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第二十六章 騎士団長の長い一日
第六話 勝負の約束(上)
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大妖精は、非常に勿体ぶってなかなか、レブランに“器”を持つ“淫魔の王女”のことを教えなかった。
魔術会議の開催が近づき、レブランはその“器”が講演を聞くかも知れないと考え、チケットを手配する。
講演会の最前列の席を用意したのは、すぐにでもその“器”の正体を目にしたかったからだ、
しかし、講演会が開始されて、自分のすぐ目の前の座席についたのは、老年の魔術師と小柄な男の魔術師である。二人とも、面識があった。彼らはアルセウス王国の王宮魔術師達である。ただの人間であって、明らかに、“器”ではない。
レブランは面には出さないが、内心苛々としていた。
妖精を介して渡されたはずのチケットはどうしたのかと思っていたところで、彼を見つけた。
そう、一目でわかった。
席に座る無数の人々の中、そう千人以上の人々が群れ集うその講演会場の中でも、すぐにわかった。
膨大な魔力と高位魔族特有の強い圧。
マントを羽織り、剣を佩くその姿は、いつか見たものだった。
そう、アルセウス王国の王立魔術学園で、特別講師として招かれて、大ホールの中講演したあの時にも感じた。渦巻く濃密な“魔”の気配。強い圧を持つその者は間違いなく高位魔族だ。
そこでようやく、レブランも気が付いたのだ。
(まさか)
(まさかあの者が)
“淫魔の王”ウルディヌスをけしかけた少年。
短い黒髪に鋭い茶の瞳を持つスラリとした肢体を持つ少年。
王立魔術学園で生徒として通っていた少年。
バーナード騎士団長の隠し子と噂されていた少年。
名をバートというあの少年が、“淫魔の王女”なのか。
そう分かったのだった。
講演会が終わると、割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。
いつものように、花束と綺麗な包装紙に包まれた贈り物が山のように前の舞台に持ち込まれる。
同行していた、お付きの者達が手早くそれらを抱える。
魔術会議に関わる職員が、レブランを控室に案内する。
レブランは控室の荷物を整理させると、すぐにその場を後にした。
講演会の後に、“器”との対面が予定されているのだ。
約束の場所は、講演会が開かれていた大学そばの飲食できる店で、個室が用意されていた。
レブランがその個室に足を踏み入れた時、すでにそこには“器”である少年と、その同行者がいたのだった。
「待たせたか」
やはり、その場にいたのはあの講演会場で“魔”を感じた黒髪の少年であった。
そう声をかけると、少年はジロリとレブランを見つめ、「そう待っていない」と言う。
あまり自分に対して、好感情は持っていない様子だった。
レブランの後に入ってきたネリアと護衛の大男のゼトゥは、“淫魔の王女”位を持つであろう少年の姿をぶしつけなほど見つめていた。
ネリアもゼトゥも、淫魔を知っていた。
身近にラーシェという類まれなる美貌の青年の淫魔がいるのである。男とも女とも似つかぬような華奢な容姿のラーシェとは、少年は全く違う姿をしている。ラーシェがいかにも淫蕩な淫魔らしき姿であるのに対して、目の前の少年は全く淫魔らしくなかった。少年の顔立ちも整っているし、スラリとした体躯も、惹かれる者は惹かれるだろう。だが、淫魔らしくない。どこかサッパリとした爽やかさすら漂っている。男女問わず惑わすような淫靡さはない。
本当に淫魔なのかと、ゼトゥに至っては露骨に疑いの視線を向けていた。
バートは全くそんな視線などお構いなく、注文を取りにきた店員に、自分と隣の魔術師の男の注文をし、それからメニューの書かれている台紙をレブランの方に向けて、テーブルの上を滑らせて渡した。
「お前達も頼むだろう」
この部屋の中で一番年下であり、またいかつい大男のゼトゥを前にしても、全く怯える様子も見せずに堂々としている少年を見て、やはり彼はどこか違うようだとネリアは思う。
バーナード騎士団長の隠し子であるという噂の少年である。確かに真近で見ると、顔立ちや雰囲気など非常にあの騎士団長とよく似ていた。
そしてネリアは内心、これは困ったことになったとも思っていた。
バーナード騎士団長の隠し子が、“淫魔の王女”位を持つのであれば、その者はきっと、ネリア達吸血鬼に対して悪感情を持つだろう。
先日、白い宝珠を巡って、屋敷を強襲したばかりであるのだから。とても好感情など持てるはずがない。
事実、目の前の少年は恐ろしく冷ややかな目で、レブランらを睨みつけていたのだった。
レブランはネリアに、メニューの台紙を渡すと、ネリアはそれを手に注文をしている。
レブランはバートの姿を、視線を逸らさずにじっと見つめ、そしてバートはやはり彼のことを不機嫌そうに睨みつけていた。
バートの隣に座るマグル王宮副魔術師長の方が、そのバートの態度を気にして、彼の服の袖を引くくらいであった。
「おい、バート、お前、そんな睨むなよ。喧嘩売っているみたいだろう」
声を潜めて、小声でバートに言う。
バートは、レブランがこの店の部屋に案内された時から、親の仇でも見るように、彼のことを睨み続けていた。そのことには、バートのマントの中にいる小さな妖精のベンジャミンも再び深いため息をついている。
「気にするな」
「気にするよ!!」
そうこうしているうちに、料理が運ばれてくる。
少し早い昼食である。
食事が揃ったところで、ネリアは店の者に、「しばらく誰も入って来ないように」と頼むと入口の扉を閉めた。そして“静寂の魔道具”を起動させる。
そこでようやく、バートのマントから、小さな妖精のベンジャミンが姿を見せたのだった。
「皆さまお揃いのようですね。バート、貴方はレブラン教授のことはご存知でしょうから、教授のご紹介を省かせていただきます。レブラン教授、こちらはバートです。バーナード騎士団長と縁のある者です」
その紹介の言葉に、バートの傍らのマグルの目がやや開かれて、小さな妖精ベンジャミンを見つめる。
(バーナード騎士団長と縁のある者じゃなくて、バーナード自身なんだけど。どういうことだよ)
とマグルは内心思っていたのだが、元から勘の良いマグルであったから、何かベンジャミンがそう説明をする事にも理由があるのだろうと、そこには突っ込まずに口を噤んでいる。そして運ばれてきたサラダをムシャムシャと口にしていた。
「バーナード騎士団長には何度か、お会いしている」
直接会ったのは、アルセウス王国の国宝“黒の指輪”の修理のために王宮を訪問した際の送別会の時と、隣国に大型魔獣が出没し、その討伐のために派遣された時である。あの時には、バーナードの持つ魔剣をレブラン教授が執拗に欲して、断ったこともあった。
それから直接会うことはなかったが、その後に目の前のこの女吸血鬼と大男を、刺客として遣わされて一戦を交えた。
正直いい思い出はなく、度々散々な目に遭っているとしか言えない。
バートが不機嫌になっていることも、レブランは理解できていた。
まさか、あのバーナード騎士団長の血縁に、“淫魔の王女”がいるとは思ってもみなかったからだ。
「ああ、父上がとても世話になっていたようだ」
バートは、レブランの誤解を解くつもりはなかった。
こいつが、目の前の自分を、バーナード騎士団長の隠し子だと思っているのなら、そう思ったままでいい。その誤解を解いてやる親切を施すつもりは毛頭なかった。
「とても世話になっていた」という言葉の、奥に潜まれた嫌味を感じ取れないほど鈍感ではない、レブランやネリア達である。ネリアに至ってはバツの悪そうな顔をしていた。
「誤解から、バーナード騎士団長を大変な目に遭わせてしまった。申し訳ない」
レブランがするりとその唇から、詫びの言葉を口にした。
バートは、皿に盛られた小さなトマトを、銀色のフォークでグサリと突き刺した。
「もう詫びる必要はない」
少年は淡々と言う。
「それは、謝罪を受け入れるという話か」
その問いかけに、少年はキッパリと言った。
「ご隠居様の顔を立てて、謝罪は受け入れてやる。だが、それだけだ。俺が言いたいのは、もう二度と、俺達に関わるな。お前も、そこの女吸血鬼も大男も、二度と現れるなと言うことだ」
「バート」
慌てて少年の服を強く引いて、頭を振るマグル。言い過ぎだった。
このまますんなりと会合を終らせてしまえばいいのに、余計な事を口にしていると思ったのだ。
だが、バートとしては、一言くらいこの吸血鬼の男に文句を言っておきたかった。
「これが最初で最後の機会だから、ハッキリ言っておく。俺はお前のような男が嫌いだ。自分で手を下さず、常に配下を遣わせて済まそうとする。非常に力ある吸血鬼だという話だが、高見からそんなに見ていることが楽しいのか」
「無礼な」
ネリアが目を釣り上げてバートに言うのを、レブランはそれを手で制した。
「私は、君と仲違いをするつもりはない。君とはこれから、できるだけ友好な関係を保っていきたいと考えている」
「何故?」
「それを私に問うのか? それは君が」
「お二方とも、言い合いはおやめください」
そこに小さな妖精のベンジャミンが会話を割って入ってきた。
「ご隠居様は、お二方の和解を求めて、この席を設けるように私にお命じになったのです。それがこんな言い争いをするとは思ってもみませんでした」
「………………」
バートはチラリと小さな妖精を見て、それからため息をついた。
「分かった。先にも言ったが、和解は受け入れる。それ以上はない」
そこに、今まで口を噤んでいたゼトゥが初めて、口を開いて言ったのだった。
「和解を受け入れないと、お前の父親がまた、負けてしまうからだろう」
その言葉は何故か、部屋の隅々まで響き渡った。ネリアは蒼白となって凍りつき、レブランでさえもやや呆気にとられて、日頃無口な自分の護衛の男を見ていた。
ゼトゥはゼトゥで、自分の主であるレブランを愚弄されたことを許すつもりはなかった。
そしてバートの隣のマグルに至っては倒れそうな表情になっている。
マグルにはこの後の展開が、読めたのだ。
バートが、自分に対する無礼を許すつもりはないことを。
「なんだって、もう一度言ってみろ」
底冷えするような声で、少年は言った。
魔術会議の開催が近づき、レブランはその“器”が講演を聞くかも知れないと考え、チケットを手配する。
講演会の最前列の席を用意したのは、すぐにでもその“器”の正体を目にしたかったからだ、
しかし、講演会が開始されて、自分のすぐ目の前の座席についたのは、老年の魔術師と小柄な男の魔術師である。二人とも、面識があった。彼らはアルセウス王国の王宮魔術師達である。ただの人間であって、明らかに、“器”ではない。
レブランは面には出さないが、内心苛々としていた。
妖精を介して渡されたはずのチケットはどうしたのかと思っていたところで、彼を見つけた。
そう、一目でわかった。
席に座る無数の人々の中、そう千人以上の人々が群れ集うその講演会場の中でも、すぐにわかった。
膨大な魔力と高位魔族特有の強い圧。
マントを羽織り、剣を佩くその姿は、いつか見たものだった。
そう、アルセウス王国の王立魔術学園で、特別講師として招かれて、大ホールの中講演したあの時にも感じた。渦巻く濃密な“魔”の気配。強い圧を持つその者は間違いなく高位魔族だ。
そこでようやく、レブランも気が付いたのだ。
(まさか)
(まさかあの者が)
“淫魔の王”ウルディヌスをけしかけた少年。
短い黒髪に鋭い茶の瞳を持つスラリとした肢体を持つ少年。
王立魔術学園で生徒として通っていた少年。
バーナード騎士団長の隠し子と噂されていた少年。
名をバートというあの少年が、“淫魔の王女”なのか。
そう分かったのだった。
講演会が終わると、割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。
いつものように、花束と綺麗な包装紙に包まれた贈り物が山のように前の舞台に持ち込まれる。
同行していた、お付きの者達が手早くそれらを抱える。
魔術会議に関わる職員が、レブランを控室に案内する。
レブランは控室の荷物を整理させると、すぐにその場を後にした。
講演会の後に、“器”との対面が予定されているのだ。
約束の場所は、講演会が開かれていた大学そばの飲食できる店で、個室が用意されていた。
レブランがその個室に足を踏み入れた時、すでにそこには“器”である少年と、その同行者がいたのだった。
「待たせたか」
やはり、その場にいたのはあの講演会場で“魔”を感じた黒髪の少年であった。
そう声をかけると、少年はジロリとレブランを見つめ、「そう待っていない」と言う。
あまり自分に対して、好感情は持っていない様子だった。
レブランの後に入ってきたネリアと護衛の大男のゼトゥは、“淫魔の王女”位を持つであろう少年の姿をぶしつけなほど見つめていた。
ネリアもゼトゥも、淫魔を知っていた。
身近にラーシェという類まれなる美貌の青年の淫魔がいるのである。男とも女とも似つかぬような華奢な容姿のラーシェとは、少年は全く違う姿をしている。ラーシェがいかにも淫蕩な淫魔らしき姿であるのに対して、目の前の少年は全く淫魔らしくなかった。少年の顔立ちも整っているし、スラリとした体躯も、惹かれる者は惹かれるだろう。だが、淫魔らしくない。どこかサッパリとした爽やかさすら漂っている。男女問わず惑わすような淫靡さはない。
本当に淫魔なのかと、ゼトゥに至っては露骨に疑いの視線を向けていた。
バートは全くそんな視線などお構いなく、注文を取りにきた店員に、自分と隣の魔術師の男の注文をし、それからメニューの書かれている台紙をレブランの方に向けて、テーブルの上を滑らせて渡した。
「お前達も頼むだろう」
この部屋の中で一番年下であり、またいかつい大男のゼトゥを前にしても、全く怯える様子も見せずに堂々としている少年を見て、やはり彼はどこか違うようだとネリアは思う。
バーナード騎士団長の隠し子であるという噂の少年である。確かに真近で見ると、顔立ちや雰囲気など非常にあの騎士団長とよく似ていた。
そしてネリアは内心、これは困ったことになったとも思っていた。
バーナード騎士団長の隠し子が、“淫魔の王女”位を持つのであれば、その者はきっと、ネリア達吸血鬼に対して悪感情を持つだろう。
先日、白い宝珠を巡って、屋敷を強襲したばかりであるのだから。とても好感情など持てるはずがない。
事実、目の前の少年は恐ろしく冷ややかな目で、レブランらを睨みつけていたのだった。
レブランはネリアに、メニューの台紙を渡すと、ネリアはそれを手に注文をしている。
レブランはバートの姿を、視線を逸らさずにじっと見つめ、そしてバートはやはり彼のことを不機嫌そうに睨みつけていた。
バートの隣に座るマグル王宮副魔術師長の方が、そのバートの態度を気にして、彼の服の袖を引くくらいであった。
「おい、バート、お前、そんな睨むなよ。喧嘩売っているみたいだろう」
声を潜めて、小声でバートに言う。
バートは、レブランがこの店の部屋に案内された時から、親の仇でも見るように、彼のことを睨み続けていた。そのことには、バートのマントの中にいる小さな妖精のベンジャミンも再び深いため息をついている。
「気にするな」
「気にするよ!!」
そうこうしているうちに、料理が運ばれてくる。
少し早い昼食である。
食事が揃ったところで、ネリアは店の者に、「しばらく誰も入って来ないように」と頼むと入口の扉を閉めた。そして“静寂の魔道具”を起動させる。
そこでようやく、バートのマントから、小さな妖精のベンジャミンが姿を見せたのだった。
「皆さまお揃いのようですね。バート、貴方はレブラン教授のことはご存知でしょうから、教授のご紹介を省かせていただきます。レブラン教授、こちらはバートです。バーナード騎士団長と縁のある者です」
その紹介の言葉に、バートの傍らのマグルの目がやや開かれて、小さな妖精ベンジャミンを見つめる。
(バーナード騎士団長と縁のある者じゃなくて、バーナード自身なんだけど。どういうことだよ)
とマグルは内心思っていたのだが、元から勘の良いマグルであったから、何かベンジャミンがそう説明をする事にも理由があるのだろうと、そこには突っ込まずに口を噤んでいる。そして運ばれてきたサラダをムシャムシャと口にしていた。
「バーナード騎士団長には何度か、お会いしている」
直接会ったのは、アルセウス王国の国宝“黒の指輪”の修理のために王宮を訪問した際の送別会の時と、隣国に大型魔獣が出没し、その討伐のために派遣された時である。あの時には、バーナードの持つ魔剣をレブラン教授が執拗に欲して、断ったこともあった。
それから直接会うことはなかったが、その後に目の前のこの女吸血鬼と大男を、刺客として遣わされて一戦を交えた。
正直いい思い出はなく、度々散々な目に遭っているとしか言えない。
バートが不機嫌になっていることも、レブランは理解できていた。
まさか、あのバーナード騎士団長の血縁に、“淫魔の王女”がいるとは思ってもみなかったからだ。
「ああ、父上がとても世話になっていたようだ」
バートは、レブランの誤解を解くつもりはなかった。
こいつが、目の前の自分を、バーナード騎士団長の隠し子だと思っているのなら、そう思ったままでいい。その誤解を解いてやる親切を施すつもりは毛頭なかった。
「とても世話になっていた」という言葉の、奥に潜まれた嫌味を感じ取れないほど鈍感ではない、レブランやネリア達である。ネリアに至ってはバツの悪そうな顔をしていた。
「誤解から、バーナード騎士団長を大変な目に遭わせてしまった。申し訳ない」
レブランがするりとその唇から、詫びの言葉を口にした。
バートは、皿に盛られた小さなトマトを、銀色のフォークでグサリと突き刺した。
「もう詫びる必要はない」
少年は淡々と言う。
「それは、謝罪を受け入れるという話か」
その問いかけに、少年はキッパリと言った。
「ご隠居様の顔を立てて、謝罪は受け入れてやる。だが、それだけだ。俺が言いたいのは、もう二度と、俺達に関わるな。お前も、そこの女吸血鬼も大男も、二度と現れるなと言うことだ」
「バート」
慌てて少年の服を強く引いて、頭を振るマグル。言い過ぎだった。
このまますんなりと会合を終らせてしまえばいいのに、余計な事を口にしていると思ったのだ。
だが、バートとしては、一言くらいこの吸血鬼の男に文句を言っておきたかった。
「これが最初で最後の機会だから、ハッキリ言っておく。俺はお前のような男が嫌いだ。自分で手を下さず、常に配下を遣わせて済まそうとする。非常に力ある吸血鬼だという話だが、高見からそんなに見ていることが楽しいのか」
「無礼な」
ネリアが目を釣り上げてバートに言うのを、レブランはそれを手で制した。
「私は、君と仲違いをするつもりはない。君とはこれから、できるだけ友好な関係を保っていきたいと考えている」
「何故?」
「それを私に問うのか? それは君が」
「お二方とも、言い合いはおやめください」
そこに小さな妖精のベンジャミンが会話を割って入ってきた。
「ご隠居様は、お二方の和解を求めて、この席を設けるように私にお命じになったのです。それがこんな言い争いをするとは思ってもみませんでした」
「………………」
バートはチラリと小さな妖精を見て、それからため息をついた。
「分かった。先にも言ったが、和解は受け入れる。それ以上はない」
そこに、今まで口を噤んでいたゼトゥが初めて、口を開いて言ったのだった。
「和解を受け入れないと、お前の父親がまた、負けてしまうからだろう」
その言葉は何故か、部屋の隅々まで響き渡った。ネリアは蒼白となって凍りつき、レブランでさえもやや呆気にとられて、日頃無口な自分の護衛の男を見ていた。
ゼトゥはゼトゥで、自分の主であるレブランを愚弄されたことを許すつもりはなかった。
そしてバートの隣のマグルに至っては倒れそうな表情になっている。
マグルにはこの後の展開が、読めたのだ。
バートが、自分に対する無礼を許すつもりはないことを。
「なんだって、もう一度言ってみろ」
底冷えするような声で、少年は言った。
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