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【短編】
屋敷は工事に入ります (上)
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レブラン教授に送り込まれた刺客によって、フィリップの屋敷の一階の庭に面した壁が崩壊した。
大男の刺客は、巨大な戦斧を投げ込み、外壁は勿論のこと、一階居間の反対側の壁まで戦斧を突き刺して壊している。更にはその居間の中で、バーナード騎士団長と激しく戦闘を繰り返したものだから、床板は勿論のこと、ソファやテーブルといった家具まで破壊し尽くしている。
妖精達の介入で、一時停戦となった。
その後、ご隠居様に仕える小さな妖精ベンジャミンが報告にやって来たところ、ご隠居様の仲介でまたしても「バーナード騎士団長には手出し無用」との結論が出たらしい。
バーナード騎士団長としては「俺にかけられていた、妖精達を使って白い宝珠を集めているという嫌疑はどうなったんだ」と申し立てたいところであったが、思い立ったがすぐに刺客を送ってくるような吸血鬼との関わりを一切持ちたくない気持ちで一杯だった。
とりあえず、再び、彼らはバーナード騎士団長に手出しをすることは無くなったというのだ。
そのことについては、ベンジャミンが「もう絶対に、貴方様をレブラン教授が襲うことはありません」と絶対の保証を口にしていたが、一度約束を破った吸血鬼の男である。信用ならなかった。
非常に不愉快であったが、今回の襲撃で、バーナードもフィリップも怪我一つしていない。フィリップの屋敷は悲惨な有様だが、怪我がなかったことを幸運と思って、屋敷の被害は甘んじて受け入れるしかなかった。
大工達の話によれば、建物の修繕にはどんなに急いでも一週間ほどかかると言う。
バーナードは、修繕費を一括で支払い、更にはその間、フィリップが宿泊する宿の予約も済ませた。
恐縮するフィリップに、バーナードは微笑みながら言った。
「お前は俺の伴侶なんだから当然だ。こういう時こそ、甘えてくれ」
フィリップは、バーナード騎士団長のその台詞に、こんな時でありながらも、胸を高鳴らせてしまった。
なんて男らしい、格好いい人なのだろうと。
ただ、唖然としてしまったのが、バーナード騎士団長が手配した宿は、王都の中でも最上級と評される部類の宿で、更にはいわゆるVIPルームと言われる豪華な部屋を借りていたことだった。
「……こんな、すごい部屋」
思わずその部屋に入った途端、フィリップは小さく呟いてしまった。
宿泊初日に、バーナード騎士団長は、荷物を運ぶのを手伝うと言って、ついて来てくれた。
広々とした部屋には家具が備え付けられていて、バーナードは早速、荷物を解いて衣類を詰めている。
「とりあえず、一週間部屋を押さえている。工事が長引けば、宿泊を延長する話も宿の方には話をしている」
「私だけが泊まるために、こんないい部屋を押さえる必要はないです。今からでも、ランクを下げた部屋にしましょう」
「お前にふさわしい部屋を用意したのがいけないのか。お前は俺の伴侶だ。これは贅沢でも何でもない」
その言葉に、フィリップはぐっと言葉に詰まる。
そう、この目の前の男は王国の王立騎士団の騎士団長の地位にある。王都最上級の宿の最上の部屋に泊ったとしても、おかしな話ではない。
日頃、彼がフィリップの屋敷で、質素に暮らしているから、それを勘違いしそうになる。
本当の彼は、最上の品々に囲まれる贅沢な生活こそがふさわしいのだから。
「はい」
「不満か」
「いえ、その、慣れていないため戸惑っているのです」
「慣れろ」
「はい」
どこか戸惑った表情の副騎士団長の顎を持ち上げ、バーナードは口づけした。日頃の苦労を労わるような柔らかくも優しい口付けだった。
「せっかくの宿泊なのだから、楽しんで泊まってくれ」
「貴方は、一緒に泊まってくれないのでしょうか」
どこか不安そうな眼差しで、バーナード騎士団長を見つめるフィリップ。
その視線に、バーナードは弱かった。
「分かった。今日は一緒に泊まろう」
バーナードの言葉に、フィリップは一瞬で表情を明るくさせ、いそいそと彼の上着を受け取る。とても嬉しそうだった。
「有難うございます、バーナード」
大男の刺客は、巨大な戦斧を投げ込み、外壁は勿論のこと、一階居間の反対側の壁まで戦斧を突き刺して壊している。更にはその居間の中で、バーナード騎士団長と激しく戦闘を繰り返したものだから、床板は勿論のこと、ソファやテーブルといった家具まで破壊し尽くしている。
妖精達の介入で、一時停戦となった。
その後、ご隠居様に仕える小さな妖精ベンジャミンが報告にやって来たところ、ご隠居様の仲介でまたしても「バーナード騎士団長には手出し無用」との結論が出たらしい。
バーナード騎士団長としては「俺にかけられていた、妖精達を使って白い宝珠を集めているという嫌疑はどうなったんだ」と申し立てたいところであったが、思い立ったがすぐに刺客を送ってくるような吸血鬼との関わりを一切持ちたくない気持ちで一杯だった。
とりあえず、再び、彼らはバーナード騎士団長に手出しをすることは無くなったというのだ。
そのことについては、ベンジャミンが「もう絶対に、貴方様をレブラン教授が襲うことはありません」と絶対の保証を口にしていたが、一度約束を破った吸血鬼の男である。信用ならなかった。
非常に不愉快であったが、今回の襲撃で、バーナードもフィリップも怪我一つしていない。フィリップの屋敷は悲惨な有様だが、怪我がなかったことを幸運と思って、屋敷の被害は甘んじて受け入れるしかなかった。
大工達の話によれば、建物の修繕にはどんなに急いでも一週間ほどかかると言う。
バーナードは、修繕費を一括で支払い、更にはその間、フィリップが宿泊する宿の予約も済ませた。
恐縮するフィリップに、バーナードは微笑みながら言った。
「お前は俺の伴侶なんだから当然だ。こういう時こそ、甘えてくれ」
フィリップは、バーナード騎士団長のその台詞に、こんな時でありながらも、胸を高鳴らせてしまった。
なんて男らしい、格好いい人なのだろうと。
ただ、唖然としてしまったのが、バーナード騎士団長が手配した宿は、王都の中でも最上級と評される部類の宿で、更にはいわゆるVIPルームと言われる豪華な部屋を借りていたことだった。
「……こんな、すごい部屋」
思わずその部屋に入った途端、フィリップは小さく呟いてしまった。
宿泊初日に、バーナード騎士団長は、荷物を運ぶのを手伝うと言って、ついて来てくれた。
広々とした部屋には家具が備え付けられていて、バーナードは早速、荷物を解いて衣類を詰めている。
「とりあえず、一週間部屋を押さえている。工事が長引けば、宿泊を延長する話も宿の方には話をしている」
「私だけが泊まるために、こんないい部屋を押さえる必要はないです。今からでも、ランクを下げた部屋にしましょう」
「お前にふさわしい部屋を用意したのがいけないのか。お前は俺の伴侶だ。これは贅沢でも何でもない」
その言葉に、フィリップはぐっと言葉に詰まる。
そう、この目の前の男は王国の王立騎士団の騎士団長の地位にある。王都最上級の宿の最上の部屋に泊ったとしても、おかしな話ではない。
日頃、彼がフィリップの屋敷で、質素に暮らしているから、それを勘違いしそうになる。
本当の彼は、最上の品々に囲まれる贅沢な生活こそがふさわしいのだから。
「はい」
「不満か」
「いえ、その、慣れていないため戸惑っているのです」
「慣れろ」
「はい」
どこか戸惑った表情の副騎士団長の顎を持ち上げ、バーナードは口づけした。日頃の苦労を労わるような柔らかくも優しい口付けだった。
「せっかくの宿泊なのだから、楽しんで泊まってくれ」
「貴方は、一緒に泊まってくれないのでしょうか」
どこか不安そうな眼差しで、バーナード騎士団長を見つめるフィリップ。
その視線に、バーナードは弱かった。
「分かった。今日は一緒に泊まろう」
バーナードの言葉に、フィリップは一瞬で表情を明るくさせ、いそいそと彼の上着を受け取る。とても嬉しそうだった。
「有難うございます、バーナード」
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