541 / 568
【短編】
黒猫ルカの店 (3)
しおりを挟む
(こうした衣装を購入する場合、バート用のものを買うべきか。バーナード用のものを買うべきか。どちらにするべきなのだろうか)
購入することは確定なのである。
どんなにかバーナードから呆れられても、フィリップは購入する気満々だった。
その際、大人のバーナードに着せるものにするのか、少年のバートに着せるものにするのか。それによって購入するサイズが違ってくる。フィリップは真剣に悩んでいた。
フィリップの瞼の裏に、凛々しく逞しいバーナードと、愛らしい少年のバートの姿が浮かび上がる。ちなみに二人とも、フィリップの心中(想像上)に現れると同時に「「こんなもの履けるか!!」」とそうした下着を床に叩きつけるリアクションをしていた。
しかしそうした、想像上のリアクションを無視して、フィリップは閃いていた。
(いっそ二サイズを買うのがいいか!!)
フィリップは「うんうん」と頷く。
フィリップが、衣装のコーナーで腕を組んで考え込んでいるところに、若い女の声がした。
「お客様、お悩みでしょうか」
そこに、やけに肌の色が白い若い女が現れた。目の周りには薄紫のアイシャドーが入っており、口元にも赤い口紅が差され、非常に化粧が濃い。だが美しい女だった。黒の髪を結い上げ、簪を挿したその女は、この店の女主人であった。名をルカという。
深くスリットの入った黒いドレスをまとったその若い女主人は、ずっと衣装のコーナーで悩んで立っているフィリップを見かねて、声をかけたのだ。
初めてこうした店に入ったのだろう。目深にローブを羽織り、キョロキョロと店内を物珍しさに見回すその様子は、背中に“初心者です”と書かれているように、明らかに慣れていない客だった。
そうした客の相談に乗り、ふさわしい道具や衣装を案内することも、この女主人ルカの大事な仕事だった。フィリップは知らなかったのだが、この“黒猫ルカ”は界隈では名の知れた店だった。
フィリップは、女主人に声を掛けられた後、こう言った。
「その……初心者が抵抗なく着られる下着はどれでしょうか」
ルカは比較的、並べられている商品の中では大人しめだが、脱がせやすく煽情的な黒い紐パンを教えてやる。
何故かその客は「小さいサイズと大人のサイズの二つを下さい」と言って、ルカを呆れさせた。
なぜ、二サイズも必要なのか分からない。
しかし、この世界には、自分も知らない深いお楽しみが紳士淑女の間に、往々にしてあるものだからと、ルカは疑問の言葉を飲み込んだ。それどころか笑顔で「お箱に入れて、リボンをお掛けしましょうか」と丁寧に声をかけたところ、その奇妙な客は頷いていた。
なお、バーナード騎士団長に差し出された、リボンの掛けられたその箱の、大人サイズの淫らな下着は、差し出されると同時に、ゴミ箱の中に力任せに放り込まれることを、今のフィリップはまだ知らなかったのだった。
購入することは確定なのである。
どんなにかバーナードから呆れられても、フィリップは購入する気満々だった。
その際、大人のバーナードに着せるものにするのか、少年のバートに着せるものにするのか。それによって購入するサイズが違ってくる。フィリップは真剣に悩んでいた。
フィリップの瞼の裏に、凛々しく逞しいバーナードと、愛らしい少年のバートの姿が浮かび上がる。ちなみに二人とも、フィリップの心中(想像上)に現れると同時に「「こんなもの履けるか!!」」とそうした下着を床に叩きつけるリアクションをしていた。
しかしそうした、想像上のリアクションを無視して、フィリップは閃いていた。
(いっそ二サイズを買うのがいいか!!)
フィリップは「うんうん」と頷く。
フィリップが、衣装のコーナーで腕を組んで考え込んでいるところに、若い女の声がした。
「お客様、お悩みでしょうか」
そこに、やけに肌の色が白い若い女が現れた。目の周りには薄紫のアイシャドーが入っており、口元にも赤い口紅が差され、非常に化粧が濃い。だが美しい女だった。黒の髪を結い上げ、簪を挿したその女は、この店の女主人であった。名をルカという。
深くスリットの入った黒いドレスをまとったその若い女主人は、ずっと衣装のコーナーで悩んで立っているフィリップを見かねて、声をかけたのだ。
初めてこうした店に入ったのだろう。目深にローブを羽織り、キョロキョロと店内を物珍しさに見回すその様子は、背中に“初心者です”と書かれているように、明らかに慣れていない客だった。
そうした客の相談に乗り、ふさわしい道具や衣装を案内することも、この女主人ルカの大事な仕事だった。フィリップは知らなかったのだが、この“黒猫ルカ”は界隈では名の知れた店だった。
フィリップは、女主人に声を掛けられた後、こう言った。
「その……初心者が抵抗なく着られる下着はどれでしょうか」
ルカは比較的、並べられている商品の中では大人しめだが、脱がせやすく煽情的な黒い紐パンを教えてやる。
何故かその客は「小さいサイズと大人のサイズの二つを下さい」と言って、ルカを呆れさせた。
なぜ、二サイズも必要なのか分からない。
しかし、この世界には、自分も知らない深いお楽しみが紳士淑女の間に、往々にしてあるものだからと、ルカは疑問の言葉を飲み込んだ。それどころか笑顔で「お箱に入れて、リボンをお掛けしましょうか」と丁寧に声をかけたところ、その奇妙な客は頷いていた。
なお、バーナード騎士団長に差し出された、リボンの掛けられたその箱の、大人サイズの淫らな下着は、差し出されると同時に、ゴミ箱の中に力任せに放り込まれることを、今のフィリップはまだ知らなかったのだった。
20
お気に入りに追加
1,149
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる