騎士団長が大変です

曙なつき

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第二十六章 騎士団長の長い一日

第五話 魔術会議初日の講演会

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 そして、魔術会議が開催されるネイザーランドへ、王宮副魔術師長マグルと、少年バートにその姿を変えたバーナード騎士団長、そして小さな妖精のベンジャミンは連れ立って旅立ったのだった。
 旅立ったと言っても、転移魔法陣を使用しての移動であるため、一瞬である。
 魔術会議開催時期の転移魔法陣の使用料金は、需要の過多から恐ろしい価格に跳ね上がっていたが、王立騎士団の騎士団長という地位にあるバーナードにとっては痛くも痒くもないようで、その支払いを平然としている少年に向かって、マグルは「僕の懐はすごく痛いんだけどね」とぶつぶつと言っていた。
 その日、マグルは魔術師らしく黒に近い濃紺のロープを深く羽織り、首元には王国の紋章の刻まれた魔術師のメダルを下げている。ネイザーランドの首都で開かれるその会議に出席するため、多くの魔術師達が半島を中心に大陸中からやってくるため、マグルと同じようにロープを羽織った人々が多い。バート少年はそんな魔術師達の中で、マントにズボンといういで立ちであった。腰には剣を佩いている。そして彼のマントの中には、小さな妖精のベンジャミンがその身を潜めている。
 時折、ベンジャミンはマントの裾から銀色の顔を覗かせて、興味深そうにあたりを眺めていた。

 マグルはこの開会の日から五日間、魔術会議に参加するという。
 バートは日帰り予定である。レブラン教授に会ったその日に、この場所を去る。
 王国ではフィリップが心配して待っているため、彼を安心させるためといってもよい。

 開会式を見るつもりはなかったため、その後の講演会の会場に直接向かうマグルとバートであった。
 ネイザーランドの大学の講堂でそれは開かれる予定で、マグルは最前列のプレミアチケットを手にしており、見るからにニマニマとした顔をしている。そして会場で上司たる王宮魔術師長の姿を見つけ、バートに言った。

「じゃあ、僕達は前の席に行くからね。バートは後ろだけど、いいんだよね」

「ああ。そのつもりで交換したんだ。講演会が終わったら、出口のところで落ち合おう」

「分かった」

 マグルは片手を振り、王宮魔術師長のところへ駆け寄っていく。
 バートのマントに潜んでいるベンジャミンは、小さな声でバートに尋ねた。

「バーナード騎士団長のチケットは最前列でしたよね。……交換なさったんですか」

 わざわざ気を遣ってレブラン教授が手配したチケットである。それを交換していることに、ベンジャミンは少し呆れ顔をしていた。
 レブラン教授のことが気に食わないことは感じていたが、その反抗が子供っぽかったのだ。
 といっても、今のバートの姿は少年であり、子供と言っても良い。
 実際、バートはムスッとした顔で言った。

「最前列で、レブランの顔を見ながら講演を聞くなんてムカムカしてくる。あいつは何度も俺に刺客を放ったんだぞ。フィリップの屋敷も壊しやがって」

「………………今回は和解のために設けた場所です。頭にきたからと言って、台無しにするような態度は控えて下さいね」

「分かっている。会合の時はちゃんとする」

 そう言って、バートはやや後ろの座席に腕を組んで座った。



 やがて座席が観客で埋まっていく。
 人気の高い教授の講演であるために、全ての座席が売れていた。多くの人々が、席について、プログラムを手にざわめいている。
 やがて司会の若い男性が舞台袖から現れ、拡声の魔道具を使って話し始めた。
 これからの講演会のスケジュールを話し、やがて拍手と共に、最初の講演者が現れる。
 レブラン教授だった。

 背の高い、銀髪を撫でつけた、美男子と言っても良いその男が入ってくると、会場の視線は一気に彼の集まっていた。レブランは視線を前の座席にやる。
 チケットを贈った席に目を遣り、一瞬だけその目をすがめていた。
 そこにいたのは、老年の王宮魔術師長と、小柄な男の王宮副魔術師長である。
 彼らは違うと思ったのか、視線が会場中を見回した。
 そしてすぐに、バートを見つけたのだ。

 その視線と視線がぶつかり、それからレブランは何食わぬ顔で講演を始めたのだった。

 バートは小声で、マントの下の小さな妖精に話しかけた。

「……あいつと目が合った」

「バート、貴方の魔力量は普通ではありません。分かる者には分かるでしょう。貴方に力があることに」

 妖精のベンジャミンは続けた。

「魔術会議に出席する魔術師の中でも、貴方に目を付ける者もいるでしょう。貴方は自分の安全に気を配らなければなりません」

「分かった」

 バートは深くため息をつき、油断をしないようにそっと手は剣の柄にいつでも伸ばせるようにしていたのだった。
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