇太子アレクサンドロスが言うと、フランシスは涙で濡れた目を擦りながら、うなずいていた。
「うん……よろしくねアレク」
「任せてくれ」
中継点を担う十二人の魔術師達の中には、魔力回路を焼き切る者達が現れ、何人かの新たな魔術師達に交代していた。
しかし、繰り返されるその作業の中、次々と魔術師達は倒れていく。
二十回を超える頃には、当初いた十二人の魔術師のうち半数以上が交代をしていた。
交代ができる魔術師達も尽き始めている。
未だなんともない表情で膨大な魔力を受け取り、やすやすと“消失の槍”を振るう皇太子アレクサンドロスの異常さが際立っていた。
(本当に、あいつは人間離れした奴だ)
こんな時なのに、ゼファーは呆れると同時に、感心していた。
この時代に、この時この瞬間に、アレクサンドロスがいなければ、“消失の槍”で、“いとくらき闇の波”を消すことなど到底不可能であっただろう。
これも全て、巡り合わせということなのか。
一人の中継点を担う魔術師の回路が焼き切れた。
苦悶の表情を見せて倒れた彼の分を、すぐにゼファーとヘクト師が担う。
(ギリギリもいいところだな……)
十一人の魔術師で回すにはキツイ作業だ。
だが、あと少しだった。
先刻の伝令の話だと、あと一回ほど魔力をアレクサンドロスに渡して“消失の槍”を使えば、海上のあの“いとくらき闇の波”は全て消え去るはず。
なんとか耐えるしかない。
だが、やはり量が膨大すぎたのだろう。
高齢のヘクト師が胸を押さえて倒れる。
ゼファーはその魔力をその身に受け止める。
苦痛に満ちた顔を見せ、それでも耐えながらその魔力をまとめあげていく。
更にもう一人、魔術師が回路を焼き切って倒れた時、ゼファーはアレクサンドロスの名を叫んだ。
「アレクサンドロス!!」
黄金の髪の皇太子はすぐに察し、フランシスの手を振り払い、ゼファーの元に駆け寄った。
黒髪の少年の手を直接握る。
「……受け取れ」
そしてゼファーとアレクサンドロスは初めてお互いの手を握り締め、そして魔力を受け取った。
アレクサンドロスは漆黒の槍を振り上げた。
その穂先から生じた白く輝く光は、あたりを白く染めあげながら灰色の空を引き裂き、黒い靄を引き裂いて消したのだった。
一瞬の静寂の後、大きな歓声が上がった。
「……やった」
「やったのか」
海上には穏やかな青い波が広がっている。空には雲一つなくなり、太陽が頭上から現れる。
作業を始める前のあの、この世の終わりのような暗い光景とは大違いだった。
皆が叫ぶように歓声を上げた中、悲鳴が上がった。
「魔力の送還を止めさせろ!!」
さらに塔から膨大な魔力が送られてきていたのだ。
受け止める魔術師達の数はもはや当初の十二人ではなく、十人を切っていた。
次々に残った魔術師達が回路を焼き切り、悲鳴を上げて倒れていく。
ほとんど多くの魔術師達が倒れた中、全ての魔力を受け止めたゼファーの右手が一瞬で燃え上がり、彼の表情が凍りついたのを見た時、フランシスは悲鳴を上げた。
アレクサンドロスが再度ゼファーのその手を取ろうとしたその前に、いつの間にかそばまでやってきていたアーノルドがゼファーの身を抱きしめた。
「馬鹿な方だ!!」
叱るような声を上げ、アーノルドは初めてあの“光の盾”を使った。
すべての敵を薙ぎ払うとされているその盾は、ゼファーの身に宿っていた膨大な魔力すらも払い、それはあっという間に彼方に押し切る。
まさに力業であり、丘の上の空の向こうの空間がしばらく歪んでいたほどであった。
ゼファーは意識を失って倒れた。
その胸に手を当て、まだそれが動いていることにアーノルドは明らかにホッとしていた。
黒髪の魔術師を抱き上げる。彼は人形のように抱きかかえられるままになっていた。
泣きじゃくりながらフランシスがそばに近寄ってきた。
「ゼファーは、ゼファーは大丈夫なの?」
「生きています。大丈夫ですよ」
「ゼファーが全部引き受けてくれたから……だから」
「ええ、馬鹿な方です。フランシス様、お気を病まないでください。フランシス様のせいでは決してありません」
「でも」
「そうだ、ゼファーは大丈夫だ。帝国の魔術師達が総力をあげて治療をしよう」
皇太子アレクサンドロスが言うと、フランシスは涙で濡れた目を擦りながら、うなずいていた。
「うん……よろしくねアレク」
「任せてくれ」
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