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第二十六章 騎士団長の長い一日
第一話 吸血鬼の求めと、画策する大妖精
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吸血鬼であるレブラン教授が、白い宝珠“神の欠片”を収集していることは、かねてから魔界でもよく知られていた。特に悪魔族は彼の考えに賛同して、悪魔達が手にした白い宝珠は彼に差し出すようにしていた。
悪魔達は、高位淫魔の、霊樹に子を実らせる力を利用して、その器に“神の欠片”を注ぎ込もうなど、よくもそのようなことを考えつくものだとレブラン教授の発想に感心すらしていた。
実際、レブラン教授の元には、非常に麗しい淫魔の青年がおり、その者が“淫魔の王女”位を得た後は、器に“神の欠片”を注いで、神を実らせようとしていた。
悪魔族の中には協力の見返りに、生まれ落ちる果実の父親を悪魔にするように求め、レブランはそれに同意した。その計画を興じる悪魔達も多く、レブラン教授の手元には悪魔達の手を介して、白い宝珠の多くが集まっていた。
だが、今やその計画が大きく変わろうとしていた。
妖精族の介入である。
妖精の王族に、“ご隠居様”と呼ばれ、敬愛される大妖精がいる。
その大妖精が、注ぐべく器を手に入れ、そして妖精達を通じて多くの白い宝珠を集めていた。
器に白い宝珠“神の欠片”を注ぐことで、神の復活を執り行うという、その目的は一致した。
だから、レブランも妖精達に協力することにした。
しかし、今までレブランの“神でありながらも悪魔であるものを創る”という考えに賛同していた悪魔達にとっては、それは裏切りに等しい行為であった。そのことをレブランも理解していた。
だからこそ、他の誰にも、妖精達と共に、器に“神の欠片”を注いでいることは隠しておかなければならない。もし悪魔達に知られてしまえば、気分を害した彼らは、その器を壊そうとするに違いなかった。
それは絶対に、避けなければならないことだった。
レブランは、大妖精たる老人に、こう頼んだ。
「これからも、私の元に集まる白い宝珠を、器に注げるように手助けを致しましょう。その器たる者に一度、会わせて頂けませんか」
本当に、妖精達の手の中に、器を持つ高位淫魔がいるのか確認しなければならなかった。
白い宝珠を手に入れるために一芝居打っている可能性がないわけではない。だが、そのようなことをしてまで吸血鬼族の自分をだますようなことはしないだろう。更には、大妖精たる目の前の老人の人となりを、レブランは知っていた。
この大妖精も、喪われた神のことを、大切に思っていた者であった。
その点では、二人の考えは一致していたのだ。
一度器たる者に会いたいというレブランの言葉に、大妖精は首を振った。
「レブラン殿が接触するとなると、他の魔族に勘付かれる可能性がある。できるだけ、他人には知られないように取り計らいたいのじゃ。分かるであろう」
そう、その懸念は理解できる。
過去、喪われたその神は、誰からも強く求められるような存在であった。結果的にそれで壊されてしまった感がある。もし、再びその神が蘇りつつあることを知られれば、再び争いが起こる可能性が高い。
以前には、魔族の多くを神々が滅するまでの大きな戦いになってしまったのだから。
「分かっています。ですが、確認をさせて頂きたい」
大妖精もまた、レブランの言葉を当然だとも感じていた。協力をすると言っているのだから、少しは情報を寄越せと言うのだろう。器も分からぬ中で、貴重な白い宝珠を差し出し続ける話はない。
大妖精は小さく息をついた。
それでも、器を持つ身であるバーナード騎士団長の名を、そのまま告げる気にはならなかった。
レブランという名のこの高位吸血鬼は、その名を聞いてどう思うだろうか。
自分が二度、三度と刺客を送りつけた男が、高位の淫魔で、大切に護るべき器だと知ったのなら……。
それを教えて驚かせてやりたい気持ちも勿論あったのだが、理性で留めた。
「アルセウス王国にいる。そうさのう……」
大妖精は一計を案じた。
「今度、人の国では魔術会議という大きな会議が開かれる。その時にでも、少し会えるように取り計ろう。人の多い会議じゃ。そこでなら、レブラン殿と器が接触しても、バレることはなさそうじゃ」
もったいぶった口調に、少しばかり苛立ちをレブランは感じたのだが、そこはぐっと我慢するしかなかった。
とにもかくにも、一度、その器に会えるというのだ。
そのことで満足するしかなかった。
悪魔達は、高位淫魔の、霊樹に子を実らせる力を利用して、その器に“神の欠片”を注ぎ込もうなど、よくもそのようなことを考えつくものだとレブラン教授の発想に感心すらしていた。
実際、レブラン教授の元には、非常に麗しい淫魔の青年がおり、その者が“淫魔の王女”位を得た後は、器に“神の欠片”を注いで、神を実らせようとしていた。
悪魔族の中には協力の見返りに、生まれ落ちる果実の父親を悪魔にするように求め、レブランはそれに同意した。その計画を興じる悪魔達も多く、レブラン教授の手元には悪魔達の手を介して、白い宝珠の多くが集まっていた。
だが、今やその計画が大きく変わろうとしていた。
妖精族の介入である。
妖精の王族に、“ご隠居様”と呼ばれ、敬愛される大妖精がいる。
その大妖精が、注ぐべく器を手に入れ、そして妖精達を通じて多くの白い宝珠を集めていた。
器に白い宝珠“神の欠片”を注ぐことで、神の復活を執り行うという、その目的は一致した。
だから、レブランも妖精達に協力することにした。
しかし、今までレブランの“神でありながらも悪魔であるものを創る”という考えに賛同していた悪魔達にとっては、それは裏切りに等しい行為であった。そのことをレブランも理解していた。
だからこそ、他の誰にも、妖精達と共に、器に“神の欠片”を注いでいることは隠しておかなければならない。もし悪魔達に知られてしまえば、気分を害した彼らは、その器を壊そうとするに違いなかった。
それは絶対に、避けなければならないことだった。
レブランは、大妖精たる老人に、こう頼んだ。
「これからも、私の元に集まる白い宝珠を、器に注げるように手助けを致しましょう。その器たる者に一度、会わせて頂けませんか」
本当に、妖精達の手の中に、器を持つ高位淫魔がいるのか確認しなければならなかった。
白い宝珠を手に入れるために一芝居打っている可能性がないわけではない。だが、そのようなことをしてまで吸血鬼族の自分をだますようなことはしないだろう。更には、大妖精たる目の前の老人の人となりを、レブランは知っていた。
この大妖精も、喪われた神のことを、大切に思っていた者であった。
その点では、二人の考えは一致していたのだ。
一度器たる者に会いたいというレブランの言葉に、大妖精は首を振った。
「レブラン殿が接触するとなると、他の魔族に勘付かれる可能性がある。できるだけ、他人には知られないように取り計らいたいのじゃ。分かるであろう」
そう、その懸念は理解できる。
過去、喪われたその神は、誰からも強く求められるような存在であった。結果的にそれで壊されてしまった感がある。もし、再びその神が蘇りつつあることを知られれば、再び争いが起こる可能性が高い。
以前には、魔族の多くを神々が滅するまでの大きな戦いになってしまったのだから。
「分かっています。ですが、確認をさせて頂きたい」
大妖精もまた、レブランの言葉を当然だとも感じていた。協力をすると言っているのだから、少しは情報を寄越せと言うのだろう。器も分からぬ中で、貴重な白い宝珠を差し出し続ける話はない。
大妖精は小さく息をついた。
それでも、器を持つ身であるバーナード騎士団長の名を、そのまま告げる気にはならなかった。
レブランという名のこの高位吸血鬼は、その名を聞いてどう思うだろうか。
自分が二度、三度と刺客を送りつけた男が、高位の淫魔で、大切に護るべき器だと知ったのなら……。
それを教えて驚かせてやりたい気持ちも勿論あったのだが、理性で留めた。
「アルセウス王国にいる。そうさのう……」
大妖精は一計を案じた。
「今度、人の国では魔術会議という大きな会議が開かれる。その時にでも、少し会えるように取り計ろう。人の多い会議じゃ。そこでなら、レブラン殿と器が接触しても、バレることはなさそうじゃ」
もったいぶった口調に、少しばかり苛立ちをレブランは感じたのだが、そこはぐっと我慢するしかなかった。
とにもかくにも、一度、その器に会えるというのだ。
そのことで満足するしかなかった。
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