前世の愛が重かったので、今世では距離を置きます

曙なつき

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第二章 今世の幸せ

第12話 光の盾

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 アレクサンドロスの左手を握り締め、彼が魔力を使いすぎないように交感状態にあったフランシスは、彼が“消失の槍”の力を使い終わった後も、無意識に彼の左手を握り締めていた。
 その手に触れている、安堵感。彼の肌に、彼の温かな体温に触れている。
 それにホッとする。

 アレクサンドロスは、さすがに大量の魔力を使いきって、疲れ果てた様子を見せていた。
 倒れるまでにはいかないが、座りたそうな様子を見せる。
 そこでフランシスはアレクサンドロスの左手を握り締めたまま、椅子のところまで案内した。
 二人の後を、護衛騎士のシュバイ二ーがついてくる。

「大丈夫ですか……」

 心配そうに見つめてくるフランシスに、アレクサンドロスは弱々しくうなずいた。

「ああ。これほど魔力を消費するのは初めてだ」

「魔力回復薬を飲みますか」

 フランシスが、荷物からその薬を持ってこようと左手を解こうとすると、アレクサンドロスはぐいとその手を強く握りしめた。

「いや、このままでいい。自然に回復するから、このまま手を握っておいて欲しい」

 間際で、その黄金色の瞳で見つめられ、フランシスはサッと頬を紅潮させる。




(……フランシスも、殿下のことがお好きなようだ)

 殿下の番だという少年は、見れば見るほど美しい少年だった。
 サラサラな白金の髪に、大きな桃色の瞳。綺麗な顔立ちをしている。
 今も、二人で見つめ合っている。
 入る余地のない世界を作っているような気がする。

 だが、彼には婚約者のゼファーがいる。

 不可解に思うのは、ゼファーが敵に塩を送るように、フランシスを殿下の側に付けたことだった。
 彼はこういう状態になることを分かっていて、フランシスを殿下のそばに付けた。
 どういう意図があるのか、シュバイニーにはわからなかった。


  *


 湖の水が消失したのを見て、ゼファーは護衛騎士達を連れて湖の中を歩き進んだ。
 アレクサンドロスは、ゼファーの言葉通り、膝丈の水だけを残して、後は全て消失させていた。
 そうできるだけの、膨大な魔力量を持つアレクサンドロスの力は凄まじい。
 さすが黄金竜の血を色濃く引くといわれる人間であった。

「あれは?」

 アーノルドが指さす先に、四角い建物があった。
 湖の中に完全に沈み込んでいたはずのその建物は、古い煉瓦作りの建物であった。

「行ってみよう」

 そしてアーノルドが先頭に立って、建物の中に入る。
 不思議なことに、建物の中はとても綺麗であった。
 湖の水に長年漬かっていたはずなのに、水苔などがついている様子もなく、真新しい煉瓦で積み上げられて作られている。

「状態維持の魔法が働いているようだ」

 建物の中央には、台座があり、その台座の上に宝箱が鎮座していた。

。宝箱を開けるときには気を付けてくれ」

 ゼファーの言葉を受け、アーノルドが宝箱を開く。
 その途端、宝箱から水蛇が飛び出してきた。

 気を付けてくれと言われていたため、騎士達はすぐさま盾を前に突き出し、防御した。
 それは巨大な水蛇だった。
 飛び出した宝箱よりも大きいのは、やはり魔法の力が働いているのだろう。

 アーノルドは剣を構え、飛び掛かってくる水蛇を払いのける。
 ゼファーはすぐさまエンチャント魔法を唱えた。騎士達の剣が白く輝く。
 切れ味を上昇するものであったが、ゼファーはそれに改良を加えていた。
 ほぼ、どんなものでも切り裂くことのできるエンチャントであった。

 主君の魔法は素晴らしい。
 騎士達は尊敬の念で、若き少年魔術師を見つめ、そして剣を振り上げた。
 敵の攻撃さえ当たらなければ、蹂躙に近い結果であった。
 引き裂かれて絶命した水蛇を脇に寄せ、アーノルドは宝箱の中を覗き込んだ。

 その中には純白の円形の盾が置かれていた。

「光の盾だ。よくやってくれた」

 ゼファーは珍しく、満面の笑みを浮かべ、騎士達を褒め称えた。
 そして盾をマジックバックの中に移すと、岸に向かって歩き始めたのだった。
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