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第二十四章 夢のこども
第十三話 妖精族の介入 (下)
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ランディア王国にあるレブラン教授の屋敷へ、すぐに妖精の国からご隠居様と呼ばれる大妖精が渡ってきた。
彼らにとっても、レブラン教授の手の者が、バーナード騎士団長を強襲したことは寝耳に水の話で、到底看過できないものであった。
ご隠居様の話では、妖精達に白い宝珠を、“神の欠片”を集めてくるように命じたが、まさかレブラン教授の金庫の中まで漁ってくるとは考えていなかったと、恐縮している様子であった。
その言葉に、レブランは不快な様子を隠さず、腕を組み、目の前の大妖精を睨むように見つめていた。
「……私の宝珠は返してもらえるのだろうな」
「他の宝珠と混ざってしまったため、お手元にあったものと同じものは返せないのじゃが、同じ分量返せるようにしよう」
レブランは大妖精の言葉に目をすがめた。
他の宝珠と混ざってしまった?
同じ分量を返せるようにする?
それはつまり、相当数、すでにこの目の前の大妖精が宝珠を収集していることを示している。
レブランが集めていたものよりも遥かに多い量を得ているのだろう。
妖精達は不思議な存在で、どこからともなく現れて、どこぞへと去っていく、神出鬼没の存在だった。
王族の一員である大妖精の命令があれば、小さな妖精達はわらわらと飛び立ち、数多の場所で白い宝珠を見つけ出し、持ち帰ってくるのだろう。
それこそ、誰の侵入も許さないようなレブランの金庫の中までもその小さな手を伸ばしたのだから。
「宝珠を集めている目的は何ですか」
レブランの問いに、妖精族のご隠居様と呼ばれる大妖精の老人は、好々爺然とした笑みを浮かべてこう答えた。
「レブラン殿と、一緒じゃよ。あの御方の復活じゃ」
あっさりと、その目的を明かした。
それには、レブランの方が動揺した。
「レブラン殿の元に、淫魔族の美しい若者がいる話は聞いておる」
ご隠居様は、悠然とした様子で語る。
「“淫魔の王女”位は、その者には降りなかったようじゃな。なれば、レブラン殿が宝珠を集めても意味のないこと。注ぐべき“器”が手元にないのじゃから」
レブランは聞き捨てならない言葉を聞いて、目を見開いた。
「まさか、貴方の元には“淫魔の王女”がいるのですか」
ご隠居様は、用意された茶を啜り、曖昧な笑みを浮かべる。
「注ぐべき“器”はあるとお伝えしようかのう」
まさか、妖精達の手元に“淫魔の王女”位を得た淫魔がいるとは考えてもいなかった、レブランは動揺した。
ましてや、レブランが考えていたことと同じことを、彼はすでに実行し始めているのだ。
冷静さを保とうとしながらも、レブランの言葉は少し震えていた。
「“淫魔の王女”の器は、どれほど埋まっているのでしょうか」
「まだ二割、三割というところじゃな。よって、レブラン殿にお返しする予定の宝珠も、器に注がせてもらえると助かるのじゃが」
長い間、彼の復活を願ってレブランは宝珠を探し求めていた。
膨大な資金と権力のすべてを注ぎ込み、時にその宝珠が埋め込まれた魔剣すらも、レブランは収集していた。
すべては、彼の蘇りのためだった。
どこまでも続く緑の草原に、髪を風に靡かせて立っていたあの方は
誰からも愛され、そしてその優しさゆえに
簡単に引き裂かれた。
たとえ、現存する欠片の全てを集めたとしても、元のあの方がそのまま戻って来ることはない。
それは理解している。
あの方の最期はひどい有様で、気が狂い、その魂ももはや元には戻らないと理解していた。
零れ落ちた水は、器の中にはもう、戻らないのである。
あの方の周りの者は、それでもあの方を惜しみ、何度も人の世界で輪廻を繰り返し、浄化されることを願い、その魂を小さく小さく砕いて、ばらまいた。
星のように瞬きながら、クルクルと回りながら落ちていく無数の欠片。
その何百、何千と砕かれた魂の欠片を集めることなど、無謀極まりないことであった。
けれど、もう一度あの方に会えるのなら
何をしても、何を犠牲にしても、会いたかった。
レブランの声が掠れて呟かれた。
「是非とも、協力させてもらいたい」
その言葉を予期していたこととはいえ、大妖精の老人は満足そうにうなずいていた。
「わかった」
彼らにとっても、レブラン教授の手の者が、バーナード騎士団長を強襲したことは寝耳に水の話で、到底看過できないものであった。
ご隠居様の話では、妖精達に白い宝珠を、“神の欠片”を集めてくるように命じたが、まさかレブラン教授の金庫の中まで漁ってくるとは考えていなかったと、恐縮している様子であった。
その言葉に、レブランは不快な様子を隠さず、腕を組み、目の前の大妖精を睨むように見つめていた。
「……私の宝珠は返してもらえるのだろうな」
「他の宝珠と混ざってしまったため、お手元にあったものと同じものは返せないのじゃが、同じ分量返せるようにしよう」
レブランは大妖精の言葉に目をすがめた。
他の宝珠と混ざってしまった?
同じ分量を返せるようにする?
それはつまり、相当数、すでにこの目の前の大妖精が宝珠を収集していることを示している。
レブランが集めていたものよりも遥かに多い量を得ているのだろう。
妖精達は不思議な存在で、どこからともなく現れて、どこぞへと去っていく、神出鬼没の存在だった。
王族の一員である大妖精の命令があれば、小さな妖精達はわらわらと飛び立ち、数多の場所で白い宝珠を見つけ出し、持ち帰ってくるのだろう。
それこそ、誰の侵入も許さないようなレブランの金庫の中までもその小さな手を伸ばしたのだから。
「宝珠を集めている目的は何ですか」
レブランの問いに、妖精族のご隠居様と呼ばれる大妖精の老人は、好々爺然とした笑みを浮かべてこう答えた。
「レブラン殿と、一緒じゃよ。あの御方の復活じゃ」
あっさりと、その目的を明かした。
それには、レブランの方が動揺した。
「レブラン殿の元に、淫魔族の美しい若者がいる話は聞いておる」
ご隠居様は、悠然とした様子で語る。
「“淫魔の王女”位は、その者には降りなかったようじゃな。なれば、レブラン殿が宝珠を集めても意味のないこと。注ぐべき“器”が手元にないのじゃから」
レブランは聞き捨てならない言葉を聞いて、目を見開いた。
「まさか、貴方の元には“淫魔の王女”がいるのですか」
ご隠居様は、用意された茶を啜り、曖昧な笑みを浮かべる。
「注ぐべき“器”はあるとお伝えしようかのう」
まさか、妖精達の手元に“淫魔の王女”位を得た淫魔がいるとは考えてもいなかった、レブランは動揺した。
ましてや、レブランが考えていたことと同じことを、彼はすでに実行し始めているのだ。
冷静さを保とうとしながらも、レブランの言葉は少し震えていた。
「“淫魔の王女”の器は、どれほど埋まっているのでしょうか」
「まだ二割、三割というところじゃな。よって、レブラン殿にお返しする予定の宝珠も、器に注がせてもらえると助かるのじゃが」
長い間、彼の復活を願ってレブランは宝珠を探し求めていた。
膨大な資金と権力のすべてを注ぎ込み、時にその宝珠が埋め込まれた魔剣すらも、レブランは収集していた。
すべては、彼の蘇りのためだった。
どこまでも続く緑の草原に、髪を風に靡かせて立っていたあの方は
誰からも愛され、そしてその優しさゆえに
簡単に引き裂かれた。
たとえ、現存する欠片の全てを集めたとしても、元のあの方がそのまま戻って来ることはない。
それは理解している。
あの方の最期はひどい有様で、気が狂い、その魂ももはや元には戻らないと理解していた。
零れ落ちた水は、器の中にはもう、戻らないのである。
あの方の周りの者は、それでもあの方を惜しみ、何度も人の世界で輪廻を繰り返し、浄化されることを願い、その魂を小さく小さく砕いて、ばらまいた。
星のように瞬きながら、クルクルと回りながら落ちていく無数の欠片。
その何百、何千と砕かれた魂の欠片を集めることなど、無謀極まりないことであった。
けれど、もう一度あの方に会えるのなら
何をしても、何を犠牲にしても、会いたかった。
レブランの声が掠れて呟かれた。
「是非とも、協力させてもらいたい」
その言葉を予期していたこととはいえ、大妖精の老人は満足そうにうなずいていた。
「わかった」
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