騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

黒猫ルカの店 (3)

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(こうした衣装を購入する場合、バート用のものを買うべきか。バーナード用のものを買うべきか。どちらにするべきなのだろうか)

 購入することは確定なのである。
 どんなにかバーナードから呆れられても、フィリップは購入する気満々だった。
 その際、大人のバーナードに着せるものにするのか、少年のバートに着せるものにするのか。それによって購入するサイズが違ってくる。フィリップは真剣に悩んでいた。

 フィリップの瞼の裏に、凛々しく逞しいバーナードと、愛らしい少年のバートの姿が浮かび上がる。ちなみに二人とも、フィリップの心中(想像上)に現れると同時に「「こんなもの履けるか!!」」とそうした下着を床に叩きつけるリアクションをしていた。

 しかしそうした、想像上のリアクションを無視して、フィリップは閃いていた。

(いっそ二サイズを買うのがいいか!!)

 フィリップは「うんうん」と頷く。
 フィリップが、衣装のコーナーで腕を組んで考え込んでいるところに、若い女の声がした。

「お客様、お悩みでしょうか」

 そこに、やけに肌の色が白い若い女が現れた。目の周りには薄紫のアイシャドーが入っており、口元にも赤い口紅が差され、非常に化粧が濃い。だが美しい女だった。黒の髪を結い上げ、簪を挿したその女は、この店の女主人であった。名をルカという。

 深くスリットの入った黒いドレスをまとったその若い女主人は、ずっと衣装のコーナーで悩んで立っているフィリップを見かねて、声をかけたのだ。
 初めてこうした店に入ったのだろう。目深にローブを羽織り、キョロキョロと店内を物珍しさに見回すその様子は、背中に“初心者です”と書かれているように、明らかに慣れていない客だった。
 そうした客の相談に乗り、ふさわしい道具や衣装を案内することも、この女主人ルカの大事な仕事だった。フィリップは知らなかったのだが、この“黒猫ルカ”は界隈では名の知れた店だった。

 フィリップは、女主人に声を掛けられた後、こう言った。

「その……初心者が抵抗なく着られる下着はどれでしょうか」

 ルカは比較的、並べられている商品の中では大人しめだが、脱がせやすく煽情的な黒い紐パンを教えてやる。

 何故かその客は「小さいサイズと大人のサイズの二つを下さい」と言って、ルカを呆れさせた。
 なぜ、二サイズも必要なのか分からない。
 しかし、この世界には、自分も知らない深いお楽しみが紳士淑女の間に、往々にしてあるものだからと、ルカは疑問の言葉を飲み込んだ。それどころか笑顔で「お箱に入れて、リボンをお掛けしましょうか」と丁寧に声をかけたところ、その奇妙な客は頷いていた。

 


 なお、バーナード騎士団長に差し出された、リボンの掛けられたその箱の、大人サイズの淫らな下着は、差し出されると同時に、ゴミ箱の中に力任せに放り込まれることを、今のフィリップはまだ知らなかったのだった。
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