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【短編】
とんだ騒動 (3)
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セーラ妃といえば、エドワード王太子の正妃である。
彼女は長い金髪に豊満な肢体を持つ非常に美しい女性で、先日、エドワード王太子の初めての子を出産した。当然のことながら王太子の寵愛も深い。
“最強王”の呪いを受けた王太子の苦しみが癒されているのは、彼女の尽力あってのことであったため、王宮に居る女官や侍従達はセーラ妃を非常に歓迎していた。
だが、今年に入って王宮の別棟に新たに部屋が設けられた。どうもその部屋の主が殿下のご寵愛を受けるべき人物だという噂が流れた。以来、セーラ妃を慕う女官や侍従達は(セーラ妃殿下のライバルなのか?)と部屋の主のことを冷ややかに噂していた。噂をしていたのだが、部屋が完成した後も、その主が入宮する様子はない。立派な調度はもちろんのこと、部屋の主の服や帽子などが次々と部屋の中へと運び込まれるが、肝心の主が入る様子が見えなかったのだ。これは一体どういうことかと思い始めた時、ようやく部屋の主である少年が現れた。
現れると同時に、七日七晩に渡って王太子のご寵愛があった。
その間、セーラ妃の部屋には王太子が一切お渡りにならないことを知った女官らは、口惜しさに歯噛みをしていた。
殿下のご寵愛が過ぎる、待望の王子を産んだ妃をないがしろにするのは許されないと詰め寄る女官らを宥めたのが、侍従長であった。
あと数日でいなくなると告げられ、少年はその姿を王宮のその部屋の中に現すことは無くなった。
その後、少年の姿が現れたのは、何故か王宮の建物の外であり、何故か近衛騎士団の飼う仔犬と戯れた後に、姿を消してしまう様子だった。
なんとも奇妙なことだと、王宮に仕える女官らは思っていた。
セーラ妃は、少年のことが気になっていた。
セーラ妃は、自分が王宮へ入るよりも前に、その少年がエドワード王太子の寵愛を受けていたことを知っていた。
そしてどうもエドワード王太子の心の内に、少年が棲みついていることを感じていた。
(殿下はわたくしのことを大切にして下さっている)
そう、エドワード王太子はセーラ妃を大切にしてくれる。
子を産み、育てている彼女が困ることの無いように多くの女官でその周囲を固め、贅沢と言えるほど身の回りを整えてくれた。
女官らは、エドワード王太子は素晴らしい夫だと絶賛している。
実際、彼は金髪碧眼の素晴らしい美男子で、優しく賢い王太子であった。
これ以上望むことのできない、少女達の憧れる“王子様”を具現化したような人。
セーラは自分が幸運だったと思っている。
(“サキュバスの加護”を持つ女である自分は、普通の人生を歩むことは出来なかったはず。殿下と結婚して、こうして子を為し、幸せに暮らせているのも、殿下のおかげだ)
その彼が、密かに愛している少年のことを、かねてからセーラは気にしていた。
時に、“里帰り”という名目で、王太子を一人にして少年をおびき出そうと思うほどに。
(殿下の愛しているその少年に、一度でもいいから会ってみたい)
そう、会って話してみたい。
そう思いながらも、その機会は巡ってこなかった。少年は王宮内に部屋を頂いていながら、そこに住んでいる様子はなく、いつの間にか王宮に来ているかと思うと、消えているのだ。
この日、ようやく少年を捕まえる機会が訪れた。
彼が王宮の、与えられている部屋にいることを聞いたセーラは、この好機を逃してはならないと、すぐさま女官に手紙を託した。
「彼をお茶会に招待して下さい」
女官や侍従達は顔を見合わせながらも、妃の言葉に従い、慌ただしく準備を進めるのだった。
そして、バートのいる部屋へ、セーラ妃の手紙を持った女官が現れた場面になるのだ。
「セーラ妃殿下が、バート様と是非お茶を致したいというお話です」
恭しく手紙を差し出す。
侍従見習いのリュイが手紙を受け取った。
部屋の中で、椅子に座っていたバートはやって来た女官の言葉を聞いて、驚愕して茶色の目を見開いていた。
「…………は?」
手紙を受け取った後、リュイはその手紙をすぐにバートの元へ運び、今度はバートに手渡した。
「セーラ妃殿下からのお手紙です。お茶会のお誘いです」
バートが手紙を開封すると、中から流麗な文字で書かれた“お茶会の招待状”が出てきた。
時候の挨拶の後、同じ殿下に仕える者同士、是非とも交流をしたい旨が書かれている。
バートの手がブルブルと震える。
すぐさま、手紙をまた封筒の中に戻し、気を落ち着けるように大きくため息をついてテーブルの上に封筒を置いた。
部屋の椅子に座っているエドワード王太子は、彼に向けて意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「セーラとお茶会か。そなた達が交流を持つのはいいことだ」
「……………………セーラ妃殿下とお茶会など、とんでもありません」
何故、セーラ妃と交流を持たねばならぬのだとバートはエドワードを睨みつけた。
エドワード王太子はそんな少年の強い視線を無視して、リュイ達に命じた。
「バートの服を改めさせよ。妃殿下とのお茶会だ。ふさわしい恰好に着替えるべきであろう」
「「はい」」
リュイとラーナが頭を下げる横で、バートは椅子から立って部屋を後にしようとしたが、その腰を抱いてエドワードは彼を逃さないようにした。
「殿下!!」
「私もお茶会に参加してやろう」
エドワードはどう見ても、面白がっている様子であった。
もがく少年の耳元で小さく囁く。
「妃同士、交友を温めるべきだ」
「私は、殿下の妃ではありません!!」
キッパリとそう言うバートであったが、リュイとラーナは彼のために棚から服を運んで来て「これがいい」「いや、あれがいい」と言うように、着々と服を整えていくのであった。
何を考えているのだと、バートはエドワードを睨みつけていたのだが、エドワードはそんな視線など意に返さぬ様子で、バートの着替える様子を黙って眺めているのだった。
彼女は長い金髪に豊満な肢体を持つ非常に美しい女性で、先日、エドワード王太子の初めての子を出産した。当然のことながら王太子の寵愛も深い。
“最強王”の呪いを受けた王太子の苦しみが癒されているのは、彼女の尽力あってのことであったため、王宮に居る女官や侍従達はセーラ妃を非常に歓迎していた。
だが、今年に入って王宮の別棟に新たに部屋が設けられた。どうもその部屋の主が殿下のご寵愛を受けるべき人物だという噂が流れた。以来、セーラ妃を慕う女官や侍従達は(セーラ妃殿下のライバルなのか?)と部屋の主のことを冷ややかに噂していた。噂をしていたのだが、部屋が完成した後も、その主が入宮する様子はない。立派な調度はもちろんのこと、部屋の主の服や帽子などが次々と部屋の中へと運び込まれるが、肝心の主が入る様子が見えなかったのだ。これは一体どういうことかと思い始めた時、ようやく部屋の主である少年が現れた。
現れると同時に、七日七晩に渡って王太子のご寵愛があった。
その間、セーラ妃の部屋には王太子が一切お渡りにならないことを知った女官らは、口惜しさに歯噛みをしていた。
殿下のご寵愛が過ぎる、待望の王子を産んだ妃をないがしろにするのは許されないと詰め寄る女官らを宥めたのが、侍従長であった。
あと数日でいなくなると告げられ、少年はその姿を王宮のその部屋の中に現すことは無くなった。
その後、少年の姿が現れたのは、何故か王宮の建物の外であり、何故か近衛騎士団の飼う仔犬と戯れた後に、姿を消してしまう様子だった。
なんとも奇妙なことだと、王宮に仕える女官らは思っていた。
セーラ妃は、少年のことが気になっていた。
セーラ妃は、自分が王宮へ入るよりも前に、その少年がエドワード王太子の寵愛を受けていたことを知っていた。
そしてどうもエドワード王太子の心の内に、少年が棲みついていることを感じていた。
(殿下はわたくしのことを大切にして下さっている)
そう、エドワード王太子はセーラ妃を大切にしてくれる。
子を産み、育てている彼女が困ることの無いように多くの女官でその周囲を固め、贅沢と言えるほど身の回りを整えてくれた。
女官らは、エドワード王太子は素晴らしい夫だと絶賛している。
実際、彼は金髪碧眼の素晴らしい美男子で、優しく賢い王太子であった。
これ以上望むことのできない、少女達の憧れる“王子様”を具現化したような人。
セーラは自分が幸運だったと思っている。
(“サキュバスの加護”を持つ女である自分は、普通の人生を歩むことは出来なかったはず。殿下と結婚して、こうして子を為し、幸せに暮らせているのも、殿下のおかげだ)
その彼が、密かに愛している少年のことを、かねてからセーラは気にしていた。
時に、“里帰り”という名目で、王太子を一人にして少年をおびき出そうと思うほどに。
(殿下の愛しているその少年に、一度でもいいから会ってみたい)
そう、会って話してみたい。
そう思いながらも、その機会は巡ってこなかった。少年は王宮内に部屋を頂いていながら、そこに住んでいる様子はなく、いつの間にか王宮に来ているかと思うと、消えているのだ。
この日、ようやく少年を捕まえる機会が訪れた。
彼が王宮の、与えられている部屋にいることを聞いたセーラは、この好機を逃してはならないと、すぐさま女官に手紙を託した。
「彼をお茶会に招待して下さい」
女官や侍従達は顔を見合わせながらも、妃の言葉に従い、慌ただしく準備を進めるのだった。
そして、バートのいる部屋へ、セーラ妃の手紙を持った女官が現れた場面になるのだ。
「セーラ妃殿下が、バート様と是非お茶を致したいというお話です」
恭しく手紙を差し出す。
侍従見習いのリュイが手紙を受け取った。
部屋の中で、椅子に座っていたバートはやって来た女官の言葉を聞いて、驚愕して茶色の目を見開いていた。
「…………は?」
手紙を受け取った後、リュイはその手紙をすぐにバートの元へ運び、今度はバートに手渡した。
「セーラ妃殿下からのお手紙です。お茶会のお誘いです」
バートが手紙を開封すると、中から流麗な文字で書かれた“お茶会の招待状”が出てきた。
時候の挨拶の後、同じ殿下に仕える者同士、是非とも交流をしたい旨が書かれている。
バートの手がブルブルと震える。
すぐさま、手紙をまた封筒の中に戻し、気を落ち着けるように大きくため息をついてテーブルの上に封筒を置いた。
部屋の椅子に座っているエドワード王太子は、彼に向けて意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「セーラとお茶会か。そなた達が交流を持つのはいいことだ」
「……………………セーラ妃殿下とお茶会など、とんでもありません」
何故、セーラ妃と交流を持たねばならぬのだとバートはエドワードを睨みつけた。
エドワード王太子はそんな少年の強い視線を無視して、リュイ達に命じた。
「バートの服を改めさせよ。妃殿下とのお茶会だ。ふさわしい恰好に着替えるべきであろう」
「「はい」」
リュイとラーナが頭を下げる横で、バートは椅子から立って部屋を後にしようとしたが、その腰を抱いてエドワードは彼を逃さないようにした。
「殿下!!」
「私もお茶会に参加してやろう」
エドワードはどう見ても、面白がっている様子であった。
もがく少年の耳元で小さく囁く。
「妃同士、交友を温めるべきだ」
「私は、殿下の妃ではありません!!」
キッパリとそう言うバートであったが、リュイとラーナは彼のために棚から服を運んで来て「これがいい」「いや、あれがいい」と言うように、着々と服を整えていくのであった。
何を考えているのだと、バートはエドワードを睨みつけていたのだが、エドワードはそんな視線など意に返さぬ様子で、バートの着替える様子を黙って眺めているのだった。
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