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第二十五章 小さな妖精の罪ほろぼしと王太子の沈黙
第五話 お遣い妖精と王太子殿下の会話(下)
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ベンジャミンの問いかけに、王太子は碧い目を細めて小さな妖精を見つめた。
白い手を口元に当て、考え込んでいる。
その様子は、ベンジャミンが何故そのことを知っているのだろうと窺うような様子であった。
王太子の警戒している様子に、ベンジャミンは説明した。
「先日、バーナード騎士団長を妖精の国の春祭りにお招きした際、妖精の国の霊樹を騎士団長はご覧になられたのです。その際に、人の国の霊樹の話が出て、“王家の庭”にお入りになったことがある旨、聞きました。人の国の霊樹は、“王家の庭”に囲まれているが故に、許された者しか入れぬことは私どもも理解しております。そのために不思議に思っておりました」
「………バーナードは、私に忠誠を誓う、特別な騎士だ」
王太子は静かにそう告げる。
「だから、彼は“王家の庭”に入ることが出来る。それだけだ」
それ以上、エドワード王太子は小さな妖精に語ることはなかった。問いかけるなというように、口を噤んでしまっている。
ただ、その碧い瞳は昏く輝いて見えた。
その様子に、ベンジャミンは察した。
(この王太子にとって、バーナード騎士団長は特別な存在なのだな)
それを、“忠誠を誓う、特別な騎士”だという表現で表している。
バーナード騎士団長自身は“王家の庭”に自分が入れることに戸惑っていた。それを見るに、この王太子が何かでもって、彼を“王家の庭”に入れるように取り計っているのだろう。
だが、その目的は何であろう。
これ以上王太子が何か教えてくれる様子はなかったために、ベンジャミンは一礼して彼の前から退出した。
そしてまた、その翅で“王家の庭”の霊樹の元へ飛んで行く。
霊樹のそばにいる妖精達は、ベンジャミンを見てビクリと震えていた。
こっぴどく二人の妖精が叱られた話を聞いているのだろう。おどおどとしている様子を見ながら、ベンジャミンは彼らに尋ねた。
「バーナード騎士団長がこの“王家の庭”に来たのを見たことがある?」
だが、騎士団長の名で尋ねても、妖精達は首を傾げている。
「誰?」
「誰?」
「バーナード?」
「知らない」
「どんな人なの?」
妖精達は皆、不思議そうな顔で尋ね返してくる。
「背の高い黒髪の騎士だ」
そうベンジャミンが説明しても、ピンと来ていない様子だった。
そこでベンジャミンは質問を変えた。
「霊樹のそばで、人の子の王子と一緒にいた人間を見たことがある? 誰と一緒にいたか覚えている?」
その言葉に、小さな妖精達は一斉に頷いた。
「黒髪の男の子を連れて来た」
「白い服を来た男の子だった」
「王子が大切に連れてきた」
「イチャイチャして、怒られていた」
妖精達の言葉に、ベンジャミンは考え込む。
「黒髪の男の子?」
妖精の一人が叫ぶように言った。
「そう、名前はバートという、お妃様だよ!!」
白い手を口元に当て、考え込んでいる。
その様子は、ベンジャミンが何故そのことを知っているのだろうと窺うような様子であった。
王太子の警戒している様子に、ベンジャミンは説明した。
「先日、バーナード騎士団長を妖精の国の春祭りにお招きした際、妖精の国の霊樹を騎士団長はご覧になられたのです。その際に、人の国の霊樹の話が出て、“王家の庭”にお入りになったことがある旨、聞きました。人の国の霊樹は、“王家の庭”に囲まれているが故に、許された者しか入れぬことは私どもも理解しております。そのために不思議に思っておりました」
「………バーナードは、私に忠誠を誓う、特別な騎士だ」
王太子は静かにそう告げる。
「だから、彼は“王家の庭”に入ることが出来る。それだけだ」
それ以上、エドワード王太子は小さな妖精に語ることはなかった。問いかけるなというように、口を噤んでしまっている。
ただ、その碧い瞳は昏く輝いて見えた。
その様子に、ベンジャミンは察した。
(この王太子にとって、バーナード騎士団長は特別な存在なのだな)
それを、“忠誠を誓う、特別な騎士”だという表現で表している。
バーナード騎士団長自身は“王家の庭”に自分が入れることに戸惑っていた。それを見るに、この王太子が何かでもって、彼を“王家の庭”に入れるように取り計っているのだろう。
だが、その目的は何であろう。
これ以上王太子が何か教えてくれる様子はなかったために、ベンジャミンは一礼して彼の前から退出した。
そしてまた、その翅で“王家の庭”の霊樹の元へ飛んで行く。
霊樹のそばにいる妖精達は、ベンジャミンを見てビクリと震えていた。
こっぴどく二人の妖精が叱られた話を聞いているのだろう。おどおどとしている様子を見ながら、ベンジャミンは彼らに尋ねた。
「バーナード騎士団長がこの“王家の庭”に来たのを見たことがある?」
だが、騎士団長の名で尋ねても、妖精達は首を傾げている。
「誰?」
「誰?」
「バーナード?」
「知らない」
「どんな人なの?」
妖精達は皆、不思議そうな顔で尋ね返してくる。
「背の高い黒髪の騎士だ」
そうベンジャミンが説明しても、ピンと来ていない様子だった。
そこでベンジャミンは質問を変えた。
「霊樹のそばで、人の子の王子と一緒にいた人間を見たことがある? 誰と一緒にいたか覚えている?」
その言葉に、小さな妖精達は一斉に頷いた。
「黒髪の男の子を連れて来た」
「白い服を来た男の子だった」
「王子が大切に連れてきた」
「イチャイチャして、怒られていた」
妖精達の言葉に、ベンジャミンは考え込む。
「黒髪の男の子?」
妖精の一人が叫ぶように言った。
「そう、名前はバートという、お妃様だよ!!」
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