騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

夏の祭りの花火 (2)

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 子供達全員に振られることになったバーナード騎士団長が、そのことにガッカリしているかというと、それほどではなかった。彼は「たまにはこうして、フィリップと二人で過ごすのも良いな」と述べ、少しばかり照れている様子がある。そしてそんなバーナード騎士団長を見ては、フィリップ副騎士団長の笑みは深まり、夏祭りの当日まで、フィリップ副騎士団長はずっと笑顔のままだった。まるで後ろに尻尾がついていれば、おそらく激しく左右にパタパタと振られていたこと間違いなかっただろう。

 ここ最近になって、子供達もおのおの、自分達の世界を作り始めていた。バーナードやフィリップから離れて過ごすことも多くなっていた。子が生まれる前の、恋人同士だった時間を取り戻したかのようで、フィリップは嬉しく思っている。そして、夏祭り当日の、団長との甘い時間を思えば、フィリップが上機嫌にならないはずはない。
 子を欲しがったのはフィリップだったが、人狼の伴侶のバーナードは愛しい存在で、本当ならいつだって(子の存在など関係なく)彼を愛したかった。でも実際、バーナードは淫魔なのに、厳格で、どこか禁欲的で、己を律する。子供達の前でだって、イチャイチャすることは許さない(実際、フィリップとバーナードが愛し合おうとしている場所に、子供達が寝ぼけて迷い込んできた時には、バーナードはフィリップを寝台の向こうに蹴り落としたことがあった。それくらい、彼は幼い子供達に性的な部分を見せないように気を遣っていた)。そのバーナードの姿勢には、フィリップも勿論、同意している。でも、一方でバーナードを愛したいという欲が、ずっと胸の奥底で渦巻いて、それは大きくなっている。
 彼を寝台の上に押し倒し、その首筋を甘く噛んでしまいたい。服を脱がし、その素晴らしい身体を舌で唇で愛でたい。足を抱え込んで、そして自分を深々と受け入れさせ、歓びの声を上げさせたい。短い黒髪を乱し、茶色の瞳を欲望に輝かせ、見つめ返してくる彼の姿を思い浮かべるだけで、フィリップの体は熱くなってくる。

 指折り数えて夏祭りの日を待ち望んでいたフィリップ。
 そしてとうとう、その日がやって来た。
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