23 / 62
第一章 前世の記憶
第13話 十六歳 古代遺跡の採掘とそれが教えること(上)
しおりを挟む 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
58
お気に入りに追加
1,968
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

好きだと伝えたい!!
えの
BL
俺には大好きな人がいる!毎日「好き」と告白してるのに、全然相手にしてもらえない!!でも、気にしない。最初からこの恋が実るとは思ってない。せめて別れが来るその日まで…。好きだと伝えたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる