前世の愛が重かったので、今世では距離を置きます

曙なつき

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第二章 今世の幸せ

第21話 彼の思い

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 その後、ゼファーはアーノルドとのやりとりをどう判断したものか迷っていた。
 だが、アーノルドは特に態度を変えず今まで通り、自分のそばで護衛の任務を果たしてくれているので、悩むことは先送りにすることにした。
 個人の幸せよりも、今は滅亡を阻止することが第一だった。
 悩むのは、全てが終わってからでも十分間に合うはずだ。

 だが、あの時真近で言われたアーノルドの言葉が時折脳裏に蘇り、ゼファーはため息をつく。
 考えまいとしても、なまじ記憶力が良いもので、思い出してしまう。


『仕方ないので、私があなたを幸せにしてあげます。今、そう決めました』

『結婚の正式な申し込みは、すべてが終わってからにします』


 どこまでも真っ直ぐなあのアーノルドの眼差し。
 しかし、自分は応えるつもりはなかった。


 それは自分がひどく利己的な、ずるい人間だからだ。




 ゼファーは、二回の転生の後、アーノルド=ベーゼンハイムの一族が没落することを事実として知っていた。
 そして、彼の一族が没落したからこそ、困窮した彼らに手を差し出したならば、自分の手の中に転がり込んでくることを見越していた。
 過去の経験を利用して、彼らの忠誠を手に入れた。

 そんなずるい、汚い考えを持つ自分には、あの誠実な男は似合わない。






『あなたは自分が幸せになる方法がわからないのではないですか』 

 彼の言葉が耳を打った。

 それでも、それでもすべてが終わった時にこの世界が変わらず在って、皆が生きていてくれることだけで十分だと思った。

 時折、ツキンと痛む胸の痛みは、気にしないことにしていた。
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