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【短編】
騎士団長と金色の仔犬 ~盗賊団捕縛の件~ (3)
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王立騎士団のバーナード騎士団長の元に探索の能力に優れた仔犬がいることは、この盗賊団の事件の解決によって知れ渡ることになった。
国王陛下直々に、王立騎士団のバーナード騎士団長には褒美が遣わされ、かつ仔犬に対しても報奨金の一部が支払われた。
バーナード騎士団長は鼻高々である。
あまりにも、鼻高々な様子に、フィリップ副騎士団長が金色の仔犬であることを知るマグル王宮副魔術師長など「フィリップはもう仔犬の方がいいんじゃないか。国王の覚えもいいし」と言っている。
憤慨したように吠える金色の仔犬を、なだめるようにバーナード騎士団長は撫でていた。
今、二人と一匹は王宮の中のマグル王宮副魔術師長の部屋にいる。
“静寂の魔道具”を起動させているため、気兼ねなく話をしていた。
「気にするな。お前の能力をやっかんでいるだけだ」
仔犬はクゥンと甘えるように鳴いて、バーナード騎士団長の指を舐めている。
そんな仔犬と騎士団長の有様を、マグルは呆れたように見ていた。
「フィリップが仔犬状態でも、お前らは熱々だな……」
「可愛いだろう。皆にも褒められて俺も嬉しいし、陛下にも褒められて、俺はフィリップ(仔犬)を大いに誇りに思っているぞ」
「まぁ、今回の盗賊団の事件も、フィリップ(仔犬)がいたから、サクッと解決できたね。アジトまで案内できるなんて、さすが犬の嗅覚だと思うよ」
その言葉に、金色の仔犬は不機嫌そうにグルグルと唸っている。
慌ててバーナードが仔犬の頭を撫でてその機嫌を直そうとしていた。
「なんでフィリップは怒っているんだ?」
理由が分からないマグルが尋ねると、バーナード騎士団長は小さく笑いながら言った。
「こいつは犬じゃない。狼だからな。犬扱いされると怒る」
「…………」
まるっきり今の外見は、飼いならされた可愛い仔犬であるのに、そんなプライドがあるのかと驚いている。
バーナード騎士団長は、用意していたらしい最上級のジャーキーを、紙袋から取り出して仔犬の前に差し出すと、仔犬はハグハグと一生懸命に噛んだ。
その様子を、目を細めてバーナード騎士団長が眺めている。
一人と一匹のどこかのどかな、どこか幸せそうな様子に、マグルはまた何とも言えない表情をしていた。
マグルは先ほどの、金色の仔犬を連れて王宮にバーナード騎士団長が現れた時のことを思い出す。
陛下が、真紅の絨毯の上に片膝をついているバーナード騎士団長以下の王立騎士団の騎士達や、警備隊隊長以下の警備隊員、そしてマグル王宮副魔術師長や近衛騎士団に褒美を遣わせる時、仔犬は小さなカゴの中で大人しく座っていた。
その従順さ、愛らしさに、同席していた高位貴族達は「なんて賢い仔犬なんだ」「それにとても可愛い」と絶賛している。
フィリップ(仔犬)が賛辞されていることに、傍らのバーナード騎士団長がキリリとした様子を保ちながらも、面映ゆい思いでいることをマグルは察していた。
こいつ、内心では絶対に「俺のフィリップ(仔犬)は世界一可愛くて賢いからな!!」と思っているに違いないとマグルは考えていた。事実そうであった。完全な仔犬馬鹿である。
そしてそんなバーナード騎士団長を、国王陛下の傍らに立つエドワード王太子がじっと見つめている。そのことに気が付いたらしい仔犬はカゴの中でグルグルグルグルと唸り始めていた。
(どんな修羅場なんだよ……)
エドワード王太子、バーナード騎士団長、そして金色の仔犬の三角関係に思いを馳せ、マグル王宮副魔術師長は遠い目をする。
その時は、何事もなくバーナードは、陛下からの報奨金を受け取り、玉座前を後にしたが、気を付けていないとフィリップ(仔犬)は、エドワード王太子に吠え立て、噛みつく未来しか思い浮かばない。
もちろん、王太子のそばには優れた護衛の騎士達が控えているから、仔犬がやすやすと王太子に噛みつくことはできないだろうが。
(だが、フィリップはきっとバーナードのそばをうろちょろする殿下を噛みつき追い立てたくて仕方ないんだろうな)
マグルはチロリと金色の仔犬を見つめる。
金色の仔犬は甘えるように鳴いて、再び最上級のジャーキーをおねだりしている。
これはバーナード騎士団長が、わざわざ王都の肉屋に特別いい肉を使って作ってもらったという特製のジャーキーであった。
金に糸目をつけずに作ったというそれは、人が食べても本当に美味しくて、マグルなど摘まみ食いをさせてもらった時に「バーナード、うちの分も分けてくれないか」と思わず口に出してしまったくらいだ(もちろん、その時にも金色の仔犬から唸られていた。バーナードは気前が良く、袋一杯のジャーキーをマグルにも分けてくれた)。
「お前はバーナードに愛されているな」
そう金色の仔犬に話しかけると、金色の仔犬は青く美しい瞳を向け、ワンと吠えた。
「だから絶対にバーナードのそばを離れるなよ」
王宮は魔窟のようなものだ。
どこで、彼を絡めとろうとしている手があるのか分からない。
でもきっと、この金色の仔犬が騎士団長を守ってくれるだろう。
そうマグルは信じていた。
この件を機に、貴族達の間で、仔犬を飼う一大ブームが起きることになった。
それはまた別の話である。
国王陛下直々に、王立騎士団のバーナード騎士団長には褒美が遣わされ、かつ仔犬に対しても報奨金の一部が支払われた。
バーナード騎士団長は鼻高々である。
あまりにも、鼻高々な様子に、フィリップ副騎士団長が金色の仔犬であることを知るマグル王宮副魔術師長など「フィリップはもう仔犬の方がいいんじゃないか。国王の覚えもいいし」と言っている。
憤慨したように吠える金色の仔犬を、なだめるようにバーナード騎士団長は撫でていた。
今、二人と一匹は王宮の中のマグル王宮副魔術師長の部屋にいる。
“静寂の魔道具”を起動させているため、気兼ねなく話をしていた。
「気にするな。お前の能力をやっかんでいるだけだ」
仔犬はクゥンと甘えるように鳴いて、バーナード騎士団長の指を舐めている。
そんな仔犬と騎士団長の有様を、マグルは呆れたように見ていた。
「フィリップが仔犬状態でも、お前らは熱々だな……」
「可愛いだろう。皆にも褒められて俺も嬉しいし、陛下にも褒められて、俺はフィリップ(仔犬)を大いに誇りに思っているぞ」
「まぁ、今回の盗賊団の事件も、フィリップ(仔犬)がいたから、サクッと解決できたね。アジトまで案内できるなんて、さすが犬の嗅覚だと思うよ」
その言葉に、金色の仔犬は不機嫌そうにグルグルと唸っている。
慌ててバーナードが仔犬の頭を撫でてその機嫌を直そうとしていた。
「なんでフィリップは怒っているんだ?」
理由が分からないマグルが尋ねると、バーナード騎士団長は小さく笑いながら言った。
「こいつは犬じゃない。狼だからな。犬扱いされると怒る」
「…………」
まるっきり今の外見は、飼いならされた可愛い仔犬であるのに、そんなプライドがあるのかと驚いている。
バーナード騎士団長は、用意していたらしい最上級のジャーキーを、紙袋から取り出して仔犬の前に差し出すと、仔犬はハグハグと一生懸命に噛んだ。
その様子を、目を細めてバーナード騎士団長が眺めている。
一人と一匹のどこかのどかな、どこか幸せそうな様子に、マグルはまた何とも言えない表情をしていた。
マグルは先ほどの、金色の仔犬を連れて王宮にバーナード騎士団長が現れた時のことを思い出す。
陛下が、真紅の絨毯の上に片膝をついているバーナード騎士団長以下の王立騎士団の騎士達や、警備隊隊長以下の警備隊員、そしてマグル王宮副魔術師長や近衛騎士団に褒美を遣わせる時、仔犬は小さなカゴの中で大人しく座っていた。
その従順さ、愛らしさに、同席していた高位貴族達は「なんて賢い仔犬なんだ」「それにとても可愛い」と絶賛している。
フィリップ(仔犬)が賛辞されていることに、傍らのバーナード騎士団長がキリリとした様子を保ちながらも、面映ゆい思いでいることをマグルは察していた。
こいつ、内心では絶対に「俺のフィリップ(仔犬)は世界一可愛くて賢いからな!!」と思っているに違いないとマグルは考えていた。事実そうであった。完全な仔犬馬鹿である。
そしてそんなバーナード騎士団長を、国王陛下の傍らに立つエドワード王太子がじっと見つめている。そのことに気が付いたらしい仔犬はカゴの中でグルグルグルグルと唸り始めていた。
(どんな修羅場なんだよ……)
エドワード王太子、バーナード騎士団長、そして金色の仔犬の三角関係に思いを馳せ、マグル王宮副魔術師長は遠い目をする。
その時は、何事もなくバーナードは、陛下からの報奨金を受け取り、玉座前を後にしたが、気を付けていないとフィリップ(仔犬)は、エドワード王太子に吠え立て、噛みつく未来しか思い浮かばない。
もちろん、王太子のそばには優れた護衛の騎士達が控えているから、仔犬がやすやすと王太子に噛みつくことはできないだろうが。
(だが、フィリップはきっとバーナードのそばをうろちょろする殿下を噛みつき追い立てたくて仕方ないんだろうな)
マグルはチロリと金色の仔犬を見つめる。
金色の仔犬は甘えるように鳴いて、再び最上級のジャーキーをおねだりしている。
これはバーナード騎士団長が、わざわざ王都の肉屋に特別いい肉を使って作ってもらったという特製のジャーキーであった。
金に糸目をつけずに作ったというそれは、人が食べても本当に美味しくて、マグルなど摘まみ食いをさせてもらった時に「バーナード、うちの分も分けてくれないか」と思わず口に出してしまったくらいだ(もちろん、その時にも金色の仔犬から唸られていた。バーナードは気前が良く、袋一杯のジャーキーをマグルにも分けてくれた)。
「お前はバーナードに愛されているな」
そう金色の仔犬に話しかけると、金色の仔犬は青く美しい瞳を向け、ワンと吠えた。
「だから絶対にバーナードのそばを離れるなよ」
王宮は魔窟のようなものだ。
どこで、彼を絡めとろうとしている手があるのか分からない。
でもきっと、この金色の仔犬が騎士団長を守ってくれるだろう。
そうマグルは信じていた。
この件を機に、貴族達の間で、仔犬を飼う一大ブームが起きることになった。
それはまた別の話である。
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