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【短編】
とんだ騒動 (5)
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一方、近衛騎士団に追われることになったディーターは、王宮に面している森の中へ駆け込むと同時に成獣の狼の姿を取っていた。
ある程度奥まった場所へ行くと、首輪を付けて可愛らしい仔犬の姿に変える。
こうなれば一安心である。
彼は、(早く近衛騎士団の建物に戻って、番のジェラルドの元へと帰らねば)と、もう頭の中は番のことでいっぱいである。
仔犬は勢いよく走りだし、今度は森から王宮の近衛騎士団の建物に戻ったところで、愛しの番のジェラルドが現れて、捕まえられる。仔犬のその首を掴んでジェラルドは持ち上げたのだ。
「………………………ディーター」
ぶらんとぶら下げられて、ジェラルドと仔犬は目を合わせる。
真っ白な近衛騎士の軍装姿の、麗しい騎士であるジェラルド。
いつも優しく抱き締め、抱き上げてくれるジェラルドが、その時はどこか怒っている様子であった。
その手にぶら下げられながら、(俺は番を怒らせるようなことをしただろうか)とディーターは首を傾げていた。
「君、どうして近衛の手配を受けているのかな」
弁解しようにも、仔犬の姿では人語を話すことはできない。
だから、尻尾を丸め、クゥンと情けなくも鳴くしかなかった。そして哀れそうな眼差しで、愛しい番の若者をじっと見つめるのだ。
まるでそれは(誤解だ。俺は無実なんだ)と弁解するようでもあった。
「それも、誰かを襲ったという話ではないか」
ディーターの目は大きく見開かれ、ブルブルブルと頭を振り続けている。
(絶対に違う、それは誤解だ)
そう、バート少年に飛び掛かったところで、他人に裸になった自分の姿を見られたから。
ただそれだけだった。
それに、他の人狼の番に手を出すなんて、想像するだけでも恐ろしいことになる(フィリップに殺される)。
絶対に、バートに手を出すなんてあり得ない!!
そう、ディーターの目はジェラルドに訴えていたが、果たしてその意を汲んでくれたのか、ジェラルドは深くため息をついて言った。
「…………早く家を買って、君にはそちらにいてもらわないとダメだね」
ディーターと一緒にいることは、ジェラルドにとっても大きな喜びであった。
しかし、仔犬から人の姿に変わるとこんな騒動を起こしてしまうなんて。頭が痛かった。
ディーターは反省したように、もう一度クゥンと鳴いて、ジェラルドの手に頭をすりつける。
仕方がないように、今は仔犬の姿をとるディーターを抱きしめるジェラルドだった。
そしてこの騒動から一週間も経たないうちに、ジェラルドは小さな家を購入し、そこで恋人のディーターと共に暮らし始めることになる。
ほとぼりが冷めるまで、家の中にいるように。
愛する番からそう厳しく注意されたディーターであった。
ディーターがジェラルドと共に暮らし始めた結果、近衛騎士団の騎士達から愛されていた黒い仔犬もまた、先に消えた仔犬のように、突然姿を消すことになった。そのため、近衛騎士団は「近衛の仔犬がいなくなった!!」と深い悲しみに包まれることになった。仔犬の首輪に付けられていた“王家のメダル”が近衛騎士団長のデスクの上にひっそりと置かれていたことから、覚悟の失踪ではないかと騎士達は囁いていたが、そんなことを言っている近衛騎士団の騎士達に対して、侍従や女官らからは「近衛は大丈夫か」と正気を疑うような視線で見られるのであった。
ある程度奥まった場所へ行くと、首輪を付けて可愛らしい仔犬の姿に変える。
こうなれば一安心である。
彼は、(早く近衛騎士団の建物に戻って、番のジェラルドの元へと帰らねば)と、もう頭の中は番のことでいっぱいである。
仔犬は勢いよく走りだし、今度は森から王宮の近衛騎士団の建物に戻ったところで、愛しの番のジェラルドが現れて、捕まえられる。仔犬のその首を掴んでジェラルドは持ち上げたのだ。
「………………………ディーター」
ぶらんとぶら下げられて、ジェラルドと仔犬は目を合わせる。
真っ白な近衛騎士の軍装姿の、麗しい騎士であるジェラルド。
いつも優しく抱き締め、抱き上げてくれるジェラルドが、その時はどこか怒っている様子であった。
その手にぶら下げられながら、(俺は番を怒らせるようなことをしただろうか)とディーターは首を傾げていた。
「君、どうして近衛の手配を受けているのかな」
弁解しようにも、仔犬の姿では人語を話すことはできない。
だから、尻尾を丸め、クゥンと情けなくも鳴くしかなかった。そして哀れそうな眼差しで、愛しい番の若者をじっと見つめるのだ。
まるでそれは(誤解だ。俺は無実なんだ)と弁解するようでもあった。
「それも、誰かを襲ったという話ではないか」
ディーターの目は大きく見開かれ、ブルブルブルと頭を振り続けている。
(絶対に違う、それは誤解だ)
そう、バート少年に飛び掛かったところで、他人に裸になった自分の姿を見られたから。
ただそれだけだった。
それに、他の人狼の番に手を出すなんて、想像するだけでも恐ろしいことになる(フィリップに殺される)。
絶対に、バートに手を出すなんてあり得ない!!
そう、ディーターの目はジェラルドに訴えていたが、果たしてその意を汲んでくれたのか、ジェラルドは深くため息をついて言った。
「…………早く家を買って、君にはそちらにいてもらわないとダメだね」
ディーターと一緒にいることは、ジェラルドにとっても大きな喜びであった。
しかし、仔犬から人の姿に変わるとこんな騒動を起こしてしまうなんて。頭が痛かった。
ディーターは反省したように、もう一度クゥンと鳴いて、ジェラルドの手に頭をすりつける。
仕方がないように、今は仔犬の姿をとるディーターを抱きしめるジェラルドだった。
そしてこの騒動から一週間も経たないうちに、ジェラルドは小さな家を購入し、そこで恋人のディーターと共に暮らし始めることになる。
ほとぼりが冷めるまで、家の中にいるように。
愛する番からそう厳しく注意されたディーターであった。
ディーターがジェラルドと共に暮らし始めた結果、近衛騎士団の騎士達から愛されていた黒い仔犬もまた、先に消えた仔犬のように、突然姿を消すことになった。そのため、近衛騎士団は「近衛の仔犬がいなくなった!!」と深い悲しみに包まれることになった。仔犬の首輪に付けられていた“王家のメダル”が近衛騎士団長のデスクの上にひっそりと置かれていたことから、覚悟の失踪ではないかと騎士達は囁いていたが、そんなことを言っている近衛騎士団の騎士達に対して、侍従や女官らからは「近衛は大丈夫か」と正気を疑うような視線で見られるのであった。
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